11月の短歌・和歌 20選 -初冬-
11月には秋もすっかり深まり、様々な美しい風物を楽しみながら暮らせます。
そのような生活の中で、少しずつ冬の気配を感じてゆきます。この時期の寂しいような心境は、古くから和歌や短歌に多く詠まれてきました。
このページには、11月頃の風物・光景や心持ちが詠み込まれた短歌・和歌を集めましたので、是非とも鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 11月の短歌 10選
- 1.1 仰ぎ見る 空の色さへ澄みはてて 木枯の風吹きにけるかも
- 1.2 神無月 おく霜白き朝庭に かぜも吹きあへず散る紅葉かな
- 1.3 小春日の 庭に竹ゆひ稻かけて 見えずなりたる山茶花の花
- 1.4 小夜時雨 ふりくる音のかそけくも われふる里に住みつくらむか
- 1.5 塵塚の 燃ゆる煙の目に立ちて 寒しこのごろ朝々の霜
- 1.6 寺庭に 夕静あゆみさむけきに 目にとめて見つ白き山茶花
- 1.7 枇杷の花 白く咲きゐるみ園にて 物いふこともなくて過ぎにき
- 1.8 冬の神 もとどりはなち駈けたまふ あとにつづきぬ木がらしの風
- 1.9 貧しさを 嘆くこころも年年に 移らふものか枇杷咲きにけり
- 1.10 窓の外に 白き八つ手の花咲きて こころ寂しき冬は来にけり
- 2 11月の和歌 10選
- 2.1 おきあかす 秋のわかれの袖の露 霜こそむすべ冬や来ぬらむ
- 2.2 木の葉ちる 宿にかたしく袖の色を ありともしらでゆく嵐かな
- 2.3 しぐるれば 夕くれなゐの花ころも 誰がそめかけし遠のたかねぞ
- 2.4 竹の葉に あられ降るなりさらさらに 独りは寝ぬべき心地こそせね
- 2.5 月を待つ 高嶺の雲は晴れにけり 心ありける初時雨かな
- 2.6 初雪に なりにけるかな神な月 朝くもりかと眺めつるまに
- 2.7 ふればかく うさのみまさる世を知らで 荒れたる庭につもる初雪
- 2.8 みだれつつ 絶えなばかなし冬の夜を わがひとりぬる玉の緒よわみ
- 2.9 もみぢちる 音は時雨のここちして こずゑの空はくもらざりけり
- 2.10 よしさらば 四方の木枯し吹きはらへ 一葉くもらぬ月をだに見む
11月の短歌 10選
それでは、近代(明治)以降の歌で「11月の短歌」としてふさわしいものからみていきましょう。
仰ぎ見る 空の色さへ澄みはてて 木枯の風吹きにけるかも
【作者】土田耕平(つちだ こうへい)
【補足】耕平は歌人・島木赤彦(後述の 10番目の短歌)に師事しました。
神無月 おく霜白き朝庭に かぜも吹きあへず散る紅葉かな
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
【補足】神無月(かんなづき)は旧暦 10月の異名です。また、「かぜも吹きあへず」は「風が吹くやいなや」という意味です。
小春日の 庭に竹ゆひ稻かけて 見えずなりたる山茶花の花
【作者】長塚 節(ながつか たかし)
【補足】小春日(こはるび)とは、11月頃の暖かくて穏やかな日のことをいいます。「稻」は「稲」の旧字体です。
小夜時雨 ふりくる音のかそけくも われふる里に住みつくらむか
【作者】古泉千樫(こいずみ ちかし)
【補足】小夜時雨(さよしぐれ)とは、夜に降る時雨(=振ったりやんだりする雨)のことです。
塵塚の 燃ゆる煙の目に立ちて 寒しこのごろ朝々の霜
【作者】伊藤左千夫(いとう さちお)
【補足】塵塚(ちりづか)とは、ごみを捨てる所、ごみ捨て場のことをいいます。
寺庭に 夕静あゆみさむけきに 目にとめて見つ白き山茶花
【作者】木下利玄(きのした りげん)
【補足】夕静(ゆうしず)とは、夕方の静けさのことをいいます。
枇杷の花 白く咲きゐるみ園にて 物いふこともなくて過ぎにき
【作者】斎藤茂吉(さいとう もきち)
【補足】「枇杷」の読みは「びわ」です。
冬の神 もとどりはなち駈けたまふ あとにつづきぬ木がらしの風
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
【補足】「もとどり」とは、髪を頭の上に束ねた所(=たぶさ)のことです。
貧しさを 嘆くこころも年年に 移らふものか枇杷咲きにけり
【作者】若山牧水(わかやま ぼくすい)
窓の外に 白き八つ手の花咲きて こころ寂しき冬は来にけり
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
【補足】「外」は「と」と読みます。
11月の和歌 10選
次に、近代(明治)以前の歌で「11月の和歌」としてふさわしいものをみていきましょう。
なお、三十六歌仙については、こちらのページをご覧になってください。
おきあかす 秋のわかれの袖の露 霜こそむすべ冬や来ぬらむ
【現代語訳】(寝ないで)起きたまま夜を明かすと、(昨夜の)秋との別れの(しるしの)袖の露(涙)が、(朝には)霜を結んでいる。(いよいよ)冬が来たのだろう
【作者】藤原俊成(ふじわらのとしなり)
【採録】新古今和歌集
【補足】俊成は『千載和歌集(せんじわかしゅう)』の撰者です。
木の葉ちる 宿にかたしく袖の色を ありともしらでゆく嵐かな
【現代語訳】木の葉が散る家で一人寝る(私の)袖の色を、まったく知らないで(吹いて)ゆく嵐…
【詞書】春日社歌合に、落葉といふことをよみて奉りし
【作者】慈円(じえん)
【採録】新古今和歌集
【補足】慈円は『愚管抄(ぐかんしょう:歴史書)』を著しています。
しぐるれば 夕くれなゐの花ころも 誰がそめかけし遠のたかねぞ
【現代語訳】時雨が降ったので、夕方の(空の)紅色の花衣(のように)、誰が染めて掛けたのか(と思う)、あの高嶺を…
【詞書】田上のむかひの山つねよりも紅葉おもしろかりける夕ぐれによめる
【作者】源俊頼(みなもとのとしより)
【採録】散木奇歌集
竹の葉に あられ降るなりさらさらに 独りは寝ぬべき心地こそせね
【現代語訳】竹の葉に雹(ひょう)が降っている、さらさらと。(だから決して)一人では寝る気持ちになれない
【詞書】雹
【作者】和泉式部(いずみしきぶ)
【採録】和泉式部続集
【補足】和泉式部は中古三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人です。
月を待つ 高嶺の雲は晴れにけり 心ありける初時雨かな
【現代語訳】月(の出を)を待っていると、高嶺の雲が晴れた。(何とも)思いやりのある初時雨だなあ
【作者】西行(さいぎょう)
【採録】新古今和歌集
初雪に なりにけるかな神な月 朝くもりかと眺めつるまに
【現代語訳】初雪になったなあ、神無月… 朝には曇りかと(空を)眺めていたのに
【作者】源経信(みなもとのつねのぶ)
【採録】経信集
ふればかく うさのみまさる世を知らで 荒れたる庭につもる初雪
【現代語訳】年月が経って、このように辛さだけが多くなった世の中を知らずに、荒れてしまった庭に積もる初雪…
【作者】紫式部(むらさきしきぶ)
【採録】新古今和歌集
【補足】紫式部は中古三十六歌仙、女房三十六歌仙の一人で、『源氏物語』の作者として広く知られています。
みだれつつ 絶えなばかなし冬の夜を わがひとりぬる玉の緒よわみ
【現代語訳】思い乱れながら(命が)絶えたとしたら悲しいことだ、冬の夜を一人で寝る私の玉の緒(体と魂を結ぶ紐:ひも)が弱って…
【詞書】十月はて
【作者】曾禰好忠(そねのよしただ)
【採録】好忠集
【補足】好忠は、中古三十六歌仙の一人の一人です。
もみぢちる 音は時雨のここちして こずゑの空はくもらざりけり
【現代語訳】紅葉が散る音は時雨の(ような)心持ちがしても、梢の(上の)空は曇らなかった
【作者】藤原家経(ふじわらのいえつね)
【採録】後拾遺和歌集
よしさらば 四方の木枯し吹きはらへ 一葉くもらぬ月をだに見む
【現代語訳】よし、そうであるならば四方からの木枯らしよ、吹き払ってくれ。せめて曇っていない月だけでも見たいから
【作者】藤原定家(ふじわらのさだいえ、ていか)
【補足】定家は小倉百人一首の撰者です。
関 連 ペ ー ジ