中村汀女の俳句 120選 -春・夏・秋・冬-
中村汀女(なかむら ていじょ)は昭和を代表する女流俳人です。やはり女流俳人である杉田久女と交流があり、憧れからファンレターを出したこともありました。
汀女の俳句には日々の生活を詠んだものも多く、それらからは女性らしさや優しさが強く感じられます。
このページには、中村汀女の俳句の中から季語によって分けた春、夏、秋、冬の俳句をそれぞれ 30句ずつ、合計で 120句を選びました。是非とも、これらをじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 中村汀女の春の俳句 30
- 1.1 会ふ人も もとよりあらね 春の月
- 1.2 美しき 春日こぼるる 手をかざし
- 1.3 帰るべき 細道見えて 夕櫻
- 1.4 肩にある 落花の色は 濃かりけり
- 1.5 かへりみる 月日のなかの 春の河
- 1.6 北の町の 果てなく長し 春の泥
- 1.7 紅梅の 花花影も 重ねずに
- 1.8 子等さへも 夕ぐれあはれ 春しぐれ
- 1.9 枝垂れ枝の 八重紅梅の 裏表
- 1.10 春月の 坂ゆるやかに したがへる
- 1.11 春眠に 花ほどきけり 玉椿
- 1.12 春蘭や 人去りぎはの さびしさに
- 1.13 中空に とまらんとする 落花かな
- 1.14 沈丁花 あちこちにあり 夕まぐれ
- 1.15 手渡しに 子の手こぼるる 雛あられ
- 1.16 軒の梅 風ごうごうと 花得たり
- 1.17 初櫻 長き夕日に あづかりし
- 1.18 初蝶の 黄の確かさの 一閃す
- 1.19 花人や 落花の水に 呼びかはし
- 1.20 春惜しむ 水にをさなき 浮葉かな
- 1.21 春の灯の 平らに頬に 當るかな
- 1.22 春日傘 さへぎり歩む 明るさよ
- 1.23 引いてやる 子の手のぬくき 朧かな
- 1.24 水鳥の 今日ひろひたる 雛あられ
- 1.25 紋付の 紋しみじみと 花の下
- 1.26 夕暮の 久しきままに 糸櫻
- 1.27 夕日愛づ 紅梅を愛づ 声あげて
- 1.28 行き過ぎて 尚連翹の 花明り
- 1.29 夢さめて 春暁の人 みな遠し
- 1.30 夜櫻の 道を教へて 行かせつつ
- 2 中村汀女の夏の俳句 30
- 2.1 暁の その始りの 蝉一つ
- 2.2 雨のすぢ 太きが走る 灯の涼し
- 2.3 洗ひ髪 今ぞ涼しく 闇に梳く
- 2.4 いとけなく 淡き模様の 夏布団
- 2.5 萍や 月夜さだかに かすかにも
- 2.6 衣紋竹 夜更の衣 吊るとして
- 2.7 奥の間の 暗きに使ふ 団扇かな
- 2.8 おくれ咲く 牡丹を剪りて いとほしむ
- 2.9 顔打つて 新樹の風の くだけ散る
- 2.10 髪を結ふ 白き腕や 軒菖蒲
- 2.11 香水の 香あきらかに 身をはなる
- 2.12 香水の 坂にかかりて 匂ひ来し
- 2.13 心ふと うつろにつぶす 苺かな
- 2.14 小説の ヒロイン死ぬや 更衣
- 2.15 白牡丹 暮色見ゆれば よそよそし
- 2.16 セルを着て 玉蟲色の 鼻緒あり
- 2.17 提灯に 顔をそむけて 氷水
- 2.18 ちんどんや 疲れてもどる 夏の月
- 2.19 つと逃げし 蛍の闇の みだれかな
- 2.20 夏雲の 湧きてさだまる 心あり
- 2.21 夏の蝶 忘れたるほど 風に耐へ
- 2.22 番傘の 軽さ明るさ 薔薇の雨
- 2.23 晩涼の 簾をさへも あげぬまま
- 2.24 秘めごとの 如く使へる 扇かな
- 2.25 真上なる 鯉幟まづ 誘ひけり
- 2.26 真円き 月と思へば 夏祭
- 2.27 短夜の 栞忘れし 頁かな
- 2.28 水打ちて よごせし足の 美しく
- 2.29 みづからも 開く扇子の 美しく
- 2.30 浴衣着て ひとりの涼や 真暗がり
- 3 中村汀女の秋の俳句 30
- 3.1 秋草の 花こまやかや どの道も
- 3.2 秋草の 道の案内も さびしさに
- 3.3 秋雨の 降り来し苫に 傘をさす
- 3.4 秋の日の すぐに傾く 白障子
- 3.5 洗髪 月に乾きし うなじかな
- 3.6 一本の 竹のみだれや 十三夜
- 3.7 稲の秋 芒は高く やはらかく
- 3.8 かなしみを 紅葉明りに 語りつぎ
- 3.9 雁渡る 一声づつや 身に遠く
- 3.10 霧見えて 暮るるはやさよ 菊畑
- 3.11 子とありて 笑へる声や 秋の暮
- 3.12 新涼や わがなす用の はたとなく
- 3.13 竹洩るる 月一片の 光かな
- 3.14 提灯を 吊す古釘 秋祭
- 3.15 月出づと もつとも高く 芭蕉立ち
- 3.16 次々に 風落ちて行く 花芒
- 3.17 月まとも 輝きにけり 幼な顔
- 3.18 手直しの はじめの秋の 白襖
- 3.19 泣きし子の 頬の光りや とぶ蜻蛉
- 3.20 人形の 窓辺の髪に 秋の風
- 3.21 蜩に 母の姿を 追ひあそび
- 3.22 久しくて 次なる雁の 鳴き渡る
- 3.23 人波に しばしさからひ 秋の暮
- 3.24 一夜明け 山新しく 赤とんぼ
- 3.25 身かはせば 色変る鯉や 秋の水
- 3.26 右左 秋の風吹き 雲流れ
- 3.27 水櫛に 髪しなやかや 花芙蓉
- 3.28 目をとぢて 秋の夜汽車は すれちがふ
- 3.29 山の雨 ゆく秋水は 別にあり
- 3.30 雪富士の かがやき芒 かがやけり
- 4 中村汀女の冬の俳句 30
- 4.1 足音の いつかひとつに 雪の道
- 4.2 あたたかや 日向ぼこりの またたきの
- 4.3 寝ぬる子が 青しといひし 冬の月
- 4.4 音しげく 我にさからふ 落葉かな
- 4.5 返り花 しつつ時雨の くりかへす
- 4.6 風邪の子や 団栗胡桃 抽斗に
- 4.7 枯れ切つて 菊美しや 一葉忌
- 4.8 枯芭蕉 草生ふ水の あたたかく
- 4.9 寒菊や すでにわれらは 夜にまぎれ
- 4.10 北風を くぐれる水の 早さかな
- 4.11 気にかかる 障子の穴の 古りて来し
- 4.12 ことごとに 人待つ心 寒椿
- 4.13 山茶花に 移らむ心 ひそと居り
- 4.14 しばらくの 霙にぬれし 林かな
- 4.15 咳の子の なぞなぞあそび きりもなや
- 4.16 咳をする 母を見あげて ゐる子かな
- 4.17 高きより たまりこぼるる 落葉かな
- 4.18 月の軒 引き寄せてある 炭俵
- 4.19 ながれゆく 水草もあり 冬日暮る
- 4.20 昃りし ざわめき起きぬ 枯木立
- 4.21 冬木立 何処よりかも 礫かな
- 4.22 冬雨や 襖に映る 佛の灯
- 4.23 冬に入る 暮しさへぎる 白襖
- 4.24 冬薔薇や 日のあるかぎり 暖かし
- 4.25 ふるさとに たよりおこたり 日向ぼこ
- 4.26 水鳥に 人とどまれば 夕日あり
- 4.27 道暮れぬ 焚火明りに あひしより
- 4.28 もの賣の すれちがひつつ 寒の雨
- 4.29 夕焼けて なほそだつなる 氷柱かな
- 4.30 雪しづか 愁なしとは いへざるも
中村汀女の春の俳句 30
春
会ふ人も もとよりあらね 春の月
【季語】春の月
美しき 春日こぼるる 手をかざし
【季語】春日(はるひ、かすが)
帰るべき 細道見えて 夕櫻
【季語】夕櫻(ゆうざくら)
【補足】「櫻」は「桜」の旧字体です。
肩にある 落花の色は 濃かりけり
【季語】落花
かへりみる 月日のなかの 春の河
【季語】春の河
北の町の 果てなく長し 春の泥
【季語】春の泥
【補足】「春の泥」とは「春のぬかるみ」のことで、俳句には「春泥(しゅんでい)」とも詠まれます。
紅梅の 花花影も 重ねずに
【季語】紅梅
子等さへも 夕ぐれあはれ 春しぐれ
【季語】春しぐれ
【補足】しぐれ(時雨)とは、降ったり止んだりする雨のことをいいます。
枝垂れ枝の 八重紅梅の 裏表
【季語】八重紅梅
【補足】「枝垂れる」とは、枝などが長く垂れさがることをいいます。
春月の 坂ゆるやかに したがへる
【季語】春月(しゅんげつ)
春眠に 花ほどきけり 玉椿
【季語】春眠、玉椿
春蘭や 人去りぎはの さびしさに
【季語】春蘭(しゅんらん)
中空に とまらんとする 落花かな
【季語】落花
沈丁花 あちこちにあり 夕まぐれ
【季語】沈丁花(じんちょうげ)
【補足】夕まぐれ(夕間暮れ)は「夕暮れ」と同義です。
手渡しに 子の手こぼるる 雛あられ
【季語】雛あられ
軒の梅 風ごうごうと 花得たり
【季語】梅
初櫻 長き夕日に あづかりし
【季語】初櫻
初蝶の 黄の確かさの 一閃す
【季語】初蝶
【補足】「一閃(いっせん)」とは「さっとひらめくこと、そのひらめき」を意味します。
花人や 落花の水に 呼びかはし
【季語】花人(はなびと)
【補足】花人とは、花見をする人のことをいいます。
春惜しむ 水にをさなき 浮葉かな
【季語】春惜しむ
春の灯の 平らに頬に 當るかな
【季語】春
春日傘 さへぎり歩む 明るさよ
【季語】春日傘(はるひがさ)
引いてやる 子の手のぬくき 朧かな
【季語】朧(おぼろ)
【補足】「ぬくい(温い)」は「暖かい」の意味です。
水鳥の 今日ひろひたる 雛あられ
【季語】雛あられ
紋付の 紋しみじみと 花の下
【季語】花
【補足】紋付(もんつき)とは、紋所(もんどころ=家紋)のついた和服のことをいいます。
夕暮の 久しきままに 糸櫻
【季語】糸櫻(いとざくら)
夕日愛づ 紅梅を愛づ 声あげて
【季語】紅梅
【補足】「愛づ」の読みは「めづ」で、「愛し、いとおしむ」の意です。
行き過ぎて 尚連翹の 花明り
【季語】連翹(れんぎょう)
【補足】「尚」の読みは「なお」です。
夢さめて 春暁の人 みな遠し
【季語】春暁(しゅんぎょう)
夜櫻の 道を教へて 行かせつつ
【季語】夜櫻
中村汀女の夏の俳句 30
夏
暁の その始りの 蝉一つ
【季語】蝉
雨のすぢ 太きが走る 灯の涼し
【季語】涼し
洗ひ髪 今ぞ涼しく 闇に梳く
【季語】涼し
【補足】「梳く」の読みは「すく」です。
いとけなく 淡き模様の 夏布団
【季語】夏布団
萍や 月夜さだかに かすかにも
【季語】萍(うきくさ)
【補足】萍は、池や沼などの水面に浮いて育つ植物のことをいいます。
衣紋竹 夜更の衣 吊るとして
【季語】衣紋竹(えもんだけ)
【補足】衣紋竹とは、衣服を吊るしておく道具で竹製のものをいいます。「夜更」の読みは「よふけ」です。
奥の間の 暗きに使ふ 団扇かな
【季語】団扇(うちわ)
おくれ咲く 牡丹を剪りて いとほしむ
【季語】牡丹(ぼたん)
【補足】「剪りて」の読みは「きりて(=切りて)」です。
顔打つて 新樹の風の くだけ散る
【季語】新樹
髪を結ふ 白き腕や 軒菖蒲
【季語】菖蒲(しょうぶ)
【補足】「腕」の読みは「かいな」です。
香水の 香あきらかに 身をはなる
【季語】香水
香水の 坂にかかりて 匂ひ来し
【季語】香水
心ふと うつろにつぶす 苺かな
【季語】苺(いちご)
小説の ヒロイン死ぬや 更衣
【季語】更衣(ころもがえ)
白牡丹 暮色見ゆれば よそよそし
【季語】白牡丹
【補足】暮色(ぼしょく)とは、夕暮れの景色のことをいいます。
セルを着て 玉蟲色の 鼻緒あり
【季語】セル
【補足】玉蟲色(たまむしいろ)とは、玉虫の羽のように光線の具合で違って見える色のことです。また、セルとは毛織物の生地の名前です。
提灯に 顔をそむけて 氷水
【季語】氷水
【補足】「提燈」の読みは「ちょうちん」です。
ちんどんや 疲れてもどる 夏の月
【季語】夏の月
【補足】ちんどんや(ちんどん屋)とは、人目を引く仮装をして、楽器(鉦:かね、太鼓、三味線、ラッパなど)を鳴らして宣伝や広告をする人・職業をいいます。
つと逃げし 蛍の闇の みだれかな
【季語】蛍
夏雲の 湧きてさだまる 心あり
【季語】夏雲
夏の蝶 忘れたるほど 風に耐へ
【季語】夏の蝶
番傘の 軽さ明るさ 薔薇の雨
【季語】薔薇
【補足】番傘(ばんがさ)とは、紙張りの雨傘のことをいいます。
晩涼の 簾をさへも あげぬまま
【季語】晩涼
【補足】「簾」の読みは「すだれ」です。
秘めごとの 如く使へる 扇かな
【季語】扇
【補足】「如く」の読みは「ごとく」です。
真上なる 鯉幟まづ 誘ひけり
【季語】鯉幟(こいのぼり)
真円き 月と思へば 夏祭
【季語】夏祭
【補足】「真円き」の読みは「まんまるき」です。
短夜の 栞忘れし 頁かな
【季語】短夜
【補足】「栞」の読みは「しおり」です。
水打ちて よごせし足の 美しく
【季語】水打ち
みづからも 開く扇子の 美しく
【季語】扇子(せんす)
浴衣着て ひとりの涼や 真暗がり
【季語】浴衣(ゆかた)
中村汀女の秋の俳句 30
秋
秋草の 花こまやかや どの道も
【季語】秋草
【補足】「こまやか」とは、色の濃いさまを表現する言葉です。
秋草の 道の案内も さびしさに
【季語】秋草
秋雨の 降り来し苫に 傘をさす
【季語】秋雨
【補足】苫(とま)とは、菅(すげ)や茅(ちがや)などで編んだ「こも」のようなものをいいます。
秋の日の すぐに傾く 白障子
【季語】秋の日
洗髪 月に乾きし うなじかな
【季語】月
【補足】「洗髪」の読みは「あらいがみ」です。
一本の 竹のみだれや 十三夜
【季語】十三夜(じゅうさんや)
【補足】十三夜とは旧暦の十三日の夜のことで、特に、月見をする旧暦 9月13日のことをいいます。
稲の秋 芒は高く やはらかく
【季語】稲の秋、芒(すすき)
かなしみを 紅葉明りに 語りつぎ
【季語】紅葉
雁渡る 一声づつや 身に遠く
【季語】雁
霧見えて 暮るるはやさよ 菊畑
【季語】霧、菊
子とありて 笑へる声や 秋の暮
【季語】秋の暮
新涼や わがなす用の はたとなく
【季語】新涼
【補足】「はたと」は、急に行き当たるさまを表現する言葉です。
竹洩るる 月一片の 光かな
【季語】月
【補足】「洩るる」の読みは「もるる」です。
提灯を 吊す古釘 秋祭
【季語】秋祭
月出づと もつとも高く 芭蕉立ち
【季語】月、芭蕉(ばしょう)
【補足】「出づ」の読みは「いづ」です。また、芭蕉は大形の多年生植物です。
次々に 風落ちて行く 花芒
【季語】花芒
月まとも 輝きにけり 幼な顔
【季語】月
手直しの はじめの秋の 白襖
【季語】秋、白襖(しろぶすま)
泣きし子の 頬の光りや とぶ蜻蛉
【季語】蜻蛉(とんぼ)
人形の 窓辺の髪に 秋の風
【季語】秋の風
蜩に 母の姿を 追ひあそび
【季語】蜩(ひぐらし)
久しくて 次なる雁の 鳴き渡る
【季語】雁
人波に しばしさからひ 秋の暮
【季語】秋の暮
一夜明け 山新しく 赤とんぼ
【季語】赤とんぼ
身かはせば 色変る鯉や 秋の水
【季語】秋の水
右左 秋の風吹き 雲流れ
【季語】秋の風
水櫛に 髪しなやかや 花芙蓉
【季語】花芙蓉(はなふよう)
【補足】水櫛(みずぐし)とは、髪をすくために水をつけて使う櫛のことです。
目をとぢて 秋の夜汽車は すれちがふ
【季語】秋
山の雨 ゆく秋水は 別にあり
【季語】秋水
雪富士の かがやき芒 かがやけり
【季語】芒
中村汀女の冬の俳句 30
冬
足音の いつかひとつに 雪の道
【季語】雪
あたたかや 日向ぼこりの またたきの
【季語】日向(ひなた)ぼこり
【補足】「日向ぼこり」は「日向ぼっこ」「日向ぼこ」とも詠まれます。
寝ぬる子が 青しといひし 冬の月
【季語】冬の月
【補足】「寝ぬる」の読みは「いぬる」です。
音しげく 我にさからふ 落葉かな
【季語】落葉
【補足】「しげく」は、絶え間がない状態を表現する言葉です。
返り花 しつつ時雨の くりかへす
【季語】返り花、時雨
【補足】返り花は「帰り花」とも表記され、11月頃の穏やかな日に、本来の季節とは異なって花が咲くことをいいます。
風邪の子や 団栗胡桃 抽斗に
【季語】風邪
【補足】団栗(とんぐり)、胡桃(くるみ)は秋の季語です。「抽斗」の読みは「ひきだし」です。
枯れ切つて 菊美しや 一葉忌
【季語】枯れ菊、一葉忌(いちようき)
【補足】明治時代の小説家・樋口一葉の命日は 11月23日です。
枯芭蕉 草生ふ水の あたたかく
【季語】枯芭蕉
寒菊や すでにわれらは 夜にまぎれ
【季語】寒菊
北風を くぐれる水の 早さかな
【季語】北風
気にかかる 障子の穴の 古りて来し
【季語】障子
ことごとに 人待つ心 寒椿
【季語】寒椿(かんつばき)
山茶花に 移らむ心 ひそと居り
【季語】山茶花(さざんか)
しばらくの 霙にぬれし 林かな
【季語】霙(みぞれ)
咳の子の なぞなぞあそび きりもなや
【季語】咳
咳をする 母を見あげて ゐる子かな
【季語】咳
高きより たまりこぼるる 落葉かな
【季語】落葉
月の軒 引き寄せてある 炭俵
【季語】炭俵
ながれゆく 水草もあり 冬日暮る
【季語】冬日
昃りし ざわめき起きぬ 枯木立
【季語】枯木立
【補足】「昃りし」の読みは「ひかげりし」です。
冬木立 何処よりかも 礫かな
【季語】冬木立
【補足】「礫」の読みは「つぶて、こいし」です。
冬雨や 襖に映る 佛の灯
【季語】冬雨
【補足】「佛」は「仏」の旧字体です。
冬に入る 暮しさへぎる 白襖
【季語】冬、白襖
冬薔薇や 日のあるかぎり 暖かし
【季語】冬薔薇
ふるさとに たよりおこたり 日向ぼこ
【季語】日向ぼこ
水鳥に 人とどまれば 夕日あり
【季語】水鳥
道暮れぬ 焚火明りに あひしより
【季語】焚火(たきび)
もの賣の すれちがひつつ 寒の雨
【季語】寒の雨
【補足】「賣」は「売」の旧字体です。
夕焼けて なほそだつなる 氷柱かな
【季語】氷柱(つらら)
雪しづか 愁なしとは いへざるも
【季語】雪
【補足】「愁」の読みは「うれい」です。
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