鍋の俳句 30選 -鍋焼・猪鍋・牡丹鍋-
寒さが厳しい夜などに食べる鍋料理は、冬ならではの格別な魅力に満ちています。
そして、「鍋焼」「猪鍋」「牡丹鍋」などは俳句において冬の季語でもあり、多くの作品に詠み込まれてきました。
このページには、鍋に関する季語が詠まれた俳句を多く集めました。とても冬らしい雰囲気に満ちた作品ばかりですので、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
鍋の俳句 30選
「牡丹鍋」「猪鍋」「鍋焼」が詠み込まれた俳句を集め、句の最初の文字の五十音順に並べました。
まずは、「牡丹鍋」の俳句からみていきましょう。
牡丹鍋の俳句
家の中 獣のにほひ 牡丹鍋
【作者】山口青邨(やまぐち せいそん)
【補足】牡丹鍋(ぼたんなべ)とは、イノシシの肉と野菜などを煮込んだ鍋料理で、猪鍋(ししなべ、いのししなべ)と呼ばれることもあります。
枯枝の 網の目に星 牡丹鍋
【作者】平畑静塔(ひらはた せいとう)
虚子虚子と 呼び捨ての衆 牡丹鍋
【作者】石田小坡(いしだ しょうは)
【補足】高浜虚子(たかはま きょし)は、明治中期から昭和中期にかけての俳人です。「衆(しゅう)」は「多くの人、人々」を意味します。
笹へ来て 風は声立つ 牡丹鍋
【作者】鍵和田秞子(かぎわだ ゆうこ)
しかるべく 煮えて独りの 牡丹鍋
【作者】飯島晴子(いいじま はるこ)
【補足】「しかるべく(然るべく)」は、「適当に、いいように」という意味です。
大根が 一番うまし 牡丹鍋
【作者】右城暮石(うしろ ぼせき)
ぢぢとばば よべの残りの 牡丹鍋
【作者】山口青邨
火のまはり よき花冷えの 牡丹鍋
【作者】能村登四郎(のむら としろう)
【補足】花冷え(はなびえ)とは、桜の花が咲く頃の寒さのことをいいます。
牡丹鍋 素姓知れたる 顔ばかり
【作者】綾部仁喜(あやべ じんき)
【補足】素性(すじょう)とは、「血筋、家柄、出自、生まれ、育ち」を意味します。
牡丹鍋 にぎやかに風 吹きつのる
【作者】原 裕(はら ゆたか)
【補足】「吹きつのる」とは、風がさらに強く吹くことをいいます。
次は、「猪鍋」が詠み込まれた俳句です。
猪鍋の俳句
猪を 飼ひ猪鍋を 商へり
【作者】川口咲子(かわぐち さきこ)
【補足】「商へり」の読み方は「あきなえり」です。
奥の院 參り猪鍋 力にて
【作者】百合山羽公(ゆりやま うこう)
【補足】奥の院(おくのいん)とは、寺社の本堂や本殿より奥にあり、開山祖師の霊像や神霊などを祀(まつ)った場所のことです。
猪鍋の ために弛まぬ 寒さなり
【作者】百合山羽公
【補足】「弛まぬ」の読み方は「ゆるまぬ」です。
猪鍋の もう煮えたろう まだ煮えぬ
【作者】高澤良一(たかざわ よしかず)
猪鍋の 隣室山の闇充つる
【作者】山口草堂(やまぐち そうどう)
【補足】「充つる」の読み方は「みつる」です。
猪鍋や おのおの齢 堰くごとく
【読み】ししなべや おのおのよわい せくごとく
【作者】皆吉爽雨(みなよし そうう)
猪鍋や 波郷友二と 席のなく
【作者】石川桂郎(いしかわ けいろう)
【補足】石川は、石田波郷(いしだ はきょう:昭和初期から後期にかけての俳人)に師事しました。石塚友二(いしづか ともじ)も昭和時代の俳人です。
猪鍋や 山の入日の 下ぶくれ
【作者】鍵和田秞子
【補足】入日(いりひ)とは、夕日、落日のことをいいます。
猪鍋を たべて女の 血を荒す
【作者】稲垣きくの(いながき きくの)
爛々と 猪鍋を食ふ 女かな
【作者】藤田湘子(ふじた しょうし)
【補足】「爛々(らんらん)」とは、きらきらと光るさまを表現する言葉です。
最後に、「鍋焼」の俳句をみていきましょう。
鍋焼の俳句
北風に 鍋焼饂飩 呼びかけたり
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】「鍋焼饂飩」の読み方は「なべやきうどん」です。
鍋焼と きめて暖簾を くぐり入る
【作者】西山泊雲(にしやま あ はくうん)
【補足】「暖簾」の読み方は「のれん」です。
鍋焼に 卵黄の月 おとしけり
【作者】上田五千石(うえだ ごせんごく)
鍋焼の 行燈を打つ 霰かな
【読み】なべやきの あんどんをうつ あられかな
【作者】正岡子規
鍋焼の 小暗き路地を はいりけり
【作者】寺田寅彦(てらだ とらひこ)
【補足】「小暗き(こぐらき)」は、「やや暗い、いくらか暗い、うす暗い」という意味です。
鍋焼の 火をとろくして 語る哉
【作者】尾崎紅葉(おざき こうよう)
【補足】「哉(かな)」は、詠嘆の意を表現します。
鍋焼や 主が猪口の癖久し
【作者】尾崎紅葉
【補足】猪口(ちょこ、ちょく)は、酒を飲むための小さな器です。
鍋焼や 隠れごころに 伊勢の旅
【作者】角川源義(かどかわ げんよし)
【補足】「隠れごころ」とは、世を避けて隠れようとする心のことをいいます。
鍋焼や 火事場に遠き 坂の上
【作者】正岡子規
鍋焼や 泊ると決めて 父の家
【作者】篠田悌二郎(しのだ ていじろう)
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