花火の短歌 16首 -はなび-
夏の風物詩として、無くてはならないものが花火といえるでしょう。
夜空に上がって色とりどりの美しさで輝きながら、わずかな時間で姿を消してしまう「はかなさ」には心を惹かれます。
また、見た目の美しさだけではなく、耳にする音でも楽しめるのが花火の素晴らしいところです。
このページには、「花火の短歌」をいくつか集めてみました。これらはいずれも花火が持つ独特の雰囲気を感じさせてくれるものなので、是非とも鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 花火の短歌 16
- 1.1 青玉の しだれ花火のちりかかり 消ゆる途上を君よいそがむ
- 1.2 あれは火だと 忘れるほどに冷酷に みどりが散ってゆきたる花火
- 1.3 遠方に 花火の音の聞ゆなり 端居に更くる夏の夜の月
- 1.4 音たかく 夜空に花火うち開き われは隈なく奪われている
- 1.5 消え易き 花火思へば短夜は 玉とうちあがる青き蓋
- 1.6 くらぐらと 赤大輪の花火散り 忘れむことを強く忘れよ
- 1.7 そのなかの 一つに花火仕込みある 葉巻みんなの手にゆきわたり
- 1.8 たまたまに ちいさき花火あがりけり 夕涼み舟今や出づらん
- 1.9 手花火が 少女の白き脛てらす かなしき夏をわれ痩せにけり
- 1.10 野末なる 三島の町の揚花火 月夜の空に散りて消ゆなり
- 1.11 爆竹の 花火はぜちる柳かげ 水のながれは行きてかへらず
- 1.12 火鉢べに ほほ笑ひつつ花火する 子供と居ればわれもうれしも
- 1.13 平凡に 堪へがたき性の童幼ども 花火に飽きてみな去りにけり
- 1.14 昔せし 童遊びをなつかしみ こより花火に餘念なしわれは
- 1.15 胸にひらく 海の花火を見てかえり ひとりの鍵を音立てて挿す
- 1.16 ゆがみたる 花火たちまち拭ふとも 無傷の空となることはなし
花火の短歌 16
まずは、北原白秋の短歌からです。
青玉の しだれ花火のちりかかり 消ゆる途上を君よいそがむ
【作者】北原白秋(きたはら はくしゅう:1885~1942年)
【歌集】桐の花
【補足】
「しだれ花火」は、花火の光が枝垂れ柳(しだれやなぎ)のように長く尾を引いて見えるものをいいます。「いそがむ」は「急ごう」の意味です。
白秋の作品には、童謡の『あめふり(あめあめふれふれ かあさんが… )』や『ペチカ(雪のふる夜は たのしいペチカ… )』」などのように、広く知られているものが多くあります。
あれは火だと 忘れるほどに冷酷に みどりが散ってゆきたる花火
【作者】井辻朱美
【補足】
作者は歌人の他に、翻訳家、小説家としても知られています。
遠方に 花火の音の聞ゆなり 端居に更くる夏の夜の月
【作者】正岡子規(1867 ~ 1902年)
【補足】「更くる」の読みは「ふくる(=夜が更けるの意)」です。
音たかく 夜空に花火うち開き われは隈なく奪われている
【作者】中城ふみ子(1922~ 1954年)
【補足】
ふみ子はがんを患って、 31歳の若さで亡くなった歌人です。
「隈(くま)なく奪われている」の部分を深読みしたくなる歌です。単純に「夜空の花火の美しさに心を奪われている」と受け取るのは簡単ですが…
消え易き 花火思へば短夜は 玉とうちあがる青き蓋
【作者】北原白秋
【歌集】白南風
【補足】
「短夜(みじかよ)」という言葉が、花火の持つ「はかなさ」と結びついて、この歌の印象を一層引き立てています。
くらぐらと 赤大輪の花火散り 忘れむことを強く忘れよ
【作者】小池 光
【補足】
歌集『草の庭』によって第 1回寺山修司短歌賞を受賞しています。
そのなかの 一つに花火仕込みある 葉巻みんなの手にゆきわたり
【作者】稗田雛子
【補足】
雛子(=宰子)は歌人の塚本邦雄らと同人誌『メトード』を発行し、短歌やエッセイを発表しています。
たまたまに ちいさき花火あがりけり 夕涼み舟今や出づらん
【作者】正岡子規
手花火が 少女の白き脛てらす かなしき夏をわれ痩せにけり
【作者】高野公彦(1941年~)
【補足】
脛(はぎ)とは「すね、むこうずね」のことです。
野末なる 三島の町の揚花火 月夜の空に散りて消ゆなり
【作者】若山牧水(1885~1928年)
【歌集】山桜の歌
【補足】
野末(のずえ)は「野のはて、はずれ」のことで、三島(みしま)は静岡の地名です。
牧水が生涯で 9000首にも及ぶ歌を詠みました。自然と旅を愛した歌人で、日本の各地に多くの歌碑が残っています。
爆竹の 花火はぜちる柳かげ 水のながれは行きてかへらず
【作者】北原白秋
【歌集】夢殿
【補足】
爆竹(ばくちく)花火は、大きな音が鳴るタイプのものです。
火鉢べに ほほ笑ひつつ花火する 子供と居ればわれもうれしも
【作者】斎藤茂吉(1882~1953年)
【歌集】赤光
【補足】
斎藤茂吉(さいとう もきち)は 精神科医を本業としながらも、生涯で 18,000首にも及ぶ短歌を創作した歌人です。
第一歌集『赤光(しゃっこう)』から圧倒的な高い評価を受け、近代短歌の巨人と呼ばれることもあります。
平凡に 堪へがたき性の童幼ども 花火に飽きてみな去りにけり
【作者】斎藤茂吉
【歌集】赤光
【補足】
「性」「童幼」の読みはそれぞれ「さが」「わらわ」です。
昔せし 童遊びをなつかしみ こより花火に餘念なしわれは
【作者】正岡子規
【補足】「餘」は「余」の旧字体です。
胸にひらく 海の花火を見てかえり ひとりの鍵を音立てて挿す
【作者】寺山修司(1935~1983年)
【補足】
修司は、前出の中城ふみ子に影響を受けて短歌を始めました。
短歌研究 50首詠(短歌の新人賞)の第 1回の受賞者がふみ子、第 2回が修司です。
ゆがみたる 花火たちまち拭ふとも 無傷の空となることはなし
【作者】斎藤 史(さいとう ふみ:1909~2002年)
【補足】
史は 17歳のときに、若山牧水に勧められて短歌を始めました。
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