斎藤茂吉の短歌 100選 -春夏秋冬-

夕焼け空

斎藤茂吉(さいとう もきち)は 精神科医を本業としながらも、生涯で 18,000首にも及ぶ短歌を創作した歌人でもありました。

第一歌集『赤光(しゃっこう)』から圧倒的な高い評価を受け、近代短歌の巨人と呼ばれることもあります。

今回は、茂吉の短歌の中から100首を集めました。日本の四季の素晴らしさを感じさせてくれるものばかりですので、是非これらをチェックしてみて下さい。

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目次

斎藤茂吉の短歌 100

春・夏・秋・冬に関して、それぞれ 25首で合計 100首ありますので、ゆっくり鑑賞してみて下さい。

 


  春  


 

あづさゆみ 春は寒けど日あたりの よろしき處つくづくし萌ゆ

【歌集】赤光

【補足】「處」の読みは「ところ」で、「つくづくし」はツクシ(土筆)の別名です。

「あづさゆみ(梓弓)」は「はる」などにかかる枕詞(まくらことば)です。

 

 

うぐひすは かなしき鳥か梅の樹に 来啼ける声を聞けど飽かなく

【歌集】白き山

 

 

うつつにし もののおもひを遂ぐるごと 春の彼岸に降れる白雪

【歌集】暁紅

【補足】「うつつ(現)」は夢・幻に対する「現実」のことで、正気な状態をいうこともあります。

 

 

うづたかく 生ひ古りにける青苔に 春雨ぞ降るあかときにして

【歌集】白桃

【補足】「あかとき(明時)」は「あかつき(暁)=夜が明ける頃」と同じです。

 

 

音たてて 山の峡よりいでてくる 雪解の水は岸を浸せり

【歌集】白桃

【補足】「雪解」の読みは「ゆきげ」です。「狭(きょう、はざま)」は「かい」という読み方もします。

 

 

かたまりて 土をやぶれる羊歯の芽の 巻葉かなしく春ゆかむとす

【歌集】ともしび

【補足】羊歯(しだ)はウラジロ、ゼンマイ、ワラビなどの羊歯類の植物の総称です。

 

 

擬寶珠も 羊歯も萌えつつゆく春の くれかかる庭ひとり見にけり

【歌集】白桃

【補足】「擬寶珠(ぎぼうし=擬宝珠)」はユリ科の多年草です。また、欄干の柱などに付けるネギの花の形をした飾りも擬宝珠(ぎぼうし、ぎぼし、ぎぼしゅ、ぎぼうしゅ)といいます。

 

 

来むかへる 春を浅みとけふ一日 板谷のやまに大雪ふれり

【歌集】白桃

 

 

声しげき 雲雀のこゑは中空に 聞きつつぞ行く黄なる蘆はら

【歌集】白桃

【補足】「雲雀」の読みは「ひばり」です。

 

 

しづかなる 空にもあるか春雲の たなびく極み鳥海が見ゆ

【歌集】白き山

【補足】鳥海山(ちょうかいさん)は山形県と秋田県にまたがる山で、出羽富士(でわふじ)とも呼ばれています。

 

 

白梅は 散りがたにして幾本か 立てる山峡われ行きにけり

【歌集】白桃

【補足】「散りがた(方)」とは、今まさに散ろうとしている状態を表現する言葉です。

 

 

ぬばたまの くらき夜すがら空ひくく 疾風は吹きて春来ぬらしも

【歌集】暁紅

【補足】「ぬばたまの」は夜、黒などにかかる枕詞です。

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のぼり行く 道のべにしてむらぎもの 心足らはむ山さくら花

【歌集】暁紅

 

 

春がすみ とほくながるる西空に 入日おほきくなりにけるかも

【歌集】あらたま

 

 

春風の 吹くことはげし朝ぼらけ 梅のつぼみは大きかりけり

【歌集】赤光

 

 

春川の ながれの岸に生ふる草 摘みてし食へば若やぐらしも

【歌集】暁紅

【補足】「若やぐ」は「若々しくなる」という意味です。

 

 

はるさめは 天の乳かも落葉松の 玉芽あまねくふくらみにけり

【歌集】赤光

【補足】「落葉松」の読みは「からまつ」で、「あまねく」は「すべて、もれなく」の意です。

 

 

春雨は くだちひそまる夜空より 音かすかにて降りにけるかも

【歌集】あらたま

【補足】「くだち(降ち)」とは、夜あるいは夜中を意味する言葉です。

 

 

春の雲 かたよりゆきし昼つかた とほき眞菰に雁しづまりぬ

【歌集】白桃

【補足】「昼つかた」は「昼ごろ」の意で、眞菰(まこも)はイネ科の大形多年草です。

 

 

はるの日の ながらふ光に青き色 ふるへる麦の嫉くてならぬ

【歌集】赤光

【補足】「ながらふ」の解釈は、「流れるように降り注ぐ」と私は考えます。

「嫉くて」の読みは「にくくて」です。

 

 

春の日は きらひわたりてみよしのの 吉野の山はふかぶかと見ゆ

【歌集】暁紅

【補足】「みよしのの」は吉野にかかる枕詞です。

 

 

ひむがしの 空よりつたふ春の日の 白き光にも馴れし寂しさ

【歌集】あらたま

【補足】「ひむがし」は「東(ひがし)」と同じです。

 

 

夕やみに 風たちぬればほのぼのと 躑躅の花は散りにけるかも

【歌集】赤光

 

 

わが友は 信濃の国にみまかりて ひたすら寂しこの逝春を

【歌集】ともしび

【補足】「みまかる(身罷る)」は「死ぬ」と同義です。

 

 

わが眠る 家の近くの杉森に ふくろふ啼けり春たつらむか

【歌集】白き山

満開の桜

 

 

 


  夏  


 

あかつきの 蝉しげく鳴く山のうへに 萬葉集の歌をかなしむ

【歌集】白桃

 

 

あつき日は 心ととのふる術もなし 心のまにまみだれつつ居り

【歌集】白桃

 

 

うつし世は 一夏に入りて吾がこもる 室の畳に 蟻を見しかな

【歌集】赤光

【補足】「うつし世」とは、現世(げんせ、げんせい=この世)のことをいいます。

 

 

蚊帳のなかに 放ちし 蛍夕されば おのれ光りて飛びそめにけり

【歌集】赤光

【補足】蚊帳(かや)は、蚊や虫などをさけるために吊るす網のことをいいます。

 

 

草づたふ 朝の蛍よみじかかる われのいのちを死なしむなゆめ

【歌集】あらたま

 

 

草むらに 蛍のしづむ宵やみを 時のま吾は歩みとどめつ

【歌集】白桃

【補足】「吾」の読みは「われ」で、「我」と同じです。

 

 

くれなゐの 牡丹の花は散りがたに むし暑き日は二日つづきぬ

【歌集】白桃

 

 

金堂に しまし吾等は居りにけり 山にとどろく雷聞きながら

【歌集】ともしび

【補足】金堂(こんどう)とは、寺院で本尊を安置するための建物をいい、本堂、仏殿(ぶつでん)と同義です。

 

 

さるすべりの くれなゐの花咲きそめて はや一とせの夏ふかむなり

【歌集】白桃

【補足】「一とせ」は一年、一年間の意です。

 

 

白雲は ひくくこごれば暁の 光さしつつ啼くほととぎす

【歌集】白桃

【補足】「こごる」は「固まる」の意です。

 

 

白たへの 沙羅の木の花くもり日の しづかなる庭に散りしきにけり

【歌集】ともしび

【補足】沙羅(しゃら)の花は「夏椿(なつつばき)」とも呼ばれます。沙羅双樹(しゃらそうじゅ)とは別の花です。

 

 

蝉のこゑ 波動をなして鳴きつぐを 聴けども飽かず比叡の山に

【歌集】ともしび

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高山の 尾根の矮木に蝉ひとつ 怪しく鳴きて吾に聞かしむ

【歌集】暁紅

【補足】「矮木(わいぼく)」とは、背の低い木のことをいいます。

 

 

夏ふけし 山のうへにて咲き散りし 沙羅の樹の花ひろひつつ居り

【歌集】白桃

 

 

虹たちし 空もありつつ北ぐにの とほき横手のかたに雨降る

【歌集】白桃

 

 

額より 汗のながるるあつき日も いつか過ぎむか晩蝉鳴くも

【歌集】白桃

【補足】晩蝉とは「ひぐらし(蜩)」のことです。

 

 

蛍火を ひとつ見いでて目守りしが いざ帰りなむ老の臥処に

【歌集】白き山

【補足】「臥処(ふしど)」は「寝床(ねどこ)」と同義です。

 

 

真夏の日 てりかがよへり渚には くれなゐの玉ぬれてゐるかな

【歌集】赤光

 

 

ま夏日の 日のかがやきに櫻實は 熟みて黒しもわれは食みたり

【歌集】赤光

【補足】「櫻實」の読みは「さくらみ(=桜実)」です。

 

 

まゐり来て 高野の山のくらやみに 仏法僧といふ鳥を聞く

【歌集】ともしび

【補足】「仏法僧」は「ぶっぽうそう」と読みます。

 

 

満ちわたる 夏のひかりとなりにけり 木曽路の山に雲ぞひそめる

【歌集】ともしび

 

 

目の前の 屋根瓦より照りかへす 初夏のひかりも心がなしも

【歌集】あらたま

 

 

山がひの 夏のゆふべに立つ風に 青くさやけき草々なびく

【歌集】ともしび

 

 

宵あさく ひとり籠ればうらがなし 雨蛙ひとつかいかいと鳴くも

【歌集】赤光

 

 

われ起きて あはれといひぬとどろける 疾風のなかに蝉は鳴かざり

【歌集】あらたま

林の中

 

 

 


  秋  


 

秋なればこほろぎの子の生れ鳴く冷たき土をかなしみにけり

【歌集】赤光

 

 

秋のかぜ 吹きてゐたれば遠かたの 薄のなかに曼珠沙華赤し

【歌集】赤光

【補足】「薄」の読みは「すすき」、「曼珠沙華」は「まんじゅしゃげ」と読みます。

曼珠沙華の花

曼珠沙華の花

 

 

あきの夜の さ庭に立てば土の蟲 音はほそほそと悲しらに鳴く

【歌集】赤光

 

 

いちめんの 唐辛子あかき畑みち 立てる童のまなこ小さし

【歌集】赤光

 

 

稲の花 咲くべくなりて白雲は 幾重の上にすぢに棚びく

【歌集】白き山

 

 

音立てて 茅がやなびける山のうへに 秋の彼岸のひかり差し居り

【歌集】ともしび

 

 

くれなゐの 蜻蛉ひかりて飛びみだる うづまきを見れどいまだ飽かずも

【歌集】あらたま

【補足】「蜻蛉」の読みは「とんぼ」です。

 

 

鶏頭の 古りたる紅の見ゆるまで わが庭のへに月ぞ照りける

【歌集】暁紅

 

 

霜ふりて 一もと立てる柿の木の 柿はあはれに黒ずみにけり

【歌集】赤光

【補足】「一もと」は「一本(いっぽん)」の意です。

 

 

澄みはてし 空の彼方にとほざかる 双子の山の秋のいろはや

【歌集】あらたま

【補足】「いろは(色葉)」とは、秋に木の葉が赤や黄色に変わること(=紅葉)をいいます。

 

 

谷あひの 杉むら照らす秋の日は かの川しもに落ちゆくらむか

【歌集】ともしび

 

 

小さくて くれなゐふかき鶏頭は 野分の風にうごきつつ居り

【歌集】白桃

【補足】「野分(のわき)」とは、秋に吹く強い風や台風のことをいいます。

 

 

照るばかり もみぢしたりしみ山木の もの葉のそよぐ音ぞ聞こゆる

【歌集】暁紅

 

 

にほいたる 紅葉のいろのすがるれば 雪ふるまへの山のしづまり

【歌集】暁紅

 

 

野分すぎて 寂びたる庭に薄の穂 うすくれなゐにいでそめしころ

【歌集】ともしび

 

 

野分だつ 空のはるけくたなびきて あさぎのいろや澄みわたりたる

【歌集】白桃

【補足】「あさぎ(浅葱)のいろ」とは、薄い藍色のことです。

 

 

花につく 赤小蜻蛉もゆふされば 眠りにけらしこほろぎのこゑ

【歌集】赤光

 

 

ひさかたの 天より露の降りたるか 一夜のうちに萩が花咲く

【歌集】暁紅

【補足】「ひさかたの」は天(あま、あめ)にかかる枕詞です。

 

 

鳳仙花 かたまりて散るひるさがり つくづくとわれ帰りけるかも

【歌集】赤光

【補足】「鳳仙花」の読みは「ほうせんか」です。

 

 

星おほき 花原くれば露は凝り みぎりひだりにこほろぎ鳴くも

【歌集】赤光

 

 

もみぢ葉の からくれなゐの溶くるまで 山の光はさしわたりけり

【歌集】白き山

 

 

もみぢばの 過ぎしを思ひ繁き世に 生きつるなべに悲しみにけり

【歌集】赤光

 

 

山草に 秋風ふけばかすかなる 花もけふこそ目にたちにけれ

【歌集】暁紅

 

 

よもすがら 野分の風は吹けれども 蟋蟀のこゑやむときもなし

【歌集】白桃

 【補足】「よもすがら」とは「一晩中、夜通し」という意味です。「蟋蟀」の読みは「こおろぎ」です。

 

 

わがこころ いつしか和みあかあかと 冴えたる月ののぼるを見たり

【歌集】ともしび

【補足】「和み」の読みは「なごみ」です。

盃に映る月

 

 

 


  冬  


 

うつくしき いろに染まりて冬の海の うへ片寄りに雲をさまりぬ

【歌集】暁紅

 

 

おのづから あらはれ迫る冬山に しぐれの雨の降りにけるかも

【歌集】あらたま

 

 

寒水に 幾千といふ鯉の子の ひそむを見つつ心なごまむ

【歌集】ともしび

 

 

きさらぎの 寒かりし日とおもひしに 夜すがら吹きぬなま温き風

【歌集】白桃

 

 

こがらしも 今は絶えたる寒空より きのふも今日も月の照りくる

【歌集】白桃

 

 

しづかなる 冬木のなかのゆづり葉の にほふ厚葉に紅のかなしさ

【歌集】あらたま

 

 

白樺の 落葉かたまりひとところ 明るみゐるはしづかなるもの

【歌集】白桃

 

 

白砂の 雪のつもりてしづかなる 池のみぎはに鶴がねきこゆ

【歌集】暁紅

 

 

しろがねの 雪ふる山に人かよふ 細ほそとして路見ゆるかな

【歌集】赤光

 

 

空の雲 うつろふなべに降積みし 雪はまばゆし日を照りかへす

【歌集】白桃

 

 

ひさかたの 天の白雪ふりきたり 幾とき経ねばつもりけるかも

【歌集】赤光

 

 

ひひらぎの 香にたつ花を身近くに 置かむともせず冬深みゆく

【歌集】暁紅

 

 

福寿草を 縁のひかりに置かしめて わが見つるときに心は和ぎぬ

【歌集】白桃

 

 

冬がれし 岡の起伏も見えずなり ひむがしの空うみのうへの雲

【歌集】暁紅

 

 

ふゆがれの 山のあひだにわれ憩ふ 吹きくる山風のおとを聞きつつ

【歌集】白桃

 

 

冬草の みどりにさせる日の光 遊びて舞へる蟲に閑なし

【歌集】暁紅

 

 

冬木立 いでつつ来れば原にしも まどかに雪は消えのこりたる

【歌集】白桃

 

 

冬の夜の 月の光のあらなくに 天の原とほく冴えわたりけり

【歌集】暁紅

 

 

冬の夜は 更けわたりつつ吾がそばに 置き乱したる書を片づく

【歌集】白桃

 

 

まどかにも 照りくるものか歩みとどめて 吾の見てゐる冬の夜の月

【歌集】白桃

【補足】「まどか(円か)」は穏やかな様子を表現する言葉です。

 

 

雪ふりて 白き山よりいづる日の 光に今朝は照らされてゐぬ

【歌集】白き山

 

 

ゆふされば 大根の葉にふる時雨 いたく寂しく降りにけるかも

【歌集】あらたま

【補足】「ゆふされば」は「夕方になると」の意です。

 

 

ゆふまぐれ くろくなりたる灰に降る 時雨の雨はさむくもあるか

【歌集】ともしび

【補足】「ゆふまぐれ(夕間暮れ)」とは、夕方の薄暗いこと、その頃をいいます。

 

 

わが友と 低きこゑにて話し行く 鎌倉のうみの冬の夜の月

【歌集】白桃

冬木立

 

 

われひとり ねむらむとしてゐたるとき 外はこがらしの行くおときこゆ

【歌集】赤光

 

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