夏の短歌 ベスト30! 【保存版】
日本が誇る文芸作品のうち、わずか 17文字の俳句も素晴らしいのですが、31文字の短歌もとても魅力的です。
そして、短歌を鑑賞するときに感じるのは、やはり日本の豊かな自然と、それから生み出される美しい四季の風物でしょう。
短歌には季語の概念がありませんが、四季のうちのいずれかの季節のイメージを強く持っているものが数多くあります。
このページには、夏のイメージを持った歌を集めてみました。これらから夏という季節を感じてみてください。
目次
- 1 夏の短歌について
- 2 夏の短歌 ベスト30
- 2.1 青玉の しだれ花火のちりかかり 消ゆる途上を君よいそがむ
- 2.2 あかねさす 日の入りがたの百日紅 くれなゐ深く萎れたり見ゆ
- 2.3 あつき日を 幾日も吸ひてつゆ甘く 葡萄の熟す深き夏かな
- 2.4 あめつちの 恋は御歌にかたどられ 完たかるべくさゆり花さく
- 2.5 いそぎつつ 朝は出でゆく街角に 咲きて久しき百日紅の花
- 2.6 海の上 つりがね草の袋より やや赤ばみて夕立ぞ降る
- 2.7 炎天の ひかり明るき街路樹を 馬かじり居り人はあらなく
- 2.8 大き花 ならび立てども日まはりや 疲れにぶりてみな日に向かず
- 2.9 恋するや 遠き国をば思へるや このたそがれの睡蓮の花
- 2.10 子どもらが 鬼ごとをして去りしより 日ぐれに遠しさるすべりの花
- 2.11 山中の しづけき町に蝉の音の 四方よそそぎてくれ入りにけり
- 2.12 白鳥(しらとり)は かなしからずや空の青 海のあおにも染まずただよう
- 2.13 たち出でて いざ涼まばや夕がほの 垣根に月もかかりそめにき
- 2.14 たでの花 簾にさすと寝ておもふ 日のくれ方の夏の虹かな
- 2.15 東海の 小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたはむる
- 2.16 ときすてし 絽の夏帯の水あさぎ なまめくままに夏や往にけむ
- 2.17 飛ぶ蛍 ひかりさびしく見ゆるまで なつはふかくもなりにけるかな
- 2.18 夏草の 花のくれなゐなにとなく うとみながらに挿しにけるかな
- 2.19 夏木立 青きが上に夕雲の いく色となく下る遠かた
- 2.20 夏の草 なまぐさきまま堂に入り 磬をたたけば夕立きたる
- 2.21 夏の月 薄らにかかり砂浜の 貝の葉めきてなつかしきかな
- 2.22 夏の土 ふかく曇れりふところに 蝉を鳴かせて童子行きたり
- 2.23 何ごとも 夢のごとくに過ぎにけり 万燈(まんどう)の上の桃色の月
- 2.24 春過ぎて 夏来にけりとおもほゆる 大藤棚のながき藤浪
- 2.25 昼顔の 花咲く濱の真砂路に 跡もとどめず夕立の雨
- 2.26 松蔭に わきて流るる眞清水の 藻にすむ魚は夏をしらじな
- 2.27 むさしのの しののをすすきかたよりに なびけば残る有明の月
- 2.28 眼ざむるや さやかにそれとわきがたき ゆめに疲れし夏のしののめ
- 2.29 ゆあみする 泉の底の小百合花 二十の夏をうつくしと見ぬ
- 2.30 夕やけの 光の街は瓦斯(ガス)の灯の 青くあやしく満ちゆかんとす
夏の短歌について
「夏」と関連がある短歌、「夏」を想起するようなものを選びました。
並んでいる順番は、歌の文字の五十音順です。
夏の短歌 ベスト30
青玉の しだれ花火のちりかかり 消ゆる途上を君よいそがむ
【作者】北原白秋(きたはら はくしゅう)
【補足】白秋は詩や短歌だけでなく、童謡などにも数多くの傑作を残しています。『あめふり(あめあめ ふれふれ かあさんが…)』や『ペチカ(雪の降る夜は楽しいペチカ…)』など、私たちは子どもの頃から白秋の作品に接してきました。
あかねさす 日の入りがたの百日紅 くれなゐ深く萎れたり見ゆ
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
【補足】赤彦の歌論は、「鍛錬」や「一心の道」を中心としたものでした。5歳のときに百人一首を暗記したといいます。
あつき日を 幾日も吸ひてつゆ甘く 葡萄の熟す深き夏かな
【作者】木下利玄(きのした りげん)
【補足】利玄は、小説家の武者小路実篤(むしゃのこうじ さねあつ)や志賀直哉(しが なおや)らと文芸雑誌「白樺」を創刊しました。
あめつちの 恋は御歌にかたどられ 完たかるべくさゆり花さく
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
【補足】晶子は伝統的な歌壇からは反発を受けましたが、世間の熱狂的支持を受けて浪漫派歌人としての地位を確立し、歌壇に大きな影響を与えました。『柔肌の 熱き血潮に触れもみで…』にちなんで「柔肌の晶子」と呼ばれました。
いそぎつつ 朝は出でゆく街角に 咲きて久しき百日紅の花
【作者】古泉千樫(こいずみ ちかし)
【補足】千樫は、歌人・伊藤左千夫(いとう さちお)に師事しました。
海の上 つりがね草の袋より やや赤ばみて夕立ぞ降る
【作者】与謝野晶子
炎天の ひかり明るき街路樹を 馬かじり居り人はあらなく
【作者】古泉千樫
大き花 ならび立てども日まはりや 疲れにぶりてみな日に向かず
【作者】古泉千樫
恋するや 遠き国をば思へるや このたそがれの睡蓮の花
【作者】与謝野晶子
【補足】「睡蓮(すいれん)」はヒツジグサの漢名で、白い花を午後の未の刻(午後2時を中心とした約2時間)頃に咲かせることから、その名が付けられたといわれています。
子どもらが 鬼ごとをして去りしより 日ぐれに遠しさるすべりの花
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
【補足】「鬼ごと」は鬼ごっこのことです。
山中の しづけき町に蝉の音の 四方よそそぎてくれ入りにけり
【作者】中村憲吉(なかむら けんきち)
【補足】憲吉も伊藤左千夫に師事しました。
白鳥(しらとり)は かなしからずや空の青 海のあおにも染まずただよう
【作者】若山牧水(わかやま ぼくすい)
【補足】自然を愛した牧水は、千本松原の景色に魅了されて、静岡県の沼津に移住しています。北原白秋とは早稲田大学の同級生、石川啄木とも交流があり臨終に立ち会っています。
たち出でて いざ涼まばや夕がほの 垣根に月もかかりそめにき
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
【補足】一葉は肺結核により24歳で亡くなり、作家として活躍したのは一年と数カ月でした。
たでの花 簾にさすと寝ておもふ 日のくれ方の夏の虹かな
【作者】与謝野晶子
【補足】「たで(蓼)」は9月頃から花が咲きはじめます。
東海の 小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたはむる
【作者】石川啄木(いしかわ たくぼく)
【補足】中学生の頃に、文芸誌「明星」の与謝野晶子らの短歌に傾倒していました。友人の若山牧水に看取られ、肺結核で亡くなったのは26歳のときで、葬儀には夏目漱石も参列しています。長女は急性肺炎のために24歳で亡くなり、次女は肺結核により19歳でなくなっています。
ときすてし 絽の夏帯の水あさぎ なまめくままに夏や往にけむ
【作者】芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
【補足】夏目漱石の門下生であった龍之介は、菊池寛(きくち かん)や川端康成(かわばた やすなり)らと交流がありました。夏目漱石の葬儀では受付を務め、訪れた森鴎外の名刺を受け取っています。服毒自殺によって亡くなったのは、満年齢で35歳のときでした。
飛ぶ蛍 ひかりさびしく見ゆるまで なつはふかくもなりにけるかな
【作者】樋口一葉
【補足】一葉は泉鏡花(いずみ きょうか)、島崎藤村(しまざき とうそん)、幸田露伴(こうだ ろはん)、斎藤緑雨(さいとう りょくう)、上田敏(うえだ びん)といった文人たちと交流がありました。
夏草の 花のくれなゐなにとなく うとみながらに挿しにけるかな
【作者】若山牧水
【補足】「うとむ(疎む)」とは、嫌だと思うことです。
夏木立 青きが上に夕雲の いく色となく下る遠かた
【作者】与謝野晶子
【補足】夏木立は数本の木のことで、一本の場合は「夏木(なつき)」となります。
夏の草 なまぐさきまま堂に入り 磬をたたけば夕立きたる
【作者】与謝野晶子
【補足】磬(けい)とは、読経の際に打ち鳴らす仏具です。
夏の月 薄らにかかり砂浜の 貝の葉めきてなつかしきかな
【作者】与謝野晶子
【補足】「めきて」は、「らしくなって」の意です。
夏の土 ふかく曇れりふところに 蝉を鳴かせて童子行きたり
【作者】中村憲吉
【補足】童子(どうじ)とは、子供のことをいいます。
何ごとも 夢のごとくに過ぎにけり 万燈(まんどう)の上の桃色の月
【作者】北原白秋
【補足】万燈は、仏前に供える灯火(ともしび)のことです。
春過ぎて 夏来にけりとおもほゆる 大藤棚のながき藤浪
【作者】北原白秋
【補足】持統天皇の「春すぎて 夏来にけらし…」を彷彿とさせる歌ですね。
昼顔の 花咲く濱の真砂路に 跡もとどめず夕立の雨
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】俳句、短歌を含めて、近代の文学に大きな影響を与えました。夏目漱石、南方熊楠(みなかた くまぐす)、山田美妙(やまだ びみょう)らは東大予備門の同窓生です。結核によって、満34歳で亡くなっています。
子規とは、「血を吐くまで鳴く」といわれるホトトギスの漢字表記で、結核を患って喀血した自信を重ね合わせたものです。
「うらやまし ひと日住まばや 子規なく山ざとの柴のいほりに」 (樋口一葉)
松蔭に わきて流るる眞清水の 藻にすむ魚は夏をしらじな
【作者】正岡子規
【補足】「眞」は「真」の旧字体です。
むさしのの しののをすすきかたよりに なびけば残る有明の月
【作者】正岡子規
【補足】すすきと月の組み合わせに風情を感じますね。
眼ざむるや さやかにそれとわきがたき ゆめに疲れし夏のしののめ
【作者】若山牧水
【補足】「しののめ」とは、明け方、夜明けのことです。
ゆあみする 泉の底の小百合花 二十の夏をうつくしと見ぬ
【作者】与謝野晶子
【補足】「ゆあみ(湯浴み)」は入浴することです。
夕やけの 光の街は瓦斯(ガス)の灯の 青くあやしく満ちゆかんとす
【作者】島木赤彦
【補足】明治時代の初期に、街路灯としてガス灯が導入されました。
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