京都の和歌 20選 -きょうと-
京都の美しい情景については、和歌の時代から数多く詠まれてきました。そして、現代の私たちがそれらを鑑賞して、かつての京の風物に思いを馳せるのはとても楽しいものです。
このページには、京都の和歌といえるものを集めました。これらはいずれも京都の魅力にあふれたものなので、是非チェックしてみて下さい。
目次
- 1 京都の和歌について
- 2 京都の和歌 20選
- 2.1 秋風の 吹きにし日より音羽山 みねのこずゑも色づきにけり
- 2.2 あやしくも 鹿の立ちどの見えぬ哉 小倉の山に我や来ぬらん
- 2.3 石ばしる 水の白玉数見えて 清滝川にすめる月影
- 2.4 泉川 水のみわたのふしつけに 柴間のこほる冬は来にけり
- 2.5 鵜飼舟 あはれとぞ見るもののふの 八十宇治川の夕闇の空
- 2.6 大井川 ふるき流れをたづねきて 嵐の山のもみぢをぞ見る
- 2.7 おほえ山 いく野の道のとほければ まだふみもみず天の橋立
- 2.8 春日野は 子の日若菜の春のあと 都の嵯峨は秋萩の時
- 2.9 貴船川 たまちる瀬々の岩浪に 氷をくだく秋の夜の月
- 2.10 暮れてゆく 春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟
- 2.11 桜花 散りかふ空は暮れにけり 伏見の里に宿や借らまし
- 2.12 白川の 春の木ずゑを見わたせば 松こそ花のたえまなりけれ
- 2.13 鳥辺山 思ひやるこそかなしけれ ひとりや苔のしたに朽ちなん
- 2.14 なみたてる 松のしづ枝をくもでにて 霞みわたれる天の橋立
- 2.15 麓をば 宇治の川霧たちこめて 雲ゐにみゆる朝日山かな
- 2.16 ふりつみし 高嶺のみ雪とけにけり 清滝川の水の白波
- 2.17 みかの原 わきてながるる泉河 いつ見きとてか恋しかるらむ
- 2.18 みそぎする 賀茂の川風吹くらしも 涼みにゆかむ妹をともなひ
- 2.19 もみぢせぬ ときはの山にすむ鹿は おのれ鳴きてや秋をしるらむ
- 2.20 夕されば いとどわびしき大井川 かがり火なれや消えかへりもゆ
京都の和歌について
京都にある山、川、地名などが詠まれている和歌を 20首を選び、五十音順に並べました。特に、泉川、宇治川、貴船川など川が詠まれているものを意識して(約半数)あつめました。
これらは京都の美しい風情を見事に表現したものばかりですので、是非その素晴らしさを味わってみて下さい。
なお、現代語訳を付けましたが、これは私の意訳であることをお断りしておきます。何卒ご了承ください。
また、京都の短歌と俳句については、以下のページをご覧になって下さい。
京都の和歌 20選
秋風の 吹きにし日より音羽山 みねのこずゑも色づきにけり
【現代語訳】秋風が吹きはじめた日から、音羽山の峰の梢も色付いたのだった
【採録】古今和歌集(こきんわかしゅう)
【作者】紀貫之(きのつらゆき)
あやしくも 鹿の立ちどの見えぬ哉 小倉の山に我や来ぬらん
【現代語訳】不思議にも鹿が立つ場所が見えない。(はたして)小倉山に私は来たのだろうか
【採録】拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)
【作者】平兼盛(たいらのかねもり)
【補足】小倉山は鹿の名所とされていました。
石ばしる 水の白玉数見えて 清滝川にすめる月影
【現代語訳】岩の上を激しく流れる水(しぶき)の白い玉がいくつも見えて、清滝川に澄んだ月影が射している
【採録】千載和歌集(せんざいわかしゅう)
【作者】藤原俊成(ふじわらのとしなり)
泉川 水のみわたのふしつけに 柴間のこほる冬は来にけり
【現代語訳】泉川の水曲(みわた)に柴漬(ふしつけ)があるが、その枝の隙間が凍るような冬が来たのだった
【採録】千載和歌集
【作者】藤原仲実(ふじわらのなかざね)
【補足】水曲とは川が曲がって流れがよどんでいるような所のことで、柴漬とは川に枝を沈めておいて魚をとる仕掛けのことです。
鵜飼舟 あはれとぞ見るもののふの 八十宇治川の夕闇の空
【現代語訳】鵜飼船を見るとしみじみとした情緒がある、宇治川の夕闇の空のもとで
【採録】新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)
【作者】慈円(じえん)
【補足】「もののふの」と「八十(やそ)」が宇治に掛かっています。
大井川 ふるき流れをたづねきて 嵐の山のもみぢをぞ見る
【現代語訳】大井川の古くからの流れを訪ねて来て、嵐山の紅葉を見るのだ
【採録】後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)
【作者】白河院(しらかわいん=白河天皇)
おほえ山 いく野の道のとほければ まだふみもみず天の橋立
【現代語訳】大江山を越えて幾つもの野を通る道が遠いので、まだ天の橋立を踏んでいない
【採録】金葉和歌集(きんようわかしゅう)
【作者】小式部内侍(こしきぶのないし)
春日野は 子の日若菜の春のあと 都の嵯峨は秋萩の時
【現代語訳】 春日野は子の日の若菜摘みをする春の後が良く、都の嵯峨野は秋の萩が咲く頃が良い
【採録】玉葉和歌集(ぎょくようわかしゅう)
【作者】藤原俊成(ふじわらのとしなり)
【補足】古くには正月初めての子の日に若菜を摘むならわしがありました。
貴船川 たまちる瀬々の岩浪に 氷をくだく秋の夜の月
【現代語訳】貴船川の瀬々の岩に玉となって散る波に、氷を砕くような秋の夜の月(がかかっている)
【採録】千載和歌集
【作者】藤原俊成
暮れてゆく 春のみなとは知らねども 霞に落つる宇治のしば舟
【現代語訳】終わってゆく春が行くところは知らないけれども、霞の中を下ってゆく宇治川の柴舟は…
【採録】新古今和歌集
【作者】寂蓮(じゃくれん)
桜花 散りかふ空は暮れにけり 伏見の里に宿や借らまし
【現代語訳】桜の花が散り乱れた空は暮れてしまった。伏見の里に宿を借りるとしよう
【採録】中務集(なかつかさしゅう)
【作者】中務(なかつかさ)
白川の 春の木ずゑを見わたせば 松こそ花のたえまなりけれ
【現代語訳】白川の春の梢(こずえ)を見渡すと、花の絶え間には松があるのだった
【採録】詞花和歌集(しかわかしゅう)
【作者】源俊頼(みなもとのとしより)
鳥辺山 思ひやるこそかなしけれ ひとりや苔のしたに朽ちなん
【現代語訳】鳥辺山を思いやるのは悲しくてたまらない。ひとりで苔の下で朽ちてしまうのだろうか
【採録】千載和歌集
【作者】藤原成範(ふじわらのしげのり)
【補足】鳥辺山(鳥辺野)は古くから墓地、葬送の地として知られていました。
なみたてる 松のしづ枝をくもでにて 霞みわたれる天の橋立
【現代語訳】並んで立っている松の下枝を蜘蛛手にして、霞に渡した天の橋立
【採録】詞花和歌集
【作者】源俊頼
【補足】蜘蛛手(くもで)とは、橋を補強するために交差させて取り付ける木材のことです。
麓をば 宇治の川霧たちこめて 雲ゐにみゆる朝日山かな
【現代語訳】麓だけ宇治川の霧が立ちこめて、大空に朝日山が見える
【採録】新古今和歌集
【作者】藤原公実(ふじわらのきんざね)
ふりつみし 高嶺のみ雪とけにけり 清滝川の水の白波
【現代語訳】降り積もった高嶺の雪が解けたのだ。清滝川の水が白波を立てている
【採録】新古今和歌集
【作者】西行(さいぎょう)
みかの原 わきてながるる泉河 いつ見きとてか恋しかるらむ
【現代語訳】三香の原を分けて流れる泉川。いつ見たからこれほど恋しいのだろうか
【採録】新古今和歌集
【作者】藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)
みそぎする 賀茂の川風吹くらしも 涼みにゆかむ妹をともなひ
【現代語訳】禊が行なわれる賀茂に川風が吹いているらしい。妻を連れて涼みに行こう
【採録】好忠集 (よしただしゅう)
【作者】曽禰好忠(そねのよしただ)
もみぢせぬ ときはの山にすむ鹿は おのれ鳴きてや秋をしるらむ
【現代語訳】紅葉しない常盤の山に住む鹿は、自分の鳴き声で秋を知るのだろうか
【採録】拾遺和歌集
【作者】大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)
夕されば いとどわびしき大井川 かがり火なれや消えかへりもゆ
【現代語訳】夕方になれば一層侘びしい大堰川。篝火(かがりび)なのか、消えそうになっては燃えている
【採録】順集(したごうしゅう)
【作者】源順 (みなもとのしたごう)