鰯の俳句 30選 -いわし-
私たちにとって、鰯はとても馴染みのある魚で、いろいろな料理で食用としています。また、「鰯の頭も信心から」ということわざや、柊鰯(ひいらぎいわし)の風習などによっても広く知られています。
このような「鰯」は俳句において秋の季語でもあり、多くの作品に詠み込まれてきました。
このページには、鰯が詠まれた俳句の中から 30句を選びました。鰯がある秋の雰囲気に満ちた作品ばかりですので、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 鰯の俳句 30選
- 1.1 網あけて 鰯ちらばる 浜辺哉
- 1.2 安房へ来て 鰯に飽きし 脚気哉
- 1.3 鰯裂くに 指先二本 安房育ち
- 1.4 鰯引き 見て居るわれや 影法師
- 1.5 鰯ひく 親船子船 夕やけぬ
- 1.6 鰯干す 宮も藁屋も 温かし
- 1.7 鰯めせ めせとや泣子 負ひながら
- 1.8 打よする 波をふまへて 鰯曳く
- 1.9 海荒れて 膳に上るは 鰯かな
- 1.10 尾の焦げて うるめ鰯の 痩せたる眼
- 1.11 小鰯や 菜よりも安き 二三日
- 1.12 三銭の 鰯包むや 竹の皮
- 1.13 塩鰯 啖つて象牙の 塔を去らず
- 1.14 障子貼る 鰯干場を 目の下に
- 1.15 捨鰯 浜に夕日の 裏日本
- 1.16 太刀魚も 干してもとより 鰯干す
- 1.17 誕生日 安き鰯を 買ひにけり
- 1.18 ちちははが 鰯になった 水あかり
- 1.19 東西に 砂丘冷たき 鰯曳
- 1.20 としの夜の 鰤や鰯や 三の膳
- 1.21 西日して 薄紫の 干鰯
- 1.22 残してや 家路を急ぐ 鰯売
- 1.23 麦秋や 子を負ひながら 鰯売
- 1.24 八方に 鰯が立って 秋の道
- 1.25 一ト塩の 鰯焼きけり 十三夜
- 1.26 舟宿に 鰯さしたる 夕哉
- 1.27 ふるさとや 東風寒き日の 鰯売り
- 1.28 干鰯 たやさぬ冬の 深まりて
- 1.29 暮色濃く 鰯焼く香の 豊かなる
- 1.30 夕焼や 鰯の網に 人だかり
鰯の俳句 30選
鰯が詠み込まれた俳句を集め、句の文字の五十音順に並べました。
「鰯」は秋の季語です。
網あけて 鰯ちらばる 浜辺哉
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】「哉(かな)」は詠嘆を表します。
安房へ来て 鰯に飽きし 脚気哉
【作者】正岡子規
【補足】かつての「安房国(あわのくに)」は、現在の千葉県南部にあたります。
鰯裂くに 指先二本 安房育ち
【作者】鈴木真砂女(すずき まさじょ)
【補足】「裂く」の読み方は「さく」です。
鰯引き 見て居るわれや 影法師
【作者】原 石鼎(はら せきてい)
【補足】影法師(かげぼうし)とは、物に映っている人の影のことをいいます。
鰯ひく 親船子船 夕やけぬ
【作者】石田波郷(いしだ はきょう)
鰯干す 宮も藁屋も 温かし
【作者】前田普羅(まえだ ふら)
【補足】藁屋(わらや)とは、わらぶき屋根の家のことです。
鰯めせ めせとや泣子 負ひながら
【作者】小林一茶(こばやし いっさ)
【補足】「めせ」は「召す(=食べるの尊敬語)」の命令形と解します。
打よする 波をふまへて 鰯曳く
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
【補足】「曳く」の読み方は「ひく」です。
海荒れて 膳に上るは 鰯かな
【作者】高浜虚子
尾の焦げて うるめ鰯の 痩せたる眼
【作者】稲畑汀子(いなはた ていこ)
【補足】うるめ鰯(潤目鰯)はイワシの一種で、目がうるんでいるように見えることが名前の由来です。
小鰯や 菜よりも安き 二三日
【作者】尾崎紅葉(おざき こうよう)
三銭の 鰯包むや 竹の皮
【作者】正岡子規
【補足】竹の皮は通気性などに優れているため、古くから包装材として用いられてきました。
塩鰯 啖つて象牙の 塔を去らず
【作者】竹下しづの女(たけした しずのじょ)
【補足】「啖つて」の読み方は「くって、くらって」です。
障子貼る 鰯干場を 目の下に
【作者】鈴木真砂女
【補足】「障子」の読み方は「しょうじ」です。
捨鰯 浜に夕日の 裏日本
【作者】大野林火(おおの りんか)
【補足】裏日本とは、本州の日本海に面する地域のことをいいます。
太刀魚も 干してもとより 鰯干す
【作者】後藤夜半(ごとう やはん)
【補足】太刀魚(たちうお)は細長く太刀(たち)のような形をした魚で、食用とされています。
誕生日 安き鰯を 買ひにけり
【作者】鈴木花蓑(すずき はなみの)
ちちははが 鰯になった 水あかり
【作者】坪内稔典
東西に 砂丘冷たき 鰯曳
【作者】百合山羽公(ゆりやま うこう)
としの夜の 鰤や鰯や 三の膳
【作者】向井去来(むかい きょらい)
【補足】としの夜とは、大晦日(おおみそか)の夜のことです。「鰤」の読み方は「ぶり」です。
西日して 薄紫の 干鰯
【作者】杉田久女(すぎた ひさじょ)
【補足】古い女房言葉(にょうぼうことば:室町時代頃から宮中に仕える女房が使い始めた言葉)では「むらさき」とも呼ばれていました。
残してや 家路を急ぐ 鰯売
【作者】藤野古白(ふじの こはく)
【補足】家路(いえじ)とは、自分の家へ帰るみちのことをいいます。
麦秋や 子を負ひながら 鰯売
【作者】小林一茶
【補足】麦秋(ばくしゅう、むぎあき)とは、麦が熟して取り入れる初夏の頃をいいます。
八方に 鰯が立って 秋の道
【作者】坪内稔典(つぼうち としのり)
一ト塩の 鰯焼きけり 十三夜
【作者】野村喜舟(のむら きしゅう)
【補足】「一ト塩」の読み方は「ひとしお」です。十三夜(じゅうさんや)は旧暦13日の夜のことで、特に月見をする風習がある旧暦 9月13日の夜のことを意味します。
舟宿に 鰯さしたる 夕哉
【作者】松瀬青々(まつせ せいせい)
【補足】「夕」の読み方は「ゆうべ」です。
ふるさとや 東風寒き日の 鰯売り
【作者】鈴木真砂女
【補足】「東風」の読み方は「こち」です。
干鰯 たやさぬ冬の 深まりて
【作者】室生犀星(むろう さいせい)
暮色濃く 鰯焼く香の 豊かなる
【作者】山口誓子(やまぐち せいし)
【補足】暮色(ぼしょく)とは、夕暮れの景色、夕暮れになったという感じを意味する言葉です。
夕焼や 鰯の網に 人だかり
【作者】正岡子規
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