8月の短歌・和歌 20選 -初秋-
8月の夏の盛りには、この暑さはいつまで続くのだろうかと思うこともあります。
しかし、月の後半にもなると、少しずつ秋の予感めいたものを感じることもあり、季節が変わってゆくのを楽しみながら暮らせるようになります。
このページには、8月ならではの風物、光景、心境などが詠み込まれた短歌・和歌を集めました。是非ともゆっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 8月の短歌 10選
- 1.1 あかつきの 障子あくれば海風に 蚊帳浮きゆらぐ友も覚め居り
- 1.2 あなあはれ 初秋の夜の雲間より いなづま走るおほわだつみへ
- 1.3 うち向ふ 竹の林の夕じめり ひぐらしのこゑをひとり聴きゐる
- 1.4 おほほしく 曇りて暑し眼のまへの 大き向日葵花は搖すれず
- 1.5 くろみもつ 葉ずゑに紅き花つくる 夾竹桃の夏のあはれよ
- 1.6 残暑なほ 単衣の肌に汗ばめど 磯の木蔭に鳴く蝉もなし
- 1.7 しづかなる 亡ぶるものの心にて ひぐらし一つみじかく鳴けり
- 1.8 夏ながら 秋葉の杜の下かげに ふきくる風ぞ涼しかりける
- 1.9 葉がくれに 一花咲きし朝がほの 垣根よりこそ秋は立ちけれ
- 1.10 はるばるに 波の遠音のひびきくる 木のかげ深く月夜の踊り
- 2 8月の和歌 10選
- 2.1 ありとても たのむべきかは世の中を しらする物は朝がほの花
- 2.2 岩間もる 清水を宿にせきとめて ほかより夏を過ぐしつるかな
- 2.3 おきて見むと 思ひしほどに枯れにけり 露よりけなるあさがほの花
- 2.4 かれはつる 人の心に比ぶれば なほ夏の夜は長くぞありける
- 2.5 月かげに 涼みあかせる夏の夜は ただひとゝきの秋ぞありける
- 2.6 夏の夜は 篠の小竹の節近み そよやほどなく明くるなりけり
- 2.7 夏の夜は やがてかたぶく三日月の 見る程もなく明くる山の端
- 2.8 夏はつる 扇と秋の白露と いづれかまづは置かむとすらむ
- 2.9 葉をしげみ 外山の影やまがふらむ 明くるも知らぬひぐらしの声
- 2.10 ひぐらしの 鳴きつるなへに日は暮れぬと 思ふは山のかげにぞありける
8月の短歌 10選
それでは、近代(明治)以降の歌で「8月の短歌」としてふさわしいものからみていきましょう。
あかつきの 障子あくれば海風に 蚊帳浮きゆらぐ友も覚め居り
【作者】古泉千樫(こいずみ ちかし)
【補足】「障子」「蚊帳」の読み方は、それぞれ「しょうじ」「かや」です。
あなあはれ 初秋の夜の雲間より いなづま走るおほわだつみへ
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
【補足】「あな」は喜怒哀楽を感じて発する語で、「ああ、あら」という意味になります。
うち向ふ 竹の林の夕じめり ひぐらしのこゑをひとり聴きゐる
【作者】北原白秋(きたはら はくしゅう)
【補足】夕じめりとは、夕方に空気が湿り気を帯びてくることをいいます。
おほほしく 曇りて暑し眼のまへの 大き向日葵花は搖すれず
【作者】中村憲吉(なかむら けんきち)
【補足】「おほほしく」は「ぼんやりと、おぼろげに」という意味です。
くろみもつ 葉ずゑに紅き花つくる 夾竹桃の夏のあはれよ
【作者】木下利玄(きのした りげん)
【補足】「夾竹桃」の読み方は「きょうちくとう」です。
残暑なほ 単衣の肌に汗ばめど 磯の木蔭に鳴く蝉もなし
【作者】土田耕平(つちだ こうへ)
【補足】単衣(ひとえ)とは、裏地がない着物のことをいいます。
しづかなる 亡ぶるものの心にて ひぐらし一つみじかく鳴けり
【意味】斎藤茂吉(さいとう もきち)
夏ながら 秋葉の杜の下かげに ふきくる風ぞ涼しかりける
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】社(やしろ)とは、神をまつった建物、神社のことをいいます。
葉がくれに 一花咲きし朝がほの 垣根よりこそ秋は立ちけれ
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
はるばるに 波の遠音のひびきくる 木のかげ深く月夜の踊り
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
8月の和歌 10選
次に、近代(明治)よりも前の歌で「8月の和歌」としてふさわしいものをみていきましょう。
なお、三十六歌仙については、こちらのページをご覧になってください。
【参考】三十六歌仙とは?
ありとても たのむべきかは世の中を しらする物は朝がほの花
【現代語訳】今生きているといって、(これからもと)あてにできるでしょうか。世の中(のこと)を知らせてくれるものは朝顔の花です。
【詞書】あさがほをよめる
【作者】和泉式部(いずみしきぶ)
【採録】後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)、新撰朗詠集など
【補足】和泉式部は中古三十六歌仙の一人です。
【派生歌】世の中はただ影やどすます鏡見るをありとも頼むべきかは(藤原定家)
岩間もる 清水を宿にせきとめて ほかより夏を過ぐしつるかな
【現代語訳】岩の間から漏れる清水を家にせき止めて、(世間とは)別の場所のように夏を過ごした
【作者】俊恵(しゅんえ)
【採録】千載和歌集(せんざいわかしゅう)など
おきて見むと 思ひしほどに枯れにけり 露よりけなるあさがほの花
【現代語訳】起きて見ようと思ううちに枯れてしまった、露より儚い(はかない)朝顔の花が…
【作者】曽禰好忠(そねのよしただ)
【採録】新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)など
【補足】好忠は中古三十六歌仙の一人です。
かれはつる 人の心に比ぶれば なほ夏の夜は長くぞありける
【現代語訳】枯れ果ててしまった人の心にくらべれば、さらに夏の夜は長いものだ
【作者】源順(みなもとのしたごう)
【補足】順は三十六歌仙の一人です。
月かげに 涼みあかせる夏の夜は ただひとゝきの秋ぞありける
【現代語訳】月の光のもとに涼んで明かす夏の夜は、まるで一時(ひととき)の秋のようだ
【作者】藤原良経(ふじわらのよしつね)
夏の夜は 篠の小竹の節近み そよやほどなく明くるなりけり
【現代語訳】夏の夜は、篠の小竹の節の間が近いように、すぐに明けてしまうなあ…
【作者】西行(さいぎょう)
【採録】山家集(さんかしゅう)
夏の夜は やがてかたぶく三日月の 見る程もなく明くる山の端
【現代語訳】夏の夜は、すぐに傾く三日月を見る間もなく、明けてゆく山の端…
【作者】式子内親王(しょくしないしんのう)
【採録】式子内親王集
夏はつる 扇と秋の白露と いづれかまづは置かむとすらむ
【現代語訳】夏が終わったときの扇と、秋の白露とでは、どちらが先に置くことになるだろうか
【詞書】延喜御時、月次屏風に
【作者】壬生忠岑(みぶのただみね)
【採録】新古今和歌集、和漢朗詠集など
【補足】忠岑は三十六歌仙の一人です。
葉をしげみ 外山の影やまがふらむ 明くるも知らぬひぐらしの声
【現代語訳】葉が繁って外山の影を(夜だと)間違えているのだろうか、(夜が)明けたのも知らない蜩(ひぐらし)の声…
【詞書】石山にて、暁ひぐらしのなくをききて
【作者】藤原実方(ふじわらのさねかた)
【採録】新勅撰和歌集(しんちょくせんわかしゅう)
【補足】実方は中古三十六歌仙の一人です。
ひぐらしの 鳴きつるなへに日は暮れぬと 思ふは山のかげにぞありける
【現代語訳】蜩(ひぐらし)が鳴いたのと同時に日が暮れたと思ったのは、(私が)山の陰に入ったからだった
【作者】猿丸大夫(さるまるだゆう / さるまろのたいふ)
【採録】古今和歌集、定家八代抄など
【補足】猿丸大夫は三十六歌仙の一人です。
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