冬の短歌 ベスト30!【保存版】
冬という季節は、厳しい寒さのせいか他の季節と違って苦手とする人も多いかもしれません。しかし、秋から冬へと移っていく時期の、何ともいえない切ないような風景には特別なものを感じることができます。
また冬は、寒さのなかで年の暮れ、お正月といった一年のうちで最も大事な行事がある季節でもあります。
このページには、冬のイメージを持った短歌を集めてみました。是非、これらをしみじみと味わってみてください。
目次
- 1 冬の短歌について
- 2 冬の短歌 ベスト30
- 2.1 朝清め 今せし庭に山茶花(さざんか)の いささか散れる人の心や
- 2.2 あしたより 日かげさしいる枕べの 福寿草の花皆開きけり
- 2.3 あらたまの 年の若水くむ今朝は そぞろにものの嬉しかりけり
- 2.4 いにしへの これの狩場の枯尾花 きたり遊びてひと日暮せり
- 2.5 裏山の 冬木にそそぐさむ時雨見て ゐる程にいやさびしもよ
- 2.6 かぎりなく 潮騒とよむ冬の日の 砂山かげを歩みつつ居り
- 2.7 かれてたつ ただ一もともさびしきは 嵐の庭の尾花なりけり
- 2.8 寒月ガ カカレバ君ヲ シヌブカナ アシタカヤマノ フモトニ住マウ
- 2.9 草まくら 時雨ぞ寒きわが友の なさけの羽織いただきて着む
- 2.10 こころよき 寝覚なるかも冬の夜の あかつきの月玻璃窓に見ゆ
- 2.11 寂しくて 布団の上ゆ仰ぎ見る 短日の陽は傾きにけり
- 2.12 静まらぬ こころ寂しも枇杷(びわ)の花 咲き篭(こも)りたる園の真昼に
- 2.13 白樫(しらかし)の 山茶花のやや茂りたる ちひさき庭の病院のまど
- 2.14 しらしらと 氷かがやき千鳥なく 釧路の海の冬の月かな
- 2.15 水盤に わが頬をうつす若水を また新しき涙かと見る
- 2.16 ちよろづの 金皷うつなり冬の海 北陸道を取らむとするや
- 2.17 七草の なづなすずしろたたく音 高く起れり七草けふは
- 2.18 野の中に 暮るる一つ家いやましに 凩(こがらし)のなかに静もれるかも
- 2.19 初春の うら白の葉やかけなまし 少し恨みのまじる心に
- 2.20 春立つを よろこぶ人に似る霰(あられ) 少し落せる正月の空
- 2.21 一人して 二階を戸ざすたそがれの 霙の雨は雪となりをり
- 2.22 枇杷の花 冬木のなかににほへるを この世のものと今こそは見め
- 2.23 ふとぶとと 老いたる公孫樹の下かげに われはたたずむこの年のくれ
- 2.24 冬枯の 野に向く窓や夕ぐれの 寒さ早かり日は照しつつ
- 2.25 冬の雨 慄へて降れるそればかり 心をぞ引くうき淋しき日
- 2.26 冬の日の 光明るむ籠のなかに 寂しきものか小鳥のまなこ
- 2.27 冬の日の み空に雲の動きゐて 仰げば松の枝のま黒さ
- 2.28 まばらなる 冬木林にかんかんと 響かんとする青空のいろ
- 2.29 身にしみて 寒けかりけり色かへぬ 松にもかよふ木枯のこゑ
- 2.30 やどり木の ちひさき枝葉老松の こずゑに見えてゆらぐ冬の日
冬の短歌について
「冬」と関連がない歌もあるかもしれませんが、私が冬を想起するものを選びました。「字余り」、「字足らず」の歌は選んでいません。
並んでいる順番は、短歌の文字の五十音順です。
冬の短歌 ベスト30
朝清め 今せし庭に山茶花(さざんか)の いささか散れる人の心や
【作者】伊藤佐千夫(いとう さちお)
【補足】「朝清め」とは、朝の掃除のことです。
あしたより 日かげさしいる枕べの 福寿草の花皆開きけり
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
【補足】「あした」は「朝(あさ)」の意味です。
あらたまの 年の若水くむ今朝は そぞろにものの嬉しかりけり
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
【補足】「あらたまの」は枕詞(まくらことば)で、「年」「月」「日」「春」などにかかります。「若水(わかみず)」は元日の朝に初めて汲む水のことで、「そぞろに」は「なんとなく」という意味です。
いにしへの これの狩場の枯尾花 きたり遊びてひと日暮せり
【作者】中村憲吉(なかむら けんきち)
【補足】憲吉は伊藤佐千夫(いとう さちお)に師事し、斎藤茂吉や島木赤彦らと交流がありました。肺結核のために亡くなりました。
裏山の 冬木にそそぐさむ時雨見て ゐる程にいやさびしもよ
【作者】木下利玄(きのした りげん)
【補足】時雨(しぐれ)とは、降ったり止んだりする雨のことで、主に秋から冬にかけてのものをいいます。「もよ」は強い感動や詠嘆を表わします。
かぎりなく 潮騒とよむ冬の日の 砂山かげを歩みつつ居り
【作者】土田耕平(つちだ こうへい)
【補足】「潮騒(しおさい)とよむ」とは、「波の音が響きわたる」という意味です。
かれてたつ ただ一もともさびしきは 嵐の庭の尾花なりけり
【作者】樋口一葉
【補足】「一もと」とは、草や木などの一本(いっぽん)のことです。尾花(おばな)は「ススキ」の別名で、見た目が馬などの尾に似ていることから、こう呼ばれます。
寒月ガ カカレバ君ヲ シヌブカナ アシタカヤマノ フモトニ住マウ
【作者】井上靖(いのうえ やすし)
【補足】井上靖は、1950年に芥川賞を受賞している小説家です。「寒月ガ…」は自伝的長編小説『あすなろ物語』に含まれているもので、「シヌブ」は「シノブ(忍ぶ)」と同じです。
また、愛鷹山(あしたかやま)は士山の南麓にある山の名前です。
草まくら 時雨ぞ寒きわが友の なさけの羽織いただきて着む
【作者】土田耕平
【補足】耕平は島木赤彦に師事しました。歌人であり、童話作家でもありました。18歳のときに両親を失っています。
こころよき 寝覚なるかも冬の夜の あかつきの月玻璃窓に見ゆ
【作者】若山牧水(わかやま ぼくすい)
【補足】玻璃窓(はりまど)とは、ガラス窓のことです。
寂しくて 布団の上ゆ仰ぎ見る 短日の陽は傾きにけり
【作者】島木赤彦
【補足】歌中の「ゆ」は、「~より」を意味する格助詞(かくじょし)です。
静まらぬ こころ寂しも枇杷(びわ)の花 咲き篭(こも)りたる園の真昼に
【作者】若山牧水
【補足】牧水は情熱的な恋をしたことでも有名です。
白樫(しらかし)の 山茶花のやや茂りたる ちひさき庭の病院のまど
【作者】若山牧水
【補足】歌集『秋風の歌』に収められた歌です。
しらしらと 氷かがやき千鳥なく 釧路の海の冬の月かな
【作者】石川啄木(いしかわ たくぼく)
【補足】初出は「しらしらと 氷かがやき千鳥なく 釧路の海も思出にあり」でしたが、後に歌集『一握の砂』において「海の冬の月かな」に改作されました。
水盤に わが頬をうつす若水を また新しき涙かと見る
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
【補足】水盤(すいばん)とは、陶器・鉄製の底が浅い容器のことで、いけ花などに使います。
ちよろづの 金皷うつなり冬の海 北陸道を取らむとするや
【作者】与謝野晶子
【補足】ちよろづ(千万)とは、数が限りなく多いことを表現する言葉です。金皷(きんこ)とは、鉦(かね、しょう)と太鼓(たいこ)のことをいいます。
七草の なづなすずしろたたく音 高く起れり七草けふは
【作者】若山牧水
【補足】(春の)七草とは、次の7つです。
- せり
- なずな
- ごきょう
- はこべら
- ほとけのざ
- すずな
- すずしろ
野の中に 暮るる一つ家いやましに 凩(こがらし)のなかに静もれるかも
【作者】島木赤彦
【補足】凩(木枯らし)は、秋から冬にかけて吹く、北からの強い風のことです。
初春の うら白の葉やかけなまし 少し恨みのまじる心に
【作者】与謝野晶子
【補足】晶子が亡くなる直前に病床で書いた短歌の草稿が、2014年に発見されています。
春立つを よろこぶ人に似る霰(あられ) 少し落せる正月の空
【作者】与謝野晶子
【補足】「春立つ」とは、「春(の季節)になる、立春になる」という意味です。
一人して 二階を戸ざすたそがれの 霙の雨は雪となりをり
【作者】島木赤彦
【補足】「霙」の読み方は「みぞれ」です。
枇杷の花 冬木のなかににほへるを この世のものと今こそは見め
【作者】斎藤茂吉(さいとう もきち)
ふとぶとと 老いたる公孫樹の下かげに われはたたずむこの年のくれ
【作者】斎藤茂吉
【補足】「公孫樹」の読み方は「いちょう(=銀杏)」です。
冬枯の 野に向く窓や夕ぐれの 寒さ早かり日は照しつつ
【作者】島木赤彦
【補足】赤彦は童謡も手がけ、『赤彦童謡集』『第二赤彦童謡集』『第三赤彦童謡集』を刊行しています。
冬の雨 慄へて降れるそればかり 心をぞ引くうき淋しき日
【作者】与謝野晶子
【補足】「慄へて」の読み方は「ふるえて」です。
冬の日の 光明るむ籠のなかに 寂しきものか小鳥のまなこ
【作者】島木赤彦
【補足】「まなこ(眼)」は「目(め)、目玉(めだま)」のことをいいます。
冬の日の み空に雲の動きゐて 仰げば松の枝のま黒さ
【作者】若山牧水
【補足】「み空(=御空)」とは、空の美称です。
まばらなる 冬木林にかんかんと 響かんとする青空のいろ
【作者】島木赤彦
身にしみて 寒けかりけり色かへぬ 松にもかよふ木枯のこゑ
【作者】樋口一葉
【補足】「寒けかりけり」は、「寒々としている、寒そうだ」の意です。
やどり木の ちひさき枝葉老松の こずゑに見えてゆらぐ冬の日
【作者】若山牧水
【補足】老松(おいまつ)とは、長い年月が経った松のことをいいます。
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