二百十日とは? どんな意味がありますか? 【2023年版】
「二百十日」という文字をみると、私の頭の中では「台風」という言葉に置き換わってしまいます。
これは、以前に夏目漱石の『二百十日』と『野分』の2つの小説を立て続けに読んだことによります。この2つのタイトルと内容が混ざり合い、本来は「野分=台風」であるべきなのですが「二百十日=台風」という思い込みがなかなか抜けないのです。あながち間違いとは言えない部分もあるのですが…
このページでは、その二百十日の意味を中心にみていくことにしましょう。
二百十日とは? 2023年は何月何日?
二百十日(にひゃくとおか)は雑節(ざっせつ)の一つで、「立春から数えて210日目」のことをいいます。
今年 2023年の二百十日は 9月 1日(金)で、この日付は毎年 9月1日頃です。
【参考】 雑節とは?
【いつから 210日目…??】
少し細かい話になりますが、210日の起算日は「立春」です。
つまり、立春の日を1日目として数えた210日目が「二百十日」になります。
立春の翌日から 1、2…と数え始めた場合には、二百十日は209日後ということになります。
他の雑節で数字が入ったものには、八十八夜(はちじゅうはちや)と二百二十日(にひゃくはつか)がありますが、いずれも立春から数え始めます。
二百十日の意味は?
二百十日は「台風がくる日」「風が強い日」とされてきましたが、実際には二百十日に台風が特別多いわけではありません。むしろ 8月の下旬や 9月の中旬のほうがデータ的には台風が多く、二百十日の頃は少ない傾向にあります。
それでは何故、台風の特異日のように伝えられてきたのでしょうか? この理由は、二百十日が旧暦の時代にできたものだからです。
江戸時代の1634年の文書に二百十日の記述が確認されていて、二百十日は旧暦の時代から生活に取り入れられてきました。
旧暦は月の満ち欠けをもとにした暦なので、二百十日の日付も30日くらいの間を変化していました。ですから、現在と比べれば「台風がくる日」として認識される可能性も高かったはずです。
二百十日は、八朔(はっさく=旧暦の 8月1日のこと)や二百二十日とともに、農家にとっての三大厄日とされてきました。台風や大風(おおかぜ)は、稲をはじめとして農作物に大きな影響を及ぼすので、二百十日に注意を喚起する意味合いもあるわけです。
そもそも雑節は、中国の気候をもとにした二十四節気を補うために暦に取り入れたものです。前述の八十八夜が遅霜(おそじも)への注意を喚起しているように、二百十日は台風などに対する注意を促がすもので、日本の暮らしに密着したものといえるでしょう。
また、二百十日の時期の行事としては、各地で風鎮めの祭り(風祭り)が行われています。そのうちのいくつかを挙げておきましょう。
- 龍田大社・風鎮大祭(奈良県生駒郡) … 7月第一日曜日
- 風鎮祭(熊本県阿蘇郡高森町) … 8月中旬
- 伊和神社・風鎮祭(兵庫県宍粟市) … 8月26日
- 彌彦神社・風神祭(新潟県西蒲原郡) … 二百十日の日
二百十日にまつわること
二百十日に関することを、いくつかみていきましょう。
二百二十日
前出の二百二十日(にひゃくはつか)は二百十日の 10日後で、やはり「台風がくる日」「風が強い日」とされてきました。
台風の統計をみると、二百十日~ 9月下旬の時期に来ることが多いので、この二百二十日の方が注意が必要といえるでしょう。
文学の中の二百十日
現代では確度が高い天気予報などの情報が得られるので、「二百十日」に頼ることは減ってきているでしょう。
しかし、かつては二百十日という日は強く意識されていました。それは小説などにも多く残されているので、具体的にいくつかをみてみましょう。
もう二百十日が近いからと云って、篠竹を沢山買って来て、女郎花やら藤袴やらに一本一本それを立て副えて縛っていた。しかし二百十日は無事に過ぎてしまった。
『雁』森鴎外(もり おうがい)
二百十日の風と雨と煙りは満目の草を埋うずめ尽くして、一丁先は靡びく姿さえ、判然と見えぬようになった。
『二百十日』夏目漱石(なつめ そうせき)
昨日は二百十日だい。本当なら兄さんたちと一緒にずうっと北の方へ行ってるんだ。
『風野又三郎』宮沢賢治(みやざわ けんじ)
きょうは二百十日なのだ。そうと気がつくと、なんとなくあらしをふくんだ風が、じゃけんにほおをなぐり、潮っぽいかおりをぞんぶんにただよわせている。
『二十四の瞳』壺井栄(つぼい さかえ)
百姓らが二百十日の大嵐にもたとえて恐怖していたのも、またその勅使代理の一行であった。
『夜明け前』島崎藤村(しまざき とうそん)
日本海は九月の声をきくと急速に秋になる。二百十日の嵐でも吹けば、再び夏に戻るということはない。
『明日は天気になれ』坂口安吾(さかぐち あんご)
例えば二百十日に颱風を聯想させたようなものかもしれない。もっとも二百十日や八朔の前後にわたる季節に、南洋方面から来る颱風がいったん北西に向って後に抛物線形の線路を取って日本を通過する機会の比較的多いのは科学的の事実である。そういう季節の目標として見れば二百十日も意味のない事はない。
『厄年と etc.』寺田寅彦(てらだ とらひこ)
手形の俗称
手形(約束手形)の手形サイト(=振出日から支払期日までの期間)が 210日のものは、雑節の二百十日にちなんで「台風手形」と呼ばれることがあります。
まとめ
- 二百十日(にひゃくとおか)は雑節の一つで、立春から数えて210日目のことです。
- 二百十日の起算日(1日目)は「立春」です。
- 2023年の二百十日は 9月 1日(金)です。
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