源氏物語の和歌 20選 【現代語訳】付き
和歌を詠むということは、かつては『たしなみ』とされていました。また、和歌は男女が自分の思いを相手に伝えるための手立てでもありました。
そして、日本文学を代表する『源氏物語』には約 800首の和歌が含まれています。これらからは、男女の恋の駆け引きといったものも読み取ることができます。
そこで、このページには源氏物語の中で詠まれている和歌を 20首集めてみました。平安の香りが感じられる歌を、是非とも鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 源氏物語の和歌について
- 2 源氏物語の和歌 20首
- 2.1 琴の音も 月もえならぬ宿ながら つれなき人を引きやとめける
- 2.2 逢ふまでの 形見ばかりと見しほどに ひたすら袖の朽ちにけるかな
- 2.3 見てもまた 逢ふ夜まれなる夢のうちに やがてまぎるる我が身ともがな
- 2.4 晴れぬ夜の 月待つ里を思ひやれ 同じ心にながめせずとも
- 2.5 世に知らぬ 心地こそすれ有明の 月のゆくゑをそらにまがへて
- 2.6 別れても 影だにとまるものならば 鏡を見ても慰めてまし
- 2.7 うちつけの 別れをおしむかごとにて 思はむ方にしたひやはせぬ
- 2.8 契りしに 変はらぬことの調べにて 絶えぬ心のほどは知りきや
- 2.9 見しおりの 露忘られぬあさがほの 花のさかりはすぎやしぬらん
- 2.10 紫の ゆゑに心をしめたれば 淵に身投げんことや惜しけき
- 2.11 風騒ぎ むら雲迷ふ夕べにも 忘るるまなく忘られぬ君
- 2.12 同じ野の 露にやつるる藤袴 あはれはかけよかことばかりも
- 2.13 香ばかりは 風にもつてよ花の枝に 立ち並ぶべき匂ひなくとも
- 2.14 つれなさは 憂き世の常になりゆくを 忘れぬ人や人にことなる
- 2.15 目に近く 移れば変はる世の中を 行く末遠く頼みけるかな
- 2.16 わが身こそ あらぬさまなれそれながら そらおぼれする君は君なり
- 2.17 わが宿は 花もてはやす人もなし 何にか春のたづね来つらむ
- 2.18 本つ香の 匂へる君が袖触れば 花もえならぬ名をや散らさむ
- 2.19 人はみな 花に心を移すらむ 一人ぞ惑ふ春の夜の闇
- 2.20 目の前に この世を背く君よりも よそに別るる魂ぞ悲しき
源氏物語の和歌について
源氏物語の中の和歌を 20首を選び、物語の流れに沿って並べました。源氏物語の世界観を支えている素晴らしい和歌を是非とも味わってみて下さい。
なお、それぞれの歌には現代語訳を付けましたが、これは私の意訳であることをお断りしておきます。一般的な解釈、通釈とは異なるものもあることを何卒ご了承ください。
源氏物語の和歌 20首
琴の音も 月もえならぬ宿ながら つれなき人を引きやとめける
【現代語訳】琴の音も月も(言葉にできないほど)素晴らしい家ですが、つれない(冷たい、薄情な)人を引きとめられたのでしょうか(いや、そうではなかったのでしょう)
【帖】帚木(ははきぎ) 2
逢ふまでの 形見ばかりと見しほどに ひたすら袖の朽ちにけるかな
【現代語訳】(次に)逢うまでの形見くらいに思っていましたが、すっかり袖が(涙で)朽ち(果て)てしまいました
【帖】夕顔(ゆうがお) 4
見てもまた 逢ふ夜まれなる夢のうちに やがてまぎるる我が身ともがな
【現代語訳】(たとえ)お目にかかれても、また逢える夜というのは稀(まれ)で夢の中にいるようで、そのまま(夢に)紛れる我が身となってしまいたいものです
【帖】若紫(わかむらさき) 5
晴れぬ夜の 月待つ里を思ひやれ 同じ心にながめせずとも
【現代語訳】(雲が)晴れない夜の月を待つ里を思いやって下さい、(それと)同じ心で眺めないにしても…
【帖】末摘花(すえつむはな) 6
世に知らぬ 心地こそすれ有明の 月のゆくゑをそらにまがへて
【現代語訳】(この)世で感じたことがない心地がする、有明の月の行方を空で見失ってしまって
【帖】花宴(はなのえん) 8
別れても 影だにとまるものならば 鏡を見ても慰めてまし
【現代語訳】別れても(せめて)影だけでも残っているものならば、鏡を見て慰められるでしょうが…
【帖】須磨(すま) 12
うちつけの 別れをおしむかごとにて 思はむ方にしたひやはせぬ
【現代語訳】薄っぺらな、別れを惜しむようなことをおっしゃって、思っている人の方へいらっしゃるのではないですか
【帖】澪標(みおつくし) 14
契りしに 変はらぬことの調べにて 絶えぬ心のほどは知りきや
【現代語訳】約束したように、変わらない琴の調べのように、絶えることがない(私の)心のほどを分かっていただけましたか
【帖】松風(まつかぜ) 18
見しおりの 露忘られぬあさがほの 花のさかりはすぎやしぬらん
【現代語訳】(かつて)お会いしたときのことが少しも忘れられません。朝顔の花の盛りは過ぎてしまったのでしょうか
【帖】朝顔(あさがお) 20
紫の ゆゑに心をしめたれば 淵に身投げんことや惜しけき
【現代語訳】縁(ゆかり)のある人に心を寄せているので、淵に身を投げることが惜しいでしょうか(いや、惜しくありません)
【帖】胡蝶(こちょう) 24
風騒ぎ むら雲迷ふ夕べにも 忘るるまなく忘られぬ君
【現代語訳】風が騒ぎ、むら雲が迷うような夕方にも、忘れる間もないし忘れられないあなた…
【帖】野分(のわき) 28
同じ野の 露にやつるる藤袴 あはれはかけよかことばかりも
【現代語訳】(あなたと)同じ野の露に(濡れて)やつれている藤袴です。心をかけてやってください、少しばかりでも
【帖】藤袴(ふじばかま) 30
香ばかりは 風にもつてよ花の枝に 立ち並ぶべき匂ひなくとも
【現代語訳】香りだけは風に伝えて下さい、花の枝に立ち並ぶような匂いが(私には)なくても
【帖】真木柱(まきばしら) 31
つれなさは 憂き世の常になりゆくを 忘れぬ人や人にことなる
【現代語訳】(あなたの)つれなさは、この世の常となってゆきますが、忘れられない私は他の人と違うのでしょう
【帖】梅枝(うめがえ) 32
目に近く 移れば変はる世の中を 行く末遠く頼みけるかな
【現代語訳】目まぐるしく映り変わる世の中で、行く末長くと願っていたのですね
【帖】若菜(わかな) 34
わが身こそ あらぬさまなれそれながら そらおぼれする君は君なり
【現代語訳】私の身はこのようになってしまいましたが、とぼけたふりをするあなたは(以前の)あなた(のまま)ですね
【帖】若菜(わかな) 34
わが宿は 花もてはやす人もなし 何にか春のたづね来つらむ
【現代語訳】私の家は花を花をもてはやす人もいません。どうして春が訪ねて来たのでしょうか
【帖】幻(まぼろし) 40
本つ香の 匂へる君が袖触れば 花もえならぬ名をや散らさむ
【現代語訳】もとの香りが匂っているあなたが袖を振れば、花も素晴らしい名声を広めるでしょう
【帖】紅梅(こうばい) 43
人はみな 花に心を移すらむ 一人ぞ惑ふ春の夜の闇
【現代語訳】人は皆、花に心を動かすのでしょうが、(私)一人は迷っています、春の夜の闇の中を
【帖】竹河(たけかわ) 44
目の前に この世を背く君よりも よそに別るる魂ぞ悲しき
【現代語訳】目の前の子の世を背く(=出家する)あなたよりも、他所へと別れて行ってしまう(私の)魂こそ悲しい
【帖】橋姫(はしひめ) 45
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