尾崎放哉の俳句 60選 -おざきほうさい-
尾崎放哉(おざき ほうさい)は種田山頭火(たねださ んとうか)とともに、自由律俳句の代表的な俳人として知られています。
しかし、放哉が作った俳句のすべてが自由律ではなく、定型俳句(5 7 5 の 17音で季語を含んだもの)も多く生み出しています。
このページでは、放哉の俳句について、従来の伝統的な俳句と自由律俳句の 2部に分けて鑑賞してみることにしましょう。
目次
- 1 尾崎放哉の定型俳句 25選
- 1.1 雨はれて げんげ咲く野の 夕日かな
- 1.2 一里来て 疲るゝ足や 女郎花
- 1.3 寒菊や ころばしてある 臼の下
- 1.4 元日を 初雪降るや 二三寸
- 1.5 返り花 あからさまなる 梢かな
- 1.6 枯野原 見覚えのある 一路哉
- 1.7 灌仏や 美しと見る 僧の袈裟
- 1.8 鶏頭や 紺屋の庭に 紅久し
- 1.9 鯉幟を 下して居るや にはか雨
- 1.10 炬燵ありと 障子に書きし 茶店哉
- 1.11 潮風に 赤らむ柿の 漁村かな
- 1.12 蝉なくや 草の中なる 力石
- 1.13 大木に かくれて雪の 地蔵かな
- 1.14 提灯を 雪に置きけり 草鞋はく
- 1.15 寝て聞けば 遠き昔を 鳴く蚊かな
- 1.16 春浅き 恋もあるべし 籠り堂
- 1.17 冬の山 神社に遠き 鳥居哉
- 1.18 蛍とぶ 門が嬉しき 帰省かな
- 1.19 水汲みに 来ては柳の 影を乱す
- 1.20 森の雪 河原の雪や 冬の月
- 1.21 山吹や ほきほき折れて 髄白し
- 1.22 夕立や 渚晴れゆく 波高し
- 1.23 行秋の 居座り雲に 夜明けけり
- 1.24 行春や 母が遺愛の 筑紫琴
- 1.25 別れ来て淋しさに折る野菊かな
- 2 尾崎放哉の自由律俳句 35選
- 2.1 雨の幾日かつづき雀と見てゐる
- 2.2 あらしがすつかり青空にしてしまつた
- 2.3 池を干す水たまりとなれる寒月
- 2.4 一日物云はず蝶の影さす
- 2.5 妹と夫婦めく秋草
- 2.6 うそをついたやうな昼の月がある
- 2.7 おそくなつて月夜となつた庵
- 2.8 傘さしかけて心寄り添へる
- 2.9 風吹く家のまはり花無し
- 2.10 軽いたもとが嬉しい池のさざなみ
- 2.11 鐘ついて去る鐘の余韻の中
- 2.12 菊の乱れは月が出てゐる夜中
- 2.13 旧暦の節句の鯉がをどつて居る
- 2.14 栗が落ちる音を児と聞いて居る夜
- 2.15 こんなよい月を一人で見て寝る
- 2.16 霜ふる音の家が鳴る夜ぞ
- 2.17 障子しめきつて淋しさをみたす
- 2.18 新緑の山となり山の道となり
- 2.19 すでに秋の山山となり机に迫り来
- 2.20 咳をしても一人
- 2.21 たつた一人になりきつて夕空
- 2.22 月夜戻り来て長い手紙を書き出す
- 2.23 つくづく淋しい我が影よ動かして見る
- 2.24 妻が留守の障子ぽつりと暮れたり
- 2.25 つめたく咲き出でし花のその影
- 2.26 流るる風に押され行き海に出る
- 2.27 庭石一つすゑられて夕暮が来る
- 2.28 墓のうらに廻る
- 2.29 ほのかなる草花の匂を嗅ぎ出さうとする
- 2.30 盆燈籠の下ひと夜を過ごし故里立つ
- 2.31 紅葉あかるく手紙よむによし
- 2.32 森に近づき雪のある森
- 2.33 山寺灯されて見て通る
- 2.34 雪空一羽の烏となりて暮れる
- 2.35 雪は晴れたる小供等の声に日が当る
尾崎放哉の定型俳句 25選
まずは、放哉の俳句のうちで 5 7 5 の定型で作られ季語も含んでいるものからみていきましょう。
雨はれて げんげ咲く野の 夕日かな
【季語】げんげ(春)
【補足】蓮華草 ゲンゲ(紫雲英)は中国原産の一年草で、レンゲ、レンゲソウ(蓮華草)の名前でも知られています。
一里来て 疲るゝ足や 女郎花
【季語】女郎花(秋)
【補足】一里(り)は約 3.9km です。
寒菊や ころばしてある 臼の下
【季語】寒菊(冬)
元日を 初雪降るや 二三寸
【季語】初雪(冬)
【補足】一寸(すん)は約 30.3mmなので、二三寸はおよそ 60~90mm(= 6~9cm)となります。
返り花 あからさまなる 梢かな
【季語】返り花(冬)
【補足】返り花(=帰り花)とは、本来は春に咲く花が初冬の小春日和の頃に花を咲かせることをいいます。「忘れ花」「狂い咲」「二度咲」などといわれることもあります。
枯野原 見覚えのある 一路哉
【季語】枯野原(冬)
灌仏や 美しと見る 僧の袈裟
【季語】灌仏(春)
【補足】灌仏(かんぶつ=灌仏会:かんぶつえ)とはお釈迦様の誕生を祝う仏教の行事で、仏生会(ぶっしょうえ)、花会式(はなえしき)、花祭りなど様々な別名があります。
鶏頭や 紺屋の庭に 紅久し
【季語】鶏頭(秋)
鯉幟を 下して居るや にはか雨
【季語】鯉幟:こいのぼり(夏)
炬燵ありと 障子に書きし 茶店哉
【季語】炬燵:こたつ(冬)
潮風に 赤らむ柿の 漁村かな
【季語】柿(秋)
蝉なくや 草の中なる 力石
【季語】蝉(夏)
【補足】力石(ちからいし)とは力試しに用いられる石のことをいいます。
大木に かくれて雪の 地蔵かな
【季語】雪(冬)
提灯を 雪に置きけり 草鞋はく
【季語】雪(冬)
【補足】「提灯」と「草鞋」の読みは、それぞれ「ちょうちん」「わらじ」です。
寝て聞けば 遠き昔を 鳴く蚊かな
【季語】蚊(夏)
春浅き 恋もあるべし 籠り堂
【季語】春浅き(春)
【補足】籠り堂(こもりどう)とは、寺社で信者や行者が籠って祈るための建物です。
冬の山 神社に遠き 鳥居哉
【季語】冬の山(冬)
蛍とぶ 門が嬉しき 帰省かな
【季語】蛍、帰省(夏)
水汲みに 来ては柳の 影を乱す
【季語】柳(春)
森の雪 河原の雪や 冬の月
【季語】冬の月(冬)
山吹や ほきほき折れて 髄白し
【季語】山吹(春)
【補足】髄(ずい)は植物の茎の中心の部分です。
夕立や 渚晴れゆく 波高し
【季語】夕立(夏)
行秋の 居座り雲に 夜明けけり
【季語】行秋:ゆくあき(秋)
行春や 母が遺愛の 筑紫琴
【季語】行春(春)
別れ来て淋しさに折る野菊かな
【季語】野菊(秋)
尾崎放哉の自由律俳句 35選
次に放哉の自由律俳句を鑑賞していきましょう。
雨の幾日かつづき雀と見てゐる
あらしがすつかり青空にしてしまつた
池を干す水たまりとなれる寒月
一日物云はず蝶の影さす
妹と夫婦めく秋草
うそをついたやうな昼の月がある
おそくなつて月夜となつた庵
傘さしかけて心寄り添へる
風吹く家のまはり花無し
軽いたもとが嬉しい池のさざなみ
鐘ついて去る鐘の余韻の中
【補足】放哉の次の句と通じるものが感じられます。
今日一日の終りの鐘をききつつあるく
菊の乱れは月が出てゐる夜中
旧暦の節句の鯉がをどつて居る
栗が落ちる音を児と聞いて居る夜
こんなよい月を一人で見て寝る
霜ふる音の家が鳴る夜ぞ
障子しめきつて淋しさをみたす
新緑の山となり山の道となり
すでに秋の山山となり机に迫り来
咳をしても一人
【補足】次の句と比較してみましょう。
月夜風ある一人咳して
たつた一人になりきつて夕空
月夜戻り来て長い手紙を書き出す
つくづく淋しい我が影よ動かして見る
妻が留守の障子ぽつりと暮れたり
つめたく咲き出でし花のその影
流るる風に押され行き海に出る
庭石一つすゑられて夕暮が来る
墓のうらに廻る
【補足】短い句であるため、この句に対しては様々な解釈がなされています。
ほのかなる草花の匂を嗅ぎ出さうとする
盆燈籠の下ひと夜を過ごし故里立つ
紅葉あかるく手紙よむによし
森に近づき雪のある森
山寺灯されて見て通る
雪空一羽の烏となりて暮れる
雪は晴れたる小供等の声に日が当る
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