冬の和歌 20選 【現代語訳】付き
冬を代表する風物といえば、やはり雪が思い浮かびます。その美しい白さは、いくら眺めていても飽きることがありません。
そして古くから、人々は雪によって動かされた心を歌に込めて表現してきました。
このページには、冬の和歌と呼ぶにふさわしいものを集めました。これらはいずれも冬が持っている雰囲気に満ちあふれたものなので、是非とも味わってみて下さい。
目次
- 1 冬の和歌について
- 2 冬の和歌 20選
- 2.1 沫雪の このころ継ぎてかく降らば 梅の初花散りか過ぎなむ
- 2.2 沫雪の 庭に降りしき寒き夜を 手枕まかず一人かも寝む
- 2.3 沫雪の ほどろほどろに降りしけば 奈良の都し思ほゆるかも
- 2.4 岩間には 氷のくさびうちてけり 玉ゐし水もいまはもりこず
- 2.5 思ひかね 妹がりゆけば冬の夜の 川風さむみ千鳥なくなり
- 2.6 唐錦 枝にひとむらのこれるは 秋のかたみをたたぬなりけり
- 2.7 雲はらふ 比良の嵐に月さえて 氷かさぬる真野のうら波
- 2.8 木の葉のみ 散るかと思ひし時雨には 涙もたへぬものにぞありける
- 2.9 この雪の 消け残る時にいざ行かな 山橘の実の照るも見む
- 2.10 冴えくらす 都は雪もまじらねど 山の端しろきゆふぐれの雨
- 2.11 滝の糸は みなとぢつらむ吉野山 雪のたかさに音をかへつつ
- 2.12 竹の葉に あられ降るなりさらさらに 独りは寝ぬべき心地こそせね
- 2.13 冬ごもり 思ひかけぬを木の間より 花とみるまで雪ぞふりける
- 2.14 冬をあさみ まだき時雨とおもひしを たえざりけりな老の涙も
- 2.15 み吉野の 山の白雪つもるらし 古里さむくなりまさるなり
- 2.16 み吉野の山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれもせぬ
- 2.17 見わたせば 松の葉しろき吉野山 いく世つもれる雪にかあるらむ
- 2.18 もみぢ葉も ましろに霜のおける朝は 越の白嶺ぞ思ひやらるる
- 2.19 やたの野に 浅茅色づくあらち山 峯のあは雪さむくぞあるらし
- 2.20 雪ふりて人もかよはぬ道なれやあとはかもなく思ひ消ゆらむ
冬の和歌について
雪、氷、時雨などのように、冬に関する風物などが詠まれている和歌を 20首を選び、五十音順に並べました。冬特有の美しさを見事に表現したものばかりですので、是非チェックしてみて下さい。
なお、それぞれの歌には現代語訳を付けましたが、これは私の意訳であることをお断りしておきます。一般的な解釈、通釈とは異なるものもあることを何卒ご了承ください。
冬の和歌 20選
沫雪の このころ継ぎてかく降らば 梅の初花散りか過ぎなむ
【現代語訳】沫雪(あわゆき=泡雪)がこの頃のようにこんなに降ったら、初めて咲いた梅の花は散ってしまうだろうか
【作者】大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)
【採録】万葉集(まんようしゅう)
沫雪の 庭に降りしき寒き夜を 手枕まかず一人かも寝む
【現代語訳】沫雪が庭に降りしきる寒い夜を、手枕をしないで一人で寝るのだろうか
【作者】大伴家持(おおとものやかもち)
【採録】万葉集
【補足】家持は三十六歌仙の一人で、百人一首に次の歌が選ばれています。
鵲(かささぎ)の 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
沫雪の ほどろほどろに降りしけば 奈良の都し思ほゆるかも
【現代語訳】泡雪がはらはらと降っていると、奈良の都が思われるなあ
【作者】大伴旅人(おおとものたびと)
【採録】万葉集
岩間には 氷のくさびうちてけり 玉ゐし水もいまはもりこず
【現代語訳】岩の間には氷の「くさび」が打ってあるのだなあ、玉になっていた水も今は漏れてこない
【作者】曾禰好忠(そねのよしただ)
【採録】後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)
思ひかね 妹がりゆけば冬の夜の 川風さむみ千鳥なくなり
【現代語訳】(恋しく)思いかねて愛しい人のもとへ行くと、冬の夜の川風が寒く千鳥(ちどり)が鳴いている
【作者】紀貫之(きのつらゆき)
【採録】拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)
唐錦 枝にひとむらのこれるは 秋のかたみをたたぬなりけり
【現代語訳】(美しい)紅葉が枝に一むら残っているのは、秋の形見を絶やしていないのだなあ
【作者】僧正遍昭(そうじょうへんじょう)
【採録】拾遺和歌集
【補足】遍照は六歌仙、三十六歌仙の一人です。小野小町とも歌のやり取りをしています。
雲はらふ 比良の嵐に月さえて 氷かさぬる真野のうら波
【現代語訳】雲を払う比良の嵐に月は冴えて、氷を重ねるように打ち寄せる真野の浦の波
【作者】源経信(みなもとのつねのぶ)
【採録】経信集(つねのぶしゅう)
木の葉のみ 散るかと思ひし時雨には 涙もたへぬものにぞありける
【現代語訳】木の葉だけが散るかろ思っていた時雨(しぐれ)は、涙もたえられないものであった
【作者】源俊頼(みなもとのとしより、しゅんらい)
【採録】千載和歌集(せんざいわかしゅう)
この雪の 消け残る時にいざ行かな 山橘の実の照るも見む
【現代語訳】この雪が消え残っているうちに、いざ行こう、山橘(やまたちばな=藪柑子:やぶこうじ)の実が照るのを見よう
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
冴えくらす 都は雪もまじらねど 山の端しろきゆふぐれの雨
【現代語訳】冴えて(日が)暮れた都では、雪は混じらないけれども、山の端が白くなるような夕暮れの雨(が降っている)
【作者】藤原定家(ふじわらのさだいえ、ていか)
【採録】続古今和歌集(しょくこきんわかしゅう)
滝の糸は みなとぢつらむ吉野山 雪のたかさに音をかへつつ
【現代語訳】滝の糸(のような流れ)は、みな閉じられてしまったのだろう。吉野山の(積もっている)雪の高さによって(滝の)音が変わっている
【作者】中務(なかつかさ)
【採録】中務集(なかつかさしゅう)
【補足】中務は三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人です。
竹の葉に あられ降るなりさらさらに 独りは寝ぬべき心地こそせね
【現代語訳】竹の葉に霰が降りかかり、さらさらと(音がする)。一人で寝る気持ちにはなれない
【作者】和泉式部(いずみしきぶ)
【採録】和泉式部続集(いずみしきぶぞくしゅう)
【補足】和泉式部は中古三十六歌仙の一人です。
冬ごもり 思ひかけぬを木の間より 花とみるまで雪ぞふりける
【現代語訳】冬ごもりをして思いもかけなかったのに、木々の間から花(のよう)に見えるほど雪が降っている
【作者】紀貫之
【採録】古今和歌集(こきんわかしゅう)
冬をあさみ まだき時雨とおもひしを たえざりけりな老の涙も
【現代語訳】冬も浅いのでまだ時雨ではないと思うのだが、絶えない(で降っている)なあ。(私の)老いの涙も(同じだ)
【作者】清原元輔(きよはらのもとすけ)
【採録】新古今和歌集
【補足】清原元輔は清少納言(せいしょうなごん)の父親です。
み吉野の 山の白雪つもるらし 古里さむくなりまさるなり
【現代語訳】吉野の山では白雪が積もっているようだ。故郷は一層寒くなっているだろう
【作者】坂上是則(さかのうえのこれのり)
【採録】古今和歌集
【補足】坂上是則は三十六歌仙の一人で、蹴鞠(けまり=まりを蹴る貴族の遊び)が得意で、天皇の御前 206回続けて蹴って一度も落とさなかったという話があります。
み吉野の山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれもせぬ
【現代語訳】吉野の山の白雪を踏み分けて入っていった人の音信もなくなってしまった
【作者】壬生忠岑(みぶのただみね)
【採録】古今和歌集
【補足】壬生忠岑は三十六歌仙の一人です。
見わたせば 松の葉しろき吉野山 いく世つもれる雪にかあるらむ
【現代語訳】見渡せば松の葉が白い吉野山。どれほどの間積もった雪なのだろうか
【作者】平兼盛(たいらのかねもり)
【採録】拾遺和歌集
もみぢ葉も ましろに霜のおける朝は 越の白嶺ぞ思ひやらるる
【現代語訳】紅葉した葉にも真っ白に霜が降りた朝は、越の白嶺(こしのしらね=加賀の白山:はくさんの古い呼び名)が思い出されることだ
【作者】和泉式部
【採録】和泉式部続集
やたの野に 浅茅色づくあらち山 峯のあは雪さむくぞあるらし
【現代語訳】矢田の野に浅茅浅茅(あさじ)が色付いている。愛発山(あらちやま)の峰の泡雪はさぞ冷たいのだろう
【作者】柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
【採録】新古今和歌集
雪ふりて人もかよはぬ道なれやあとはかもなく思ひ消ゆらむ
【現代語訳】雪が降って人が通らない道になったなあ。跡も残らずに(私の)思いは消えてしまうのだろう
【作者】凡河内躬恒(おうしこうちのみつね)
【採録】古今和歌集
【補足】凡河内躬恒は三十六歌仙の一人です。
※いわゆる「有名な和歌」と言われているものは下のページで選びましたので、そちらも是非ご覧になってみてください。
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