「山眠る」の俳句 50選 この季語の意味は?
「山眠る」という季語は、俳句の季語の中でも珍しいものの一つといえるでしょう。
山を擬人化した季語は四季のそれぞれにありますが、この「山眠る」は冬のもので、「冬の山」という季語とは違った趣向を俳句にもたらします。
このページには、「山眠る」が詠み込まれた俳句の中から 50句を選びました。まるで人が寝ているかのような冬の山の姿が目に浮かぶようなものばかりですので、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 季語「山眠る」の意味は?
- 2 「山眠る」の俳句 50選
- 2.1 あの寺が 常時念仏 山眠る
- 2.2 薄目せる 山も混りて 山眠る
- 2.3 雲巌寺 満山ねむり 青すいと
- 2.4 大いなる 足音きいて 山眠る
- 2.5 奥へ奥へ 夕日を送り 山眠る
- 2.6 帯のごと 頽雪どめして 山眠る
- 2.7 笠編むを たつきの村や 山眠る
- 2.8 笠を編む 麓の村や 山眠る
- 2.9 硝子戸に はんけちかわき 山眠る
- 2.10 木も草も いつか従ひ 山眠る
- 2.11 これからの ことはまかせて 山眠る
- 2.12 さざめくは 水音ばかり 山眠る
- 2.13 自然薯を 抜き損はず 山眠る
- 2.14 十里のみち 二十里のみち 山眠る
- 2.15 炭竃に 塗り込めし火や 山眠る
- 2.16 墨壺の 糸ぴんぴんと 山眠る
- 2.17 谿へだて 山眠りゆく 馬頭仏
- 2.18 ちらちらと 箸ばさむ河豚 山眠る
- 2.19 とある門に 蒲団負ひ入り 山眠る
- 2.20 撫で肩の 山や眠りも 安らかに
- 2.21 南面に 残せる放馬 山眠る
- 2.22 二三日 よく晴れて山眠りけり
- 2.23 廃坑に このごろ月や 山眠る
- 2.24 日あたりの 海ほか~と 山眠る
- 2.25 人を焼く 煙立ちゐて 山眠る
- 2.26 父祖眠る 山を抱きて 山眠る
- 2.27 水の音 ちろろころろと 山眠る
- 2.28 山眠り いま遠き川 遠き村
- 2.29 山眠り 大原は煙 あぐる見ゆ
- 2.30 山眠り 川は声なく 人黙す
- 2.31 山眠り 激流国を 分ちたる
- 2.32 山眠り 椎の実あまた 降らせたり
- 2.33 山眠り 雑木ひとしく 命ため
- 2.34 山眠り 鶏は卵を 孵しけり
- 2.35 山眠りに 入りし僧都の 音なりけり
- 2.36 山眠り 羽虫煙りの ごとく湧く
- 2.37 山眠り 火種のごとく 妻が居り
- 2.38 山眠り 孫は大きく 育ちけり
- 2.39 山眠る 温泉のまちの 人やさし
- 2.40 山眠る 木も草もまこと 整然と
- 2.41 山眠る 景そのままに 窓ひらく
- 2.42 山眠る 如き心に 在らばやな
- 2.43 山眠る 如く机に もたれけり
- 2.44 山眠る ごとくに臥すか 牛として
- 2.45 山眠る 石仏無韻の 鈴を振り
- 2.46 山眠る 机の疵の 一つならず
- 2.47 山眠る 中に貴船の 鳥居かな
- 2.48 山眠る 西日泉の 眼と別れ
- 2.49 山眠る 飛騨の質屋の 暖簾かな
- 2.50 山眠る 星の投網を 打つごとく
季語「山眠る」の意味は?
まず最初に、「山眠る」の意味を確認しておきましょう。
「山眠る」は、冬の山が静かに横たわっている様子を擬人的にいったもので、冬の季語です。
この季語の由来は、中国の北宋の山水画家・郭煕(かくき)の言葉です。四季それぞれについて述べられていて、春・夏・秋・冬の 4種類の季語となっています。
季節 | 言葉 | 季語 |
春 | 春山淡冶而如笑 | 山笑う |
夏 | 夏山蒼翠而如滴 | 山滴る |
秋 | 秋山明淨而如粧 | 山粧う |
冬 | 冬山慘淡而如眠 | 山眠る |
「山眠る」だけでなく、「眠る山」や「山眠りけり」などと使われることもあります。
「山眠る」の俳句 50選
「山眠る」が詠まれた句を集め、俳句の文字の五十音順に並べてあります。
ごゆっくりどうぞ。
あの寺が 常時念仏 山眠る
【作者】阿波野青畝(あわの せいほ)
薄目せる 山も混りて 山眠る
【作者】能村登四郎(のむら としろう)
雲巌寺 満山ねむり 青すいと
【作者】加藤秋邨(かとう しゅうそん)
【補足】雲巌寺(うんがんじ)は、栃木県大田原市(おおたわらし)にある臨済宗(りんざいしゅう)の寺院で、正式名は「東山(とうざん)雲巌寺」です。満山(まんざん)とは、山全体という意味です。また、「青すい(青翠)」とは、青々とした山や樹木を表現する言葉です。
大いなる 足音きいて 山眠る
【作者】前田普羅(まえだ ふら)
奥へ奥へ 夕日を送り 山眠る
【作者】大野林火(おおの りんか)
帯のごと 頽雪どめして 山眠る
【作者】前田普羅
【補足】頽雪(たいせつ)とは、雪崩(なだれ)のことです。
笠編むを たつきの村や 山眠る
【作者】金尾梅の門(かなお うめのかど)
【補足】「たつき」とは、生計(せいけい:暮らしてゆくための方法・手段)のことです。
笠を編む 麓の村や 山眠る
【作者】内田百間(うちだ ひゃっけん)
【補足】「麓」の読み方は「ふもと」です。
硝子戸に はんけちかわき 山眠る
【作者】久保田万太郎(くぼた まんたろう)
【補足】「硝子戸」の読み方は「ガラスど」です。
木も草も いつか従ひ 山眠る
【作者】桂 信子(かつら のぶこ)
これからの ことはまかせて 山眠る
【作者】桂 信子
さざめくは 水音ばかり 山眠る
【作者】稲畑汀子(いなはた ていこ)
自然薯を 抜き損はず 山眠る
【作者】平畑静塔(ひらはた せいとう)
【補足】自然薯(じねんじょ)は「ヤマノイモ(山の芋)」のことで、食用とされます。
十里のみち 二十里のみち 山眠る
【作者】高野素十(たかの すじゅう)
【補足】十里、二十里は、それぞれ約 40km、約 80kmとなります。
炭竃に 塗り込めし火や 山眠る
【作者】松本たかし(まつもと たかし)
【補足】「炭竃」の読み方は「すみがま」です。
墨壺の 糸ぴんぴんと 山眠る
【作者】長谷川双魚(はせがわ そうぎょ)
【補足】墨壺(すみつぼ)とは、材木などに直線を引くための工具で、ピンと張った糸をはじくという使い方をします。
谿へだて 山眠りゆく 馬頭仏
【作者】林 翔(はやし しょう)
【補足】「谿」の読み方は「たに(=谷)」です。
ちらちらと 箸ばさむ河豚 山眠る
【作者】秋元不死男(あきもと ふじお)
【補足】「河豚」の読み方は「フグ」です。
とある門に 蒲団負ひ入り 山眠る
【作者】皆吉爽雨(みなよし そうう)
【補足】「蒲団」「負ひ入り」の読み方は、それぞれ「ふとん」「おいいり」です。
撫で肩の 山や眠りも 安らかに
【作者】林 翔
【補足】撫で肩(なでかた)とは、なでおろしたようになだらかに下がった肩のことをいいます。
南面に 残せる放馬 山眠る
【作者】皆吉爽雨
二三日 よく晴れて山眠りけり
【作者】細川加賀(ほそかわ かが)
廃坑に このごろ月や 山眠る
【作者】宮武寒々(みやたけ かんかん)
日あたりの 海ほか~と 山眠る
【作者】尾崎紅葉(おざき こうよう)
人を焼く 煙立ちゐて 山眠る
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
父祖眠る 山を抱きて 山眠る
【作者】福田蓼汀(ふくだ りょうてい)
水の音 ちろろころろと 山眠る
【作者】山口青邨(やまぐち せいそん)
山眠り いま遠き川 遠き村
【作者】中村苑子(なかむら そのこ)
山眠り 大原は煙 あぐる見ゆ
【作者】岸風三楼(きし ふうさんろう)
【補足】大原(おおはら)は比叡山・北西部の地名です。
山眠り 川は声なく 人黙す
【作者】山口青邨
山眠り 激流国を 分ちたる
【作者】松本たかし
山眠り 椎の実あまた 降らせたり
【作者】楠本憲吉(くすもと けんきち)
【補足】椎(しい)はブナ科の樹木です。「あまた(数多)」は「数多く、たくさん」という意味です。
山眠り 雑木ひとしく 命ため
【作者】阿部みどり女(あべ みどりじょ)
【補足】雑木(ぞうき)とは、建築材料にはならないような雑多な樹木のことをいいます。
山眠り 鶏は卵を 孵しけり
【作者】鈴木真砂女(すずき まさじょ)
【補足】「鶏」「孵しけり」の読み方は、それぞれ「とり」「かえしけり」です。
山眠りに 入りし僧都の 音なりけり
【作者】安住 敦(あずみ あつし)
【補足】僧都(そうず)は、僧の官職名です。
山眠り 羽虫煙りの ごとく湧く
【作者】飯田龍太(いいだ りゅうた)
【補足】「羽虫」「湧く」の読み方は、それぞれ「はむし」「わく」です。
山眠り 火種のごとく 妻が居り
【作者】村越化石(むらこし かせき)
【補足】「火種」の読み方は「ひだね」です。
山眠り 孫は大きく 育ちけり
【作者】阿部みどり女
山眠る 温泉のまちの 人やさし
【作者】上村占魚(うえむら せんぎょ)
山眠る 木も草もまこと 整然と
【作者】山口青邨
山眠る 景そのままに 窓ひらく
【作者】桂 信子
山眠る 如き心に 在らばやな
【作者】高田蝶衣(たかだ ちょうい)
【補足】「如き」の読み方は「ごとき」です。
山眠る 如く机に もたれけり
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
山眠る ごとくに臥すか 牛として
【作者】赤尾兜子(あかお とうし)
【補足】「臥す」の読み方は「ふす」です。
山眠る 石仏無韻の 鈴を振り
【作者】福田蓼汀
【補足】無韻(むいん)とは、詩において韻をふまないことです。
山眠る 机の疵の 一つならず
【作者】鈴木真砂女
【補足】「疵」の読み方は「きず」です。
山眠る 中に貴船の 鳥居かな
【作者】高浜虚子
【補足】貴船(きせん)は京都の地名で、「京都の奥座敷」ともいわれます。
山眠る 西日泉の 眼と別れ
【作者】飯田龍太
山眠る 飛騨の質屋の 暖簾かな
【作者】籾山柑子(もみやま かんし)
【補足】「暖簾」の読み方は「のれん」です。
山眠る 星の投網を 打つごとく
【作者】神蔵 器(かみくら うつわ)
【補足】投網(とあみ)とは、魚をとらえるために投げて使う網です。
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