4月の短歌・和歌 20選 -晩春-
4月になると暖かい日も多くなり、目にする風景などから春らしさを感じる機会も増えてきます。
そして、今までの冬の寒さからも解放されたような気がして、少し浮き立つような心境になっていきます。
このページには、4月ならではの風物・光景や心境などが詠み込まれた短歌・和歌を集めましたので、是非ともじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 4月の短歌 10選
- 1.1 天地の くしき草花目にみつる 花野に酔て現ともなし
- 1.2 笠買ふて 都出て行く人多し 雲雀鳴く頃木瓜開く頃
- 1.3 傘ふかう さして君ゆくをちかたは うすむらさきにつつじ花さく
- 1.4 枯草の 原にひともと立ちほけし 枯木の枝の光る春の日
- 1.5 千々にさく 野邊の春草つみいれて 菅の小笠もいまぞ花がさ
- 1.6 びろうどの 薄青色の机かけ わが目のみ見る春のひるがた
- 1.7 二人には 春雨小傘ちひさくて たもとぬれけり菜の花のみち
- 1.8 よの人の 心の色にくらぶれば 花のさかりは久しかりけり
- 1.9 よの人は 花にうかるる春の日の ながきをひとり知るすまひ哉
- 1.10 よろづみな 闇にただよふ春の夜の ま底に深く湖はしづめり
- 2 4月の和歌 10選
- 2.1 浅みどり 花もひとつにかすみつつ おぼろにみゆる春の夜の月
- 2.2 うらうらに 照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば
- 2.3 桜咲く 春は夜だになかりせば 夢にもものは思はざらまし
- 2.4 さくら花 ちりぬる風のなごりには 水なき空に波ぞたちける
- 2.5 桜花 ちりぬるときは見もはてで さめぬる夢の心地こそすれ
- 2.6 散り散らず 聞かまほしきをふるさとの 花見て帰る人も逢はなむ
- 2.7 花の色は 霞にこめて見せずとも 香をだにぬすめ春の山風
- 2.8 春雨に にほへる色もあかなくに 香さへなつかし山吹の花
- 2.9 見ぬ世まで 思ひ残さぬながめより 昔にかすむ春のあけぼの
- 2.10 見わたせば 柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける
4月の短歌 10選
それでは、近代(明治)以降の歌で「4月の短歌」としてふさわしいものからみていきましょう。
天地の くしき草花目にみつる 花野に酔て現ともなし
【作者】伊藤左千夫(いとう さちお)
【補足】「天地」「現」の読み方は、それぞれ「あめつち」「うつつ」です。
笠買ふて 都出て行く人多し 雲雀鳴く頃木瓜開く頃
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】「雲雀」「木瓜」の読み方は、それぞれ「ひばり」「ぼけ(落葉低木の名)」です。
傘ふかう さして君ゆくをちかたは うすむらさきにつつじ花さく
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
【補足】「をちかた(遠方)」とは、「遠くのほう、あっちのほう」という意味です。
枯草の 原にひともと立ちほけし 枯木の枝の光る春の日
【作者】若山牧水(わかやま ぼくすい)
【補足】「ひともと」とは、草木などの一本(いっぽん)のことです。
千々にさく 野邊の春草つみいれて 菅の小笠もいまぞ花がさ
【作者】正岡子規
【補足】「千々(ちぢ)」は、数が非常に多いことを表現する言葉です。
びろうどの 薄青色の机かけ わが目のみ見る春のひるがた
【作者】与謝野晶子
【補足】びろうど(天鵞絨、ビロード)は、織物の一つです。
二人には 春雨小傘ちひさくて たもとぬれけり菜の花のみち
【作者】木下利玄(きのした りげん)
よの人の 心の色にくらぶれば 花のさかりは久しかりけり
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
よの人は 花にうかるる春の日の ながきをひとり知るすまひ哉
【作者】樋口一葉
よろづみな 闇にただよふ春の夜の ま底に深く湖はしづめり
【作者】古泉千樫(こいずみ ちかし)
4月の和歌 10選
次に、近代(明治)よりも前の歌で「4月の和歌」としてふさわしいものをみていきましょう。
なお、三十六歌仙については、こちらのページをご覧になってください。
【参考】三十六歌仙とは?
浅みどり 花もひとつにかすみつつ おぼろにみゆる春の夜の月
【現代語訳】(空の)薄い緑(色)… 花(の色)も一つに(なったように)霞ながら、朧(おぼろ)に見える春の夜の月…
【詞書】祐子内親王藤壺にすみ侍りけるに、女房うへ人などさるべき限り物語りして、春秋のあはれいづれにか心ひくなどあらそひ侍りけるに、人々おほく秋に心をよせ侍りければ
【作者】菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)
【採録】新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)
【補足】孝標女は、日記文学の代表作に数えられる『更級日記(さらしなにっき)』を著しています。
うらうらに 照れる春日にひばり上がり 心悲しもひとりし思へば
【現代語訳】うららかに照っている春の日(の光の中)に雲雀(ひばり)が上がっていく… 心悲しいものだなあ、一人で物思いにふけっていると…
【題詞】二十五日
【作者】大伴家持(おおとものやかもち)
【採録】万葉集(まんようしゅう)
【派生歌】うらうらに 照らす春日はあしひきの 山も霞みて遠くなりぬる (源道済)
桜咲く 春は夜だになかりせば 夢にもものは思はざらまし
【現代語訳】桜が咲く春は、(せめて)夜がなかったならば、夢(の中)でも(桜のことを)思ったりしないだろうに…
【詞書】夜さくらをおもふといふ心をよめる
【作者】能因(のういん)
【採録】後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)
さくら花 ちりぬる風のなごりには 水なき空に波ぞたちける
【現代語訳】(風で)桜の花が散ってしまった… (その)風の名残には、水のない空に波が立っている(ようだ)…
【詞書】亭子院歌合歌
【作者】紀貫之(きのつらゆき)
【採録】古今和歌集(こきんわかしゅう)、定家八代抄(さだいえはちだいしょう)など
【補足】貫之は、三十六歌仙の一人です。
桜花 ちりぬるときは見もはてで さめぬる夢の心地こそすれ
【現代語訳】桜の花が散ってしまったときは、見終わらないで目覚めてしまった夢の(ような)心地がするなあ…
【詞書】花のちるをみてよめる
【作者】凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
【採録】金葉和歌集(きんようわかしゅう)
【補足】躬恒は、三十六歌仙の一人です。
散り散らず 聞かまほしきをふるさとの 花見て帰る人も逢はなむ
【現代語訳】(花は)散ったのか、散っていないのか、(それを)聞きたいのですが… ふるさとの花を見て帰ってくる人に逢えないものでしょうか…
【詞書】斎院の屏風に山道ゆく人ある所
【作者】伊勢(いせ)
【採録】拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)、金玉和歌集(きんぎょくわかしゅう)、伊勢集(いせしゅう)など
【派生歌】散り散らず 人もたづねぬ古郷の 露けき花に春風ぞ吹く (慈円)
花の色は 霞にこめて見せずとも 香をだにぬすめ春の山風
【現代語訳】花の色は霞に閉じ込めて見せないとしても、(せめて)香りだけでも盗んできてくれ、春の山風よ
【詞書】春の歌とてよめる
【作者】遍昭(へんじょう)
【採録】古今和歌集、新撰和歌集(しんせんわかしゅう)、定家八代抄など
【補足】遍照は、三十六歌仙の一人です。
春雨に にほへる色もあかなくに 香さへなつかし山吹の花
【現代語訳】春雨に(美しく)映えている色も(見ていて)飽きないのに、香りさえも心がひかれる山吹の花…
【作者】猿丸大夫(さるまるだゆう、さるまるのたいふ)
【採録】古今和歌集、猿丸集(さるまるしゅう)など
見ぬ世まで 思ひ残さぬながめより 昔にかすむ春のあけぼの
【現代語訳】(まだ)見ぬ世までは思いを残さない眺め、(この光景が私の前から)昔に霞んでいく(かのように思える)春の曙(あけぼの)
【詞書】左大将に侍りける時、家に六百番歌合しけるに、春曙をよめる
【作者】藤原良経(ふじわらのよしつね)
【採録】風雅和歌集(ふうがわかしゅう)
見わたせば 柳桜をこきまぜて 都ぞ春の錦なりける
【現代語訳】(京の方を)見渡すと、柳と桜(の色)を混ぜ合わせて、都は春の錦のようになっている
【詞書】花ざかりに京をみやりてよめる
【作者】素性(そせい)
【採録】古今和歌集、新撰和歌集、古来風躰抄など
【派生歌】みわたせば 松に紅葉をこきまぜて 山こそ秋の錦なりけれ (藤原良経)
【補足】素性は、三十六歌仙の一人です。
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