「敷居が高い」の正しい意味とは? 誤用と言われないためには?
敷居が高いと言う表現には、「誤用」という言葉が付きまとっているようです。そして厄介なのは、誤用といわれる使い方にそれほど違和感を感じないことです。
このページでは「敷居が高い」の本来の意味をしっかりと確認して、誤用と言われることがないようにしましょう。
目次
「敷居が高い」の誤用とは?
まずは誤用からみていきましょう。次の例文を見て下さい。
- あのスポーツは敷居が高い
- あの料亭は庶民にとっては敷居が高い
- 私が行くには少し敷居が高い店だ
- あのレストランは高級過ぎて敷居が高い
- 彼女は敷居が高い女性だ
これらを読んでみて、あなたはどのように感じますか。何か違和感があったでしょうか。
結論をいうと、上の例文はすべて誤用とされるものなのです。
ここで使われた「敷居が高い」の意味合いとしては
- ハードルが高い
- レベルが高い
- 格式が高い
- 分不相応である
- 手が届かない、高嶺の花
といったようなもので、この他に「10年早い」という意味で使われることもあります。しかし、これらは本来の意味とは違います。
にもかかわらず、私は辞書でも実際に
- (店などに)気軽に入れない
- 気軽に体験できない
- 近寄りにくい
といった意味が記載されているのを確認しています。
そして現在では、本来とは違う意味で「敷居が高い」という表現が使われることが大変多くなっているのです。
特に「敷居が高い=ハードルが高い」という認識が広まっているようです。
「敷居が高い」の正しい意味は?
それでは次に、正しい(本来の)意味を確認しておきましょう。
正しい意味
『 相手に不義理などをしてしまい、行きにくい 』
これが本来の意味です。具体的にいうと
- お世話になった人に何のお礼もしないまま数年が過ぎてしまったとき
- 目上の人、恩師などに連絡もせずにご無沙汰してしまったとき
- お金や物を借りて返さないままでいるとき
このような場合に、相手の家や場所に対して使うのが「敷居が高い」という表現です。
この正しい意味の立場で考えると、単に「あの店は敷居が高い」という文からは、『店に対して何か迷惑でもかけているのか』といったような印象を受けることになります。
そして、前に述べた誤用の場合には相手に対する不義理などの部分が欠けていて、「行きづらい、入りづらい」という意味合いのみで使ってしまっているといえるでしょう。
語源・由来
敷居(しきい)とは、門や出入り口に敷いた横木(よこぎ)のことで、戸や障子(しょうじ)を開け閉めするのに必要なもので、溝(みぞ)が設けられています。
日本家屋では、内と外を仕切るのに無くてはならない存在で、「閾(しきい)」と書かれることもあります。
これが実際に高いのではなく、不義理などによって訪れにくくなった結果として高く感じてしまうということを表わしたのが「敷居が高い」という表現です。
例文
いくつか例文をあげてみましょう。
- お返しもしないで何年も経ってしまったから、今さら訪問するのも敷居が高いなあ
- 電話すらしないでご無沙汰しているから、あの人の家は敷居が高いよ
- お金を借りっぱなしなので、彼の家の敷居が高くなってしまった
これらはいずれも、不義理なことをしてしまって行きづらくなった心理状態を表現しています。
反対語は?
単純に考えると「敷居が低い」ということになりますが、このような表現はありません。同様な「敷居を下げる」という言い方もしません。
先に述べたように、不義理などによって高く感じられるということを表わしているだけで、敷居はそもそも低いものなのです。
個人的には、「借りていたお金をすべて返した。これでやっと彼の家の敷居が低くなった」と言ってもよいと考えていますが…
英語では何という?
直訳すれば feel that the threshold is too high ~ となるかもしれませんが、次のように表現されることが多いようです。
- It is difficult to approach
- I feel awkward in visiting ~
- I feel hesitant to visit ~
- I feel self-conscious about visiting ~
awkward(落ち着かない)、hesitant(気がすすまない)、self-conscious(堅苦しい)などを使った英訳をよく見かけますが、いずれも「不義理などをしていて」というニュアンスまでは表現できていないといえるでしょう。
敷居に関連した表現は?
「敷居」が含まれる表現には次のようなものがあります。
【敷居を跨ぐ(またぐ)】
その家に出入りする、その家に入ることをいいます。
また、「男は敷居を跨げば七人の敵あり」と言われることもあります。
【敷居越し】
敷居を間にして何かをするときに、例えば「敷居越しに話をする」といった使い方をします。
また、 距離がわずかであることを表わします。
【敷居を踏むな】
かつては礼儀作法として言われていました。「畳の縁(ふち)を踏むな」も同様です。
国語に関する世論調査では…
文化庁は平成7年度(1995年)から、「国語に関する世論調査」を毎年実施しています。このうち平成20年度に、「敷居が高い」の意味についての問いがありました。
その結果は、本来の意味ではない(誤用といわれる)答えを選んだ人が、本来の意味である答えを選んだ人を上回りました。
本来の意味 | 相手に不義理などを してしまい行きにくい |
42.1% |
本来の意味 でない |
高級過ぎたり、上品過ぎたりして入りにくい | 45.6% |
特に 30代以下の人たちに、この傾向は強かったようです。
この結果をみると、誤用が慣用になりつつあるといえるかもしれません。