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正岡子規の代表作といえば? 有名俳句と有名短歌をチェックしましょう!

法隆寺

正岡子規は生涯で 20,000を超える俳句を生み出しました。その中には、日本の俳句を代表するような作品も含まれています。

また、短歌の創作数は俳句のそれには及びませんが、一読して心に残るようなものが多く残されています。

このページでは、それらのうちで「子規の代表作」とされているものを、じっくりと読んでいくことにしましょう。

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正岡子規の俳句の代表作 5句

 

柿くえば 鐘がなるなり 法隆寺

【前書き】法隆寺の茶店に憩ひて

【句意】(茶店で)柿を食べていると、法隆寺の鐘が鳴りはじめた

【季語/季節】柿 / 秋

【創作】明治28年

【補足】

子規の俳句といえば、この句が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。そして、俳句の代名詞的な存在でもあります。

柿については、子規の随筆『くだもの』の中に次のように記載があります。

柿などというものは従来詩人にも歌よみにも見離されておるもので、殊に奈良に柿を配合するというような事は思いもよらなかった事である。
余はこの新たらしい配合を見つけ出して非常に嬉しかった。

この「新しい配合」によりつくられたものに、次の句もあります。

渋柿や 古寺多き 奈良の町

また、『くだもの』には宿屋の夕飯後に御所柿(ごしょがき)を食べたというくだりがあります。

それによれば、柿を食べていると東大寺の釣鐘の音が聞こえたとあり、この体験が法隆寺の句に結びついたと考えてよいでしょう。

また、親交があった夏目漱石の「鐘つけば  銀杏ちるなり 建長寺」という句が念頭にあったともいわれています。

子規が柿好きであることは自身でも明言していて、柿を詠み込んだ句は多く残されています。

御仏に 供へあまりの 柿十五

柿くふて 腹痛み出す 旅籠哉

風呂敷を ほどけば柿の ころげけり

柿くふも 今年ばかりと 思ひけり

柿の実と青空

 

 

鶏頭の 十四五本も ありぬべし

【前書き】庭前

【句意】鶏頭(けいとう)が十四五本もあるだろうか

【季語/季節】鶏頭 / 秋

【創作】明治33年

【補足】

子規が亡くなる 2年ほど前に、子規庵(東京・根岸)で催された句会に提出されたうちの一つがこの句です。

句会の席においても特に支持されたわけでもなく、当初は高い評価を得ていませんでした。

後に、この句をめぐって鶏頭論争と呼ばれる論争が起こりました。これは現代においても継続して行われていて、この句の評価としては「傑作」から「駄作」まで様々なものがあります。

ここで、この句に対する文学者の評価をまとめてみましょう。

 長塚節
(歌人)
 この句がわかる俳人は
 今は居まい
 斎藤茂吉
(歌人)
 芭蕉も蕪村も追随を
 許さぬほどの傑作
 山本健吉
(評論家)
 鮮やかな心象風景を
 示している
 高浜虚子
(子規の門下)
 『子規句集(岩波文庫)』
 に選出せず
 河東碧梧桐
(子規の門下)
 『子規句集(俳書堂)』
 に選出せず
 志摩芳次郎
(俳人)
 この句は単なる報告
 しているに過ぎない
 坪内稔典
(俳人)
 語るに足らない駄作

この中で注目されるのは、子規の弟子である高浜虚子と河東碧梧桐の二人が編集した『子規句集』には、この句が選ばれていないということです。

「鶏頭」は秋の季語で、芭蕉や蕪村をはじめ多くの俳人によって俳句に詠み込まれてきました。そして、子規もまた鶏頭の句を多く残しています。

鶏頭の 十本ばかり 百姓家

鶏頭の 四五本秋の 日和哉

鶏頭の 皆倒れたる 野分哉

鶏頭の 傾く秋の 名残哉

鶏頭ヤ 今年ノ秋モ タノモシキ

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いくたびも 雪の深さを 尋ねけり

【前書き】病中雪

【句意】何度も雪の深さ(積り具合)を聞いてしまったなあ…

【季語/季節】雪 / 冬

【創作】明治29年

【補足】

「病中雪四句」のうちの一句です。

病床にあった子規が、家人に何度も雪の積もり具合を尋ねたことを句にしたものと一般に解されています。

しかし、子規が詠んだ句のすべてが「客観写生」にもとづくものとは言い切れません。私はこの句を最初に読んだときには「何らかの理由から外の様子がわからず、雪の降り具合を親に何度も尋ねたという幼少時の体験をもとに創作したもの」といった印象を受けました。

子規が雪を詠んだ句も多くあり、600句以上あることが確認できます。そのうちのいくつかを挙げてみましょう。

行く年の 雪五六尺 つもりけり

雪三尺 王城の松 美なる哉

障子明けよ 上野の雪を 一目見ん

ちらちらと 障子の穴に 見ゆる雪

静かさに 雪積りけり 三四尺

降り積もった雪

 

 

をとゝひの へちまの水も 取らざりき

【句意】一昨日(おととい)の糸瓜(へちま)の水も取らなかった

【季語/季節】へちま / 秋

【創作】明治35年

【補足】

この句の「をとゝひ」は 九月十五夜の日と解されています。

「へちま水(すい)」は民間で咳止めの薬として飲まれ、特に十五夜に取れた糸瓜の水は効能があるとされてきました。

この句と次の 2句をあわせて「絶筆三句」と呼ばれています。

糸瓜咲て 痰のつまりし 仏かな

痰一斗 糸瓜の水も 間にあわず

これらの句がつくられた経緯は、その場に居た河東碧梧桐によれば

  1. 糸瓜咲て…
  2. 痰一斗…
  3. をとゝひの…

の順で、子規は仰向けに寝たまま書き付けたというものでした。

これらの句から、子規の命日(9月19日)は「糸瓜忌(へちまき)」といわれるようになりました。

なお、子規は「獺祭書屋主人」「竹の里人」「香雲」などをはじめとして多くの雅号を使用していて、糸瓜忌は「獺祭忌(だっさいき)」と呼ばれることもあります。

また、子規が亡くなる前年の明治 34年には、次のような句も詠んでいます。

病間ニ 糸瓜ノ句ナド 作リケル

鶏頭ヤ 糸瓜ヤ庵ハ 貧ナラズ

物思フ 窓ニブラリト 絲瓜哉

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春や昔 十五万石の 城下哉

【前書き】

【句意】春、その昔には十五万石を誇った城下だなあ

【季語/季節】春 / 春

【創作】明治28年

【補足】

この句は、江戸時代の俳人・与謝蕪村の次の句との関連が指摘されています。

春やむかし 頭巾の下の 鼎疵(かなえきず)

そしてさらに、この蕪村の句は徒然草の第 53段の話をもとにしたものといわれれています。

京都の仁和寺(にんなじ)の酒宴で、ある法師が酔って足鼎(あしがなえ=金属製の容器で足が3つ付いたもの)に頭を入れて被り、踊ったりしていました。

しばらくしてから頭を抜こうとしたが、どうしても抜けなくなってしまいました。いろいろと手を尽くし、医師にも見せましたがどうにもなりません。

最後は力任せに引き抜いたところ、耳と鼻が欠けてしまい、かろうじて命だけは助かりました。

  (徒然草・第五十三段のあらすじ)

子規は他にも松山を詠み込んだ句を残していて、次のようなものがあります。

松山や 秋より高き 天主閣

名月や 伊豫の松山 一萬戸

松山の 天主崩れず 松の花

松山の 城を載せたり 稻莚(いなむしろ)

松山の 城を見おろす 寒さ哉

松山城と桜

 

 

正岡子規の短歌の代表作 3首

 

くれなゐの 二尺伸びたる薔薇の芽の 針やはらかに春雨のふる

「薔薇の芽の針(≒とげ)」が「やわらか」であり、さらに「春雨」が「やわらか」に降る情景が、流れるように詠まれています。

このように、一語が二つの意味を持ち合わせている本作品には、古典和歌を彷彿(ほうふつ)とさせるものがあります。

また、繰り返し使われている「の」によって、心地よいリズムが感じられるとともに、音読した際には「やさしさ」も生み出す作品です。

「春雨」が詠まれた子規の歌では、次のものもよく知られています。

鶯の ねぐらやぬれんくれ竹の 根岸の里に春雨ぞふる

 

いちはつの 花咲きいでて我目には 今年ばかりの春行かんとす

アヤメ科の多年草である「イチハツ」は、アヤメ類の中でも一番最初に花が咲くことから「一初(いちはつ)」と名付けられました。

自分の死期が近いことを承知している作者が「今年ばかりの春」を詠んだ作品で、子規は満34歳で亡くなっています。

また、子規は次の俳句も残しています。

  柿くふも 今年ばかりと 思ひけり

 

瓶にさす 藤の花ぶさみじかければ たたみの上にとどかざりけり

この一首は、写生歌の代表作といった評価を受けているものです。

新聞に連載された随筆・『墨汁一滴(ぼくじゅういってき)』の明治34年 4月28日付のものに掲載され、この歌を筆頭に以下の 9首が続いています。

  瓶にさす 藤の花ぶさ一ふさは かさねし書の上に垂れたり

  藤なみの 花をし見れば奈良のみかど 京のみかどの昔こひしも

  藤なみの 花をし見れば紫の 絵の具取り出で写さんと思ふ

  藤なみの 花の紫絵にかゝば こき紫にかくべかりけり

  瓶にさす 藤の花ぶさ花垂れて 病の牀に春暮れんとす

  去年の春 亀戸に藤を見しことを 今藤を見て思ひいでつも

  くれなゐの 牡丹の花にさきだちて 藤の紫咲きいでにけり

  この藤は 早く咲きたり亀井戸の 藤咲かまくは十日まり後

  八入折の 酒にひたせばしをれたる 藤なみの花よみがへり咲く

 

 


 関 連 ペ ー ジ 


⇒ 正岡子規の俳句 100選

⇒ 正岡子規の短歌 100選

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