山口誓子の俳句 100選 -春・夏・秋・冬-
山口誓子の俳句の中から、季語によって分けた春、夏、秋、冬の俳句をそれぞれ 25句ずつ、合計で 100句を選びました。四季それぞれの素晴らしさが感じさせてくれる句ばかりですので、是非ともこれらを味わってみて下さい。
目次
- 1 山口誓子の春の俳句 25
- 1.1 暖かき 燈が廚より 雪にさす
- 1.2 いづこにも 雪消え水の 辺に残る
- 1.3 鶯は 鳴瀬のかたに 啼き出でぬ
- 1.4 梅近く 見るその蕊の 長睫毛
- 1.5 男雛より 女雛宝冠 だけ高し
- 1.6 かげろひて 港は夏を おもはしむ
- 1.7 九頭龍の 谷残雪も 多頭龍
- 1.8 雲隠る 日もまぶしくて 木々芽ぐむ
- 1.9 雲の端の 照りて春日を をらしむる
- 1.10 啓蟄や 返書の来る こと遅し
- 1.11 桜さく 前より紅気 立ちこめて
- 1.12 春暁の ひろき渚に 流れ寄る
- 1.13 城をやや 距たるからに 藪かすむ
- 1.14 内裏雛 砂糖の鯛を 召し給ふ
- 1.15 月日過ぐ 蕨も長けし こと思へば
- 1.16 椿咲く 崖を下り来て 親不知
- 1.17 強東風に 鳴門わが髪 飛ばばとべ
- 1.18 猫柳 高嶺は雪を あらたにす
- 1.19 春月の 照らせるときに 琴さらふ
- 1.20 春水と 行くを止むれば 流れ去る
- 1.21 星はみな 西へ下りゆく 猫の恋
- 1.22 町なかの 昔の松の 春の暮
- 1.23 俎の 蓬を刻み たるみどり
- 1.24 眼をとむる 神体山の 花菫
- 1.25 眼に捉ふ 落花途中の 花びらを
- 2 山口誓子の夏の俳句 25
- 2.1 あぢさゐの 黄なるを嘆く にもあらず
- 2.2 蜑の子や 沖に短かき 一夜寝て
- 2.3 大滝は 裾の乱れを つくろはず
- 2.4 蚊の入りし 病の蚊帳を 吊りづめに
- 2.5 考ふる 胸もと暗き 藍浴衣
- 2.6 けさの海 浅くて荒るゝ 栗の花
- 2.7 歳時記を 愛して夏に 入りゆけり
- 2.8 初夏まぶし 読みがたきまで 書を白む
- 2.9 新緑の ゆふべかたへに 子あるなし
- 2.10 すずしさに 水の走れる 甕に杓
- 2.11 栴檀の 花天碧く 咲き満ちて
- 2.12 手に挟み 牡丹の面を まざと見る
- 2.13 籐椅子や 海の傾き 壁をなす
- 2.14 夏川の 淵の砂浜 あはれなる
- 2.15 夏の夜の 提燈を消す 息を白み
- 2.16 夏山を 行く岩岩に 手触れつつ
- 2.17 虹のぼり ゆき中天を くだりゆき
- 2.18 濡縁は あれど夏草 身に迫る
- 2.19 葉桜が つくれる蔭に 入らばやと
- 2.20 薔薇垣の 夜は星のみぞ かがやける
- 2.21 蛍籠 極星北に 懸りたり
- 2.22 蛍火の 極限の火は 緑なる
- 2.23 真黒な 硯を蠅が 舐めまはす
- 2.24 脈弱く 初夏のひかりに 堪へゐたり
- 2.25 湯もどりの 子の濡髪に 椎匂ふ
- 3 山口誓子の秋の俳句 25
- 3.1 秋風に わが手のひらを かがやかせ
- 3.2 秋の海 蒼を川にも 遡らしめ
- 3.3 秋の雲 はてなき瑠璃の 天をゆく
- 3.4 秋の浪 見つつ黙して 人遊ぶ
- 3.5 秋の夜を 生れて間なき ものと寝る
- 3.6 秋晴へ 眼界ひらけ 眼戸迷ふ
- 3.7 生きてとびし 蜻蛉の透翅 書にはさむ
- 3.8 いなびかり 終に子のなき 閨照らす
- 3.9 鰯雲 高きに群れて 羨し
- 3.10 雲仙の 秋の草々 妹が眼にも
- 3.11 峡わたる 日が真上より 菊に差す
- 3.12 栗飯を 炊けばこころは 満ち足らふ
- 3.13 椎の実の つぶつぶ神の 溝の上
- 3.14 常夜燈 昔むかしの 秋の暮
- 3.15 水盤の ぐるりに月を 滴らす
- 3.16 月出でて いまだ五重の 塔越さず
- 3.17 西へ行く 日とは柿山 にて別る
- 3.18 日輪の 形骸霧に たかられて
- 3.19 花野には 岩あり窪あり 花ありて
- 3.20 花火にて 荒れし空雁 鳴きわたる
- 3.21 日の光 露玲瓏の かげもさす
- 3.22 曼珠沙華 すがれて花の 老舗たり
- 3.23 み仏の 肩に秋日の 手が置かれ
- 3.24 紅葉して 山の齢は 知りがたし
- 3.25 屋根瓦 光るかそけさも 秋の雨
- 4 山口誓子の冬の俳句 25
- 4.1 紅きもの 枯野に見えて 拾はれず
- 4.2 虻よんで 倦むこと知らず 石蕗の花
- 4.3 起きて先づ ゆらぐ焚火の 穂を見たり
- 4.4 寒月の 天に見下す 潦
- 4.5 寒風の 砂丘今日見る 今日のかたち
- 4.6 草枯れぬ 戦をかかる 丘にせし
- 4.7 くらがりや 寒の障子の ひびらげる
- 4.8 氷る河 見ればいよいよ しづかなり
- 4.9 凩に いづこかの野の 声聞ゆ
- 4.10 こがらしの 夜の岐谷に われ等住む
- 4.11 鷺とんで 白を彩とす 冬の海
- 4.12 大根を 刻む刃物の 音つづく
- 4.13 誰も見ず 明石潮路に 鴨一羽
- 4.14 初春と いひていつもの 天の星
- 4.15 比叡愛宕 この空間に 寒さ凝る
- 4.16 日向ぼこ 光の中に 永くゐし
- 4.17 冬の日や 鳶のとまりて やや翳る
- 4.18 冬紅葉 故国はかくも 天霧らふ
- 4.19 冬山に ピッケル突きて 抜きしあと
- 4.20 降る雪に 貝ふく頬を ふくらませ
- 4.21 星降りて 枯木の梢に ゐ挙れる
- 4.22 惚れぼれと 冬の金星 立ち眺む
- 4.23 陵や 邑の轍を 枯れ芝に
- 4.24 往き逢ひし ときより枯野 又遠し
- 4.25 雪すべて やみて宙より 一二片
山口誓子の春の俳句 25
暖かき 燈が廚より 雪にさす
【季語】暖か
【補足】「廚」の読みは「くりや」で、台所のことです。
いづこにも 雪消え水の 辺に残る
【季語】雪消え
鶯は 鳴瀬のかたに 啼き出でぬ
【季語】鶯
梅近く 見るその蕊の 長睫毛
【季語】梅
【補足】「蕊」の読みは「しべ」で、雄しべと雌しべのことをいいます。
男雛より 女雛宝冠 だけ高し
【季語】雛
【補足】「男雛」「女雛」の読みは、それぞれ「おびな」「めびな」です。
かげろひて 港は夏を おもはしむ
【季語】かげろひて
九頭龍の 谷残雪も 多頭龍
【季語】残雪
雲隠る 日もまぶしくて 木々芽ぐむ
【季語】木の芽
雲の端の 照りて春日を をらしむる
【季語】春日
啓蟄や 返書の来る こと遅し
【季語】啓蟄
【補足】啓蟄(けいちつ)は暦の二十四節気(にじゅうしせっき)の一つです。
桜さく 前より紅気 立ちこめて
【季語】桜
春暁の ひろき渚に 流れ寄る
【季語】春暁
城をやや 距たるからに 藪かすむ
【季語】かすむ
【補足】「距たる」の読みは「へだたる」です。
内裏雛 砂糖の鯛を 召し給ふ
【季語】雛
【補足】「内裏雛」の読みは「だいりびな」で、男女一対の雛人形です。
月日過ぐ 蕨も長けし こと思へば
【季語】蕨(わらび)
椿咲く 崖を下り来て 親不知
【季語】椿
【補足】「親不知」の読みは「おやしらず」で、新潟にある断崖が連続した地帯です。正式な名称は親不知子不知(おやしらずこしらず)です。
強東風に 鳴門わが髪 飛ばばとべ
【季語】東風
【補足】「強東風」の読みは「つよごち」です。
猫柳 高嶺は雪を あらたにす
【季語】猫柳
春月の 照らせるときに 琴さらふ
【季語】春月(はるづき)
春水と 行くを止むれば 流れ去る
【季語】春水(はるみず)
星はみな 西へ下りゆく 猫の恋
【季語】猫の恋
町なかの 昔の松の 春の暮
【季語】春の暮
俎の 蓬を刻み たるみどり
【季語】蓬
【補足】「俎」と「蓬」の読みは、それぞれ「まないた」「よもぎ」です。
眼をとむる 神体山の 花菫
【季語】菫
【補足】「菫」の読みは「すみれ」です。
眼に捉ふ 落花途中の 花びらを
【季語】花
山口誓子の夏の俳句 25
あぢさゐの 黄なるを嘆く にもあらず
【季語】あぢさゐ
蜑の子や 沖に短かき 一夜寝て
【季語】短き一夜
【補足】「蜑」の読みは「あま」で、海女と同じです。
大滝は 裾の乱れを つくろはず
【季語】滝
蚊の入りし 病の蚊帳を 吊りづめに
【季語】蚊
【補足】「蚊帳」の読みは「かや」です。
考ふる 胸もと暗き 藍浴衣
【季語】浴衣
けさの海 浅くて荒るゝ 栗の花
【季語】栗の花
歳時記を 愛して夏に 入りゆけり
【季語】夏に入り
初夏まぶし 読みがたきまで 書を白む
【季語】初夏
新緑の ゆふべかたへに 子あるなし
【季語】新緑
すずしさに 水の走れる 甕に杓
【季語】すずしさ
【補足】「甕」と「杓」の読みは、それぞれ「かめ」「しゃく」です。
栴檀の 花天碧く 咲き満ちて
【季語】栴檀
【補足】「栴檀」の読みは「センダン」で、センダン科の落葉高木です。オウチ、アミノキなどの別名があります。
手に挟み 牡丹の面を まざと見る
【季語】牡丹
籐椅子や 海の傾き 壁をなす
【季語】籐椅子(とういす)
夏川の 淵の砂浜 あはれなる
【季語】夏川
夏の夜の 提燈を消す 息を白み
【季語】夏の夜
【補足】「提燈」の読みは「ちょうちん」です。
夏山を 行く岩岩に 手触れつつ
【季語】夏山
虹のぼり ゆき中天を くだりゆき
【季語】虹
濡縁は あれど夏草 身に迫る
【季語】夏草
【補足】「濡縁」の読みは「ぬれえん」で、軒下に作られて雨ざらしとなる縁側のことです。
葉桜が つくれる蔭に 入らばやと
【季語】葉桜
薔薇垣の 夜は星のみぞ かがやける
【季語】薔薇
蛍籠 極星北に 懸りたり
【季語】蛍籠(ほたるかご)
蛍火の 極限の火は 緑なる
【季語】蛍火
真黒な 硯を蠅が 舐めまはす
【季語】蠅
【補足】「硯」の読みは「すずり」です。
脈弱く 初夏のひかりに 堪へゐたり
【季語】初夏
湯もどりの 子の濡髪に 椎匂ふ
【季語】椎
山口誓子の秋の俳句 25
秋風に わが手のひらを かがやかせ
【季語】秋風
秋の海 蒼を川にも 遡らしめ
【季語】秋の海
秋の雲 はてなき瑠璃の 天をゆく
【季語】秋の雲
【補足】「瑠璃」の読みは「るり」で、少し紫みを帯びた青色を意味します。
秋の浪 見つつ黙して 人遊ぶ
【季語】秋の浪
秋の夜を 生れて間なき ものと寝る
【季語】秋の夜
秋晴へ 眼界ひらけ 眼戸迷ふ
【季語】秋晴
生きてとびし 蜻蛉の透翅 書にはさむ
【季語】蜻蛉
【補足】「蜻蛉」と「透翅」の読みは、それぞれ「とんぼ」「すかしば」です。
いなびかり 終に子のなき 閨照らす
【季語】いなびかり
【補足】「終に」「閨」の読みは、それぞれ「ついに」「ねや=寝室」です。
鰯雲 高きに群れて 羨し
【季語】鰯雲
雲仙の 秋の草々 妹が眼にも
【季語】秋の草
峡わたる 日が真上より 菊に差す
【季語】菊
【補足】「峡」の読みは「かい(きょう)」です。
栗飯を 炊けばこころは 満ち足らふ
【季語】栗
椎の実の つぶつぶ神の 溝の上
【季語】椎の実
常夜燈 昔むかしの 秋の暮
【季語】秋の暮
水盤の ぐるりに月を 滴らす
【季語】月
月出でて いまだ五重の 塔越さず
【季語】月
西へ行く 日とは柿山 にて別る
【季語】柿
日輪の 形骸霧に たかられて
【季語】霧
花野には 岩あり窪あり 花ありて
【季語】花野
花火にて 荒れし空雁 鳴きわたる
【季語】雁
日の光 露玲瓏の かげもさす
【季語】露
【補足】「玲瓏」の読みは「れいろう」で、美しく照り輝く様子を表現する言葉です。
曼珠沙華 すがれて花の 老舗たり
【季語】曼珠沙華
【補足】曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は彼岸花(ひがんばな)の別名です。「老舗」の読みは「しにせ」です。
み仏の 肩に秋日の 手が置かれ
【季語】秋日
紅葉して 山の齢は 知りがたし
【季語】紅葉
【補足】「齢」の読みは「よわい=年、年齢」
屋根瓦 光るかそけさも 秋の雨
【季語】秋の雨
山口誓子の冬の俳句 25
紅きもの 枯野に見えて 拾はれず
【季語】枯野
虻よんで 倦むこと知らず 石蕗の花
【季語】虻
【補足】「虻」の読みは「あぶ」です。石蕗(つわ)の花(=ツワブキ)はキク科の常緑多年草です。
起きて先づ ゆらぐ焚火の 穂を見たり
【季語】焚火(たきび)
寒月の 天に見下す 潦
【季語】寒月
【補足】「潦」の読みは「にわたずみ」で、雨が上がって溜まっていたり流れたりしている水のことをいいます。
寒風の 砂丘今日見る 今日のかたち
【季語】寒風
草枯れぬ 戦をかかる 丘にせし
【季語】草枯れ
くらがりや 寒の障子の ひびらげる
【季語】寒
氷る河 見ればいよいよ しづかなり
【季語】氷
凩に いづこかの野の 声聞ゆ
【季語】凩(こがらし)
こがらしの 夜の岐谷に われ等住む
【季語】こがらし
鷺とんで 白を彩とす 冬の海
【季語】冬の海
【補足】「鷺」の読みは「さぎ」です。
大根を 刻む刃物の 音つづく
【季語】大根
誰も見ず 明石潮路に 鴨一羽
【季語】鴨
初春と いひていつもの 天の星
【季語】初春
比叡愛宕 この空間に 寒さ凝る
【季語】寒さ
日向ぼこ 光の中に 永くゐし
【季語】日向ぼこ
冬の日や 鳶のとまりて やや翳る
【季語】冬の日
【補足】「鳶」の読みは「とび」です。
冬紅葉 故国はかくも 天霧らふ
【季語】冬紅葉
冬山に ピッケル突きて 抜きしあと
【季語】冬山
降る雪に 貝ふく頬を ふくらませ
【季語】雪
星降りて 枯木の梢に ゐ挙れる
【季語】枯木
惚れぼれと 冬の金星 立ち眺む
【季語】冬
陵や 邑の轍を 枯れ芝に
【季語】枯れ芝
【補足】「陵」の読みは「みささぎ」で、天皇や皇后などの墓所のことです。
往き逢ひし ときより枯野 又遠し
【季語】枯野
雪すべて やみて宙より 一二片
【季語】雪
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