向井去来の俳句 30選 -むかいきょらい-
向井去来(むかい きょらい)は江戸時代の俳人で、松尾芭蕉の弟子の中でも特に優れた 10人である「蕉門十哲(しょうもんじってつ)」の一人に数えられます。
去来は武芸に優れていましたが、若い頃に武士としての身分を捨てています。このことは、彼が詠んだ俳句からも伺うことができます。
このページでは、向井去来の俳句の中から 30句を選びました。「俳諧奉行」というあだ名を持った去来の俳句を、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 向井去来の俳句 30
- 1.1 秋風や しらきの弓に 弦はらん
- 1.2 朝あらし あまたの上を 渡り鳥
- 1.3 あそぶとも ゆくともしらぬ 燕かな
- 1.4 有明に ふりむきがたき 寒さ哉
- 1.5 いくすべり 骨おる岸の かはづ哉
- 1.6 石も木も 眼にひかる あつさかな
- 1.7 うのはなの 絶間たたかん 闇の門
- 1.8 絵の中に 居るや山家の 雪げしき
- 1.9 朧月 一足づゝも わかれかな
- 1.10 か ゝる夜の 月も見にけり 野辺送
- 1.11 神鳴や 一むら雨の さへかへり
- 1.12 君が手も まじるなるべし 花薄
- 1.13 木枯の 地にも落さぬ しぐれ哉
- 1.14 心なき 代官殿や ほと ゝぎす
- 1.15 五六本 よりてしだるる 柳かな
- 1.16 霜月や 日ませにしけて 冬籠
- 1.17 知人に あはじあはじと 花見かな
- 1.18 涼しさよ 白雨ながら 入日影
- 1.19 立ありく 人にまぎれて すゞみかな
- 1.20 旅人の 外は通らず 雪の朝
- 1.21 魂棚の 奥なつかしや 親の顔
- 1.22 布子着て 淋しき顔や 神送
- 1.23 鉢たたき このよとなれば 朧なり
- 1.24 ひつかけて 行や雪吹の てしまござ
- 1.25 ひとり寝も 能宿とらん 初子日
- 1.26 蓬莱に かけてかざるや 老の袖
- 1.27 蛍火や 吹とばされて 鳰のやみ
- 1.28 郭公 なくや雲雀と 十文字
- 1.29 松杉も おかめと晴るる 秋の雲
- 1.30 名月や たがみにせまる 旅心
向井去来の俳句 30
俳句の文字の五十音順に並べてあります。
秋風や しらきの弓に 弦はらん
【季語・季節】秋風 - 秋
【補足】「しらきの弓」とは、漆を塗っていない白木のままの弓(=白木弓)のことです。
朝あらし あまたの上を 渡り鳥
【季語・季節】渡り鳥- 秋
【補足】「あまた」とは「数多く、たくさん」の意味です。
あそぶとも ゆくともしらぬ 燕かな
【季語・季節】燕(つばめ) - 春
有明に ふりむきがたき 寒さ哉
【季語・季節】寒さ - 冬
【補足】有明(ありあけ)とは、空に月が残ったまま夜が明けること、そのころの夜明けのことです。または単に、夜明けのことを意味します。
いくすべり 骨おる岸の かはづ哉
【季語・季節】かはづ(=蛙) - 春
石も木も 眼にひかる あつさかな
【季語・季節】あつさ - 夏
【補足】「眼」の読みは「まなこ」です。
うのはなの 絶間たたかん 闇の門
【季語・季節】うのはな(卯の花) - 夏
【補足】「絶間」の読みは「たえま」で、(卯の花が)途切れている所の意です。
絵の中に 居るや山家の 雪げしき
【季語・季節】雪 - 冬
【補足】「山家」の読みは「やまが、さんか」です。
朧月 一足づゝも わかれかな
【季語・季節】朧月(おぼろづき) - 春
か ゝる夜の 月も見にけり 野辺送
【季語・季節】月 - 秋
【補足】「かかる」は「こういう、このような」という意味です。
神鳴や 一むら雨の さへかへり
【季語・季節】さへかへり(冴え返り) - 春
【補足】冴え返りとは、余寒がきびしいことを表現する言葉です。また、むら雨(村雨)とは降り出してもすぐに止む雨のことをいいます。
君が手も まじるなるべし 花薄
【季語・季節】花薄(はなすすき) - 秋
【補足】「花芒」「穂薄」「薄の穂」「尾花」なども、花薄と同様に秋の季語です。
木枯の 地にも落さぬ しぐれ哉
【季語・季節】木枯、しぐれ(時雨) - 冬
【補足】しぐれとは、一時的に降ったり止んだりする雨で、あまり強くないものをいいます。
心なき 代官殿や ほと ゝぎす
【季語・季節】ほと ゝぎす - 夏
五六本 よりてしだるる 柳かな
【季語・季節】柳 - 春
【補足】「しだる」とは、枝などが長く垂れ下がることをいいます。
霜月や 日ませにしけて 冬籠
【季語・季節】冬籠 - 冬
【補足】霜月(しもつき)は旧暦 11月の別名です。
知人に あはじあはじと 花見かな
【季語・季節】花見 - 春
【補足】「あはじ」は「会わないように」の意です。
涼しさよ 白雨ながら 入日影
【季語・季節】涼しさ - 夏
【補足】白雨(はくう、ゆうだち)は夕立ちのことで、入日(いりひ)は夕日のことを意味します。
立ありく 人にまぎれて すゞみかな
【季語・季節】すゞみ - 夏
旅人の 外は通らず 雪の朝
【季語・季節】雪- 冬
魂棚の 奥なつかしや 親の顔
【季語・季節】魂棚(たまだな) - 秋
【補足】魂棚(=霊棚)とは、お盆に先祖の霊を迎えて安置し、供え物する棚のことです。精霊棚(しょうりょうだな)といわれることもあります。
布子着て 淋しき顔や 神送
【季語・季節】神送- 秋
【補足】布子(ぬのこ)とは、木綿(もめん)の綿入れ(=防寒用の着物)のことです。また、神送(かみおくり)とは旧暦の 9月30日に出雲(いずも)へ旅立つ神々を送り出すことをいいます。
鉢たたき このよとなれば 朧なり
【季語・季節】朧 - 春
【補足】鉢たたき(鉢叩)とは、近世まで行われていた民俗芸能・大道芸の一種です。
ひつかけて 行や雪吹の てしまござ
【季語・季節】雪吹(ふぶき) - 冬
【補足】てしまござ(豊島茣蓙)とは、摂津国の豊島で生産された「ござ(=敷物、むしろ)」で、雨具としても用いられました。
ひとり寝も 能宿とらん 初子日
【季語・季節】初子日(はつねのひ) - 新年
【補足】「能宿」の読みは「よきやど(良き宿)」です。
蓬莱に かけてかざるや 老の袖
【季語・季節】蓬莱(ほうらい) - 新年
【補足】蓬莱とは、お正月の「蓬莱飾り」のことをいいます。
蛍火や 吹とばされて 鳰のやみ
【季語・季節】蛍火 - 夏
【補足】鳰(にお)は「かいつぶり(水鳥)」の別名です。
郭公 なくや雲雀と 十文字
【季語・季節】郭公(かっこう) - 夏、雲雀(ひばり) - 春
松杉も おかめと晴るる 秋の雲
【季語・季節】秋の雲 - 秋
名月や たがみにせまる 旅心
【季語・季節】名月 - 秋
【補足】たがみ(田上)は長崎の地名です。
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