1月の短歌・和歌 20選 -晩冬-
年が明けて 1月になると、待ちに待ったお正月の楽しい雰囲気に包まれます。
しかし、七草、鏡開きなどの行事が終わると、暦の大寒の文字が目に入るようになり、冬の寒さは一層厳しさをましていきます。
このページには、1月特有の風物・光景や心境などが詠み込まれた短歌・和歌を集めましたので、是非とも鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 1月の短歌 10選
- 1.1 暁の 外の雪見んと人をして 窓のガラスの露拭はしむ
- 1.2 かしの実も 共にまじりて山かげの 庭の小ざさに降る霰かな
- 1.3 黄いろなる 水仙の花あまた咲き そよりと風は吹きすぎにけり
- 1.4 竹おほき 山べの村の冬しづみ 雪降らなくに寒に入りけり
- 1.5 父母と 今朝もたばしる白玉の 霰のさやぎ見るが幽けさ
- 1.6 つつましき 冬の心に手をのべぬ 共に遊べと朝の霰は
- 1.7 冬涸るる 華厳の滝の滝壺に 百千の氷柱天垂らしたり
- 1.8 真中の 小さき黄色のさかづきに 甘き香もれる水仙の花
- 1.9 山峡を 好みてわれはのぼり来ぬ 雪の氷柱のうつくしくして
- 1.10 わが庭に 鶩ら啼きてゐたれども 雪こそつもれ庭もほどろに
- 2 1月の和歌 10選
- 2.1 あしひきの 山ゐにふれる白雪は すれる衣の心地こそすれ
- 2.2 跡つけし その昔こそ恋しけれ のどかにつもる雪を見るにも
- 2.3 浦ちかく ふりくる雪は白波の 末の松山こすかとぞ見る
- 2.4 草のうへに ここら玉ゐし白露を 下葉の霜とむすぶ冬かな
- 2.5 つららゐて みがけるかげの見ゆるかな まことにいまや玉川の水
- 2.6 野辺みれば 尾花がもとの思ひ草 かれゆく冬になりぞしにける
- 2.7 松陰の 浅茅が上の白雪を 消たずておかむ言はかもなき
- 2.8 夕暮の みぞれにしみやとけぬらん 垂氷づたひに雫落つなり
- 2.9 雪ふれば 谷のかけはしうづもれて 梢ぞ冬の山路なりける
- 2.10 雪ふれば 冬ごもりせる草も木も 春にしられぬ花ぞ咲きける
1月の短歌 10選
それでは、近代(明治)以降の歌で「1月の短歌」としてふさわしいものからみていきましょう。
暁の 外の雪見んと人をして 窓のガラスの露拭はしむ
【作者】正岡子規(まさおか しき)
かしの実も 共にまじりて山かげの 庭の小ざさに降る霰かな
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
【補足】「霰」の読み方は「あられ」です。なお、「みぞれ」の漢字表記は「霙」です。
黄いろなる 水仙の花あまた咲き そよりと風は吹きすぎにけり
【作者】古泉千樫(こいずみ ちかし)
【補足】「あまた」は「数多く、たくさん」の意味です。
竹おほき 山べの村の冬しづみ 雪降らなくに寒に入りけり
【作者】斎藤茂吉(さいとう もきち)
【補足】暦の二十四節気の「小寒(しょうかん)」が寒の入りになります。
【参考】寒の入りとは?
父母と 今朝もたばしる白玉の 霰のさやぎ見るが幽けさ
【作者】北原白秋(きたはら はくしゅう)
【補足】「たばしる」は「ほとばしる」と同義です。「幽けさ(=かすかであること)」の読みは「かそけさ」です。
つつましき 冬の心に手をのべぬ 共に遊べと朝の霰は
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
冬涸るる 華厳の滝の滝壺に 百千の氷柱天垂らしたり
【作者】伊藤左千夫(いとう さちお)
【補足】「氷柱」の読みは「つらら」です。
真中の 小さき黄色のさかづきに 甘き香もれる水仙の花
【作者】木下利玄(きのした りげん)
山峡を 好みてわれはのぼり来ぬ 雪の氷柱のうつくしくして
【作者】斎藤茂吉
【補足】「山峡」の読み方は「やまかい」です。
わが庭に 鶩ら啼きてゐたれども 雪こそつもれ庭もほどろに
【作者】斎藤茂吉
【補足】「ほどろに」は「まだらに」という意味です。
1月の和歌 10選
次に、近代(明治)よりも前の歌で「1月の和歌」としてふさわしいものをみていきましょう。
なお、三十六歌仙については、こちらのページをご覧になってください。
あしひきの 山ゐにふれる白雪は すれる衣の心地こそすれ
【現代語訳】山井(=湧き水でできた自然の井戸)に降っている白雪は、摺り染めの衣のような感じがする
【作者】伊勢(いせ)
【採録】拾遺抄(しゅういしょう)
【補足】女流歌人の伊勢は、三十六歌仙の一人です。「あしひきの」は「山」などに掛かる枕詞(まくらことば)です。
跡つけし その昔こそ恋しけれ のどかにつもる雪を見るにも
【現代語訳】(雪に)跡をつけた、その昔が恋しい… のどかに積もる雪を見ると…
【詞書】千五百番歌合に
【作者】小侍従(こじじゅう)
【採録】新後拾遺和歌集(しんごしゅういわかしゅう)
浦ちかく ふりくる雪は白波の 末の松山こすかとぞ見る
【現代語訳】浦(=入り江)の近くまで降ってくる雪は、白波が末の松山を越えるかのように見える
【作者】藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
【採録】古今和歌集(こきんわかしゅう)、新撰和歌集(しんせんわかしゅう)など
【補足】興風は三十六歌仙の一人です。
草のうへに ここら玉ゐし白露を 下葉の霜とむすぶ冬かな
【現代語訳】草の上に多く玉のように置かれた白露を、(今は)下葉の霜にしてしまう冬なのだなあ…
【作者】曾禰好忠(そねのよしただ)
【採録】新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)
つららゐて みがけるかげの見ゆるかな まことにいまや玉川の水
【現代語訳】氷が張って、磨いたような光が見える… 本当に今(まさにこれが)、玉川の水…
【詞書】百首歌めしける時、氷の歌とてよませ給うける
【作者】崇徳院(すとくいん)
【採録】千載和歌集(せんざいわかしゅう)
野辺みれば 尾花がもとの思ひ草 かれゆく冬になりぞしにける
【現代語訳】野辺を見ると、尾花の下の思い草が枯れてゆく冬になってしまった
【作者】和泉式部(いずみしきぶ)
【採録】新古今和歌集
【本歌】道の辺の 尾花がもとの思ひ草 今さらさらに何をかおもはむ(万葉集)
松陰の 浅茅が上の白雪を 消たずておかむ言はかもなき
【現代語訳】松の木の陰の浅茅の上の白雪を、消さずにおく言葉はないのだろうか
【作者】大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)
【採録】万葉集(まんようしゅう)
【補足】浅茅(あさじ)とは、丈の低い茅(ちがや)のことをいいます。
夕暮の みぞれにしみやとけぬらん 垂氷づたひに雫落つなり
【現代語訳】夕暮れの霙に(よって)凍っていたものが解けたのだろうか、氷柱(つらら)づたいに雫(しずく)が落ちる音がする
【詞書】霙
【作者】源兼昌(みなもとのかねまさ)
【採録】永久百首(えいきゅうひゃくしゅ)
雪ふれば 谷のかけはしうづもれて 梢ぞ冬の山路なりける
【現代語訳】雪が降ると、谷の架け橋は埋もれて、(木々の)梢(こずえ)が冬の(通る)山道となっている
【詞書】京極前太政大臣の高陽院の家の歌合に雪の歌とてよみ侍りける
【作者】源俊頼(みなもとのとしより、しゅんらい)
【採録】千載和歌集、後葉和歌集(ごようわかしゅう)、続詞花和歌集(しょくしかわかしゅう)など
雪ふれば 冬ごもりせる草も木も 春にしられぬ花ぞ咲きける
【現代語訳】雪が降ると、冬ごもりをしている草も木も、春が知ることもない花を咲かせている
【作者】紀貫之(きのつらゆき)
【採録】古今和歌集、定家八代抄(さだいえはちだいしょう)など
【補足】貫之は三十六歌仙の一人です。
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