「山笑う」の俳句 20選 この季語の意味は?
「山笑う」という季語は、多くの季語の中でも変わっているものといえるでしょう。
しかし、この季語に出会ったときは多少の違和感を覚えたとしても、それが詠まれた俳句をいくつか読んでいくうちに、いつしか春という季節をうまく表現した言葉だと納得できる季語なのです。
このページには、「山笑う」が詠み込まれた俳句の中から 20句を選びました。春を迎えた山が喜んでいるかのような雰囲気に満ちたものばかりですので、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 季語「山笑う」の意味は?
- 2 「山笑う」の俳句 20
- 2.1 牛小屋に 牛の新角 山笑ふ
- 2.2 逆光に 山笑ひつつ 暮れなづむ
- 2.3 伐口の 大円盤や 山笑ふ
- 2.4 三畳の 仏間より見え 山笑ふ
- 2.5 島山の 笑ふをながめ 磯づたひ
- 2.6 初空や 袋も山の 笑ひより
- 2.7 腹に在る 家動かして 山笑ふ
- 2.8 人乗せて 馬の機嫌や 山笑ふ
- 2.9 故郷や どちらを見ても 山笑ふ
- 2.10 穂が抜ける 矢立の筆の 山笑ふ
- 2.11 ほろ~と 土まろばせて 山笑ふ
- 2.12 水底の 石のゆらめき 山笑ふ
- 2.13 山笑ふ 今日の日和や 洗ひ張
- 2.14 山笑ふ 子供千人 隠れゐて
- 2.15 山笑ふ 歳月人を 隔てけり
- 2.16 山笑ふ 日の古障子 明けておく
- 2.17 山笑ふ 日や放れ家の 小酒盛
- 2.18 山笑ふ ふるさとびとの 誰彼に
- 2.19 余生とは 歩くことらし 山笑ふ
- 2.20 笑ふ山 見返る雁の 行衛かな
季語「山笑う」の意味は?
まず最初に、「山笑う」の意味を確認しておきましょう。
「山笑う」は春の山の生き生きとして明るい様子を擬人的にいったもので、春の季語です。
この季語の由来は、中国の北宋の山水画家・郭煕(かくき)の言葉です。四季それぞれについて述べられていて、春・夏・秋・冬の 4種類の季語となっています。
季節 | 言葉 | 季語 |
春 | 春山淡冶而如笑 | 山笑う |
夏 | 夏山蒼翠而如滴 | 山滴る |
秋 | 秋山明淨而如粧 | 山粧う |
冬 | 冬山慘淡而如眠 | 山眠る |
「山笑う」の俳句 20
「山笑う」が詠まれた句を集め、俳句の文字の五十音順に並べてあります。
ごゆっくりどうぞ。
牛小屋に 牛の新角 山笑ふ
【作者】皆吉爽雨(みなよし そうう)
逆光に 山笑ひつつ 暮れなづむ
【作者】佐藤春夫(さとう はるお)
【補足】「暮れなづむ」は「日が暮れそうでいて、なかなか暮れない状態」を表現する言葉です。他の季語では「暮れ遅し」「遅き日」「遅日(ちじつ)」と同義です。
伐口の 大円盤や 山笑ふ
【作者】阿波野青畝(あわの せいほ)
【補足】「伐口」の読み方は「きりくち(=切口)」です。
三畳の 仏間より見え 山笑ふ
【作者】長谷川双魚(はせがわ そうぎょ)
【補足】仏間(ぶつま)とは、仏像・位牌(いはい)が安置してある部屋のことです。
島山の 笑ふをながめ 磯づたひ
【作者】上村占魚(うえむら せんぎょ)
【補足】島山(しまやま)とは、島にある山、山の形をしている島のことをいいます。
初空や 袋も山の 笑ひより
【作者】加賀千代女(かがのちよじょ)
【補足】初空(はつそら)は元日の大空のことで、冬(しんねん)の季語です。
腹に在る 家動かして 山笑ふ
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
人乗せて 馬の機嫌や 山笑ふ
【作者】長谷川かな女(はせがわ かなじょ)
【補足】「機嫌」の読み方は「きげん」です。
故郷や どちらを見ても 山笑ふ
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】「故郷」の読み方は「ふるさと」です。
穂が抜ける 矢立の筆の 山笑ふ
【作者】野村喜舟(のむら きしゅう)
【補足】矢立(やたて)とは、筆と墨を携帯するための道具です。墨壺(すみつぼ)に筒を取り付けて筆を入れるもの、墨壺と筆が入る筒を紐でつないだものなどがあります。
ほろ~と 土まろばせて 山笑ふ
【作者】星野立子(ほしの たつこ)
【補足】「土まろばせて」は「土を転がして」という意味です。
水底の 石のゆらめき 山笑ふ
【作者】長谷川櫂(はせがわ かい)
山笑ふ 今日の日和や 洗ひ張
【作者】井上井月(いのうえ せいげつ)
【補足】日和(ひより)は天候・空模様のことをいいます。洗ひ張(あらいはり)とは、着物をほどいて洗い、糊(のり)をつけて板に張ったりして干すことをいいます。
山笑ふ 子供千人 隠れゐて
【作者】平井照敏(ひらい しょうびん)
山笑ふ 歳月人を 隔てけり
【作者】鈴木真砂女(すずき まさごじょ)
【補足】「隔て」の読み方は「へだて」です。
山笑ふ 日の古障子 明けておく
【作者】野嶋島人
【補足】「古障子」の読み方は「ふるしょうじ」です。
山笑ふ 日や放れ家の 小酒盛
【作者】井上井月
山笑ふ ふるさとびとの 誰彼に
【作者】楠本憲吉(くすもと けんきち)
【補足】「誰彼に(だれかれに)」は「あの人この人に」の意味です。
余生とは 歩くことらし 山笑ふ
【作者】清水基吉(しみず もとよし)
笑ふ山 見返る雁の 行衛かな
【作者】子曳(しえい)
【補足】「行衛」の読み方は「ゆくえ(行方)」です。
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