俳句で『月』を詠んだもの 50選 -名月- 【有名俳人の名作から厳選】
月を見ていると何かしらの思いが浮かんできて、つい時間を忘れて見入ってしまうことがあります。
月には人の心を惹きつける力があり、古くから人々は和歌、短歌、俳句などにそれを好んで詠み込んできました。
このページでは、「月」「三日月」「名月」「今日の月」などが詠み込まれた俳句を選んでご紹介しています。月をゆっくりと眺めてみたくなるような俳句ばかりなので、どうかじっくりと鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 『月』を詠んだ俳句 50選
- 1.1 藍色の 海の上なり 須磨の月
- 1.2 暁や 夢のこなたに 淡き月
- 1.3 井戸からも ひとつ汲けり けふの月
- 1.4 今しもや さしのぼるらし けふの月
- 1.5 大空の 月の歩みの やや斜め
- 1.6 大空の 真ただ中や けふの月
- 1.7 影ちるや 葛の裏葉の 三日の月
- 1.8 影法師 月に並んで 静かなり
- 1.9 枯れ松の 頂白き 月夜かな
- 1.10 今日の月 全く星を かくしたり
- 1.11 雲去れば 月の歩みの ゆるみつつ
- 1.12 雲の中の 明るさうれし 月を待つ
- 1.13 けふの月 馬も夜道を 好みけり
- 1.14 これこそは 月をあるじや 水の色
- 1.15 子を抱いて 我老いにけり 月今宵
- 1.16 五月雨に 名月ありと しらなんだ
- 1.17 芒抱く 子に満月を 知らさるる
- 1.18 背負はれて 名月拝す 垣の外
- 1.19 父のなき 子に明るさや 今日の月
- 1.20 月出でて 月の色なる 妻の髪
- 1.21 月清し 遊行のもてる 砂の上
- 1.22 月今宵 あるじの翁 舞ひ出でよ
- 1.23 月の前 しばしば望 よみがへる
- 1.24 月の山 大國主命かな
- 1.25 月はやし こずゑはあめを 持ながら
- 1.26 ともし火も 置わするるや けふの月
- 1.27 何事の 見たてにも似ず 三かの月
- 1.28 盗人の 首領歌よむ けふの月
- 1.29 野分せぬ 此名月や 三つの草
- 1.30 遙かにも 彼方にありて 月の海
- 1.31 灯を消すや 障子の裾に 及ぶ月
- 1.32 ふしぎ也 生れた家で けふの月
- 1.33 真つ向に 名月照れり 何はじまる
- 1.34 満月に 行きあたりをる 汀かな
- 1.35 三日月の 隙にてすゝむ 哀かな
- 1.36 三日月の 船行かたや 西の海
- 1.37 湖に うつりし月の 大きさよ
- 1.38 観ることの かなはぬ月の 裾明り
- 1.39 名月に 傾倒したる 一夜かな
- 1.40 名月に 辻の地蔵の ともしかな
- 1.41 名月の たかだかふけて しまひけり
- 1.42 名月の 渡りゆく空 ととのへり
- 1.43 名月へ 色うつりゆく 芒かな
- 1.44 名月や あかるいものに 行きあたり
- 1.45 名月や 大路小路の 京の人
- 1.46 名月や 雲限りなく 敷き連ね
- 1.47 名月や 何所までのばす 富士の裾
- 1.48 名月や 松にかゝれば 松の花
- 1.49 蜀黍の 穂首になびけ 三日の月
- 1.50 山の月 さすや閂 せゝこまし
『月』を詠んだ俳句 50選
俳句の文字の五十音順に並べてあります。まずは、子規の俳句からみていきましょう。
藍色の 海の上なり 須磨の月
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】藍色(あいいろ)は、少し緑がかった暗い青です。「須磨(すま)」は、古くから歌枕(うたまくら)として和歌に詠まれてきました。
暁や 夢のこなたに 淡き月
【作者】夏目漱石(なつめ そうせき)
【補足】「こなた(此方)」は「こちら、こっち」の意と解します。
井戸からも ひとつ汲けり けふの月
【作者】横井也有(よこい やゆう)
【補足】「汲みけり」の読み方は「くみけり」です。「けふの月(今日の月)」は「今宵(こよい)の月」の意で、特に中秋の名月をいうこともあります。
今しもや さしのぼるらし けふの月
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
【補足】「今しも」は「今まさに、ちょうど今」という意味です。
大空の 月の歩みの やや斜め
【作者】富安風生(とみやす ふうせい)
大空の 真ただ中や けふの月
【作者】正岡子規
影ちるや 葛の裏葉の 三日の月
【作者】杉山杉風(すぎやま さんぷう)
【補足】葛(くず)は秋の七草の一つです。裏見草(うらみぐさ)という別名もあります。
なお、秋の七草とは次の 7つをいいます。
- 女郎花(おみなえし)
- 尾花(おばな)
- 桔梗(ききょう)
- 撫子(なでしこ)
- 藤袴(ふじばかま)
- 葛(くず)
- 萩(はぎ)
影法師 月に並んで 静かなり
【作者】夏目漱石
【補足】影法師(かげぼうし)とは、物に映っている人の影のことです。
枯れ松の 頂白き 月夜かな
【作者】前田普羅(まえだ ふら)
【補足】「頂」の読み方は「いただき(=一番高いところ、てっぺん)」です。
今日の月 全く星を かくしたり
【作者】星野立子(ほしの たつこ)
雲去れば 月の歩みの ゆるみつつ
【作者】松本たかし(まつもと たかし)
雲の中の 明るさうれし 月を待つ
【作者】阿部みどり女(あべ みどりじょ)
けふの月 馬も夜道を 好みけり
【作者】村上鬼城(むらかみ きじょう)
これこそは 月をあるじや 水の色
【作者】加賀千代女(かがのちよじょ)
子を抱いて 我老いにけり 月今宵
【作者】尾崎紅葉(おざき こうよう)
五月雨に 名月ありと しらなんだ
【作者】各務支考(かがみ しこう)
【補足】五月雨(さみだれ)とは、旧暦の五月に降る雨のことで、いわゆる梅雨(つゆ)のことです。
芒抱く 子に満月を 知らさるる
【作者】阿部みどり女
【補足】「芒」の読み方は「すすき」です。
背負はれて 名月拝す 垣の外
【作者】富田木歩(とみた もっぽ)
父のなき 子に明るさや 今日の月
【作者】竹下しづの女(たけした しづのじょ)
月出でて 月の色なる 妻の髪
【作者】加藤楸邨(かとう しゅうそん)
【補足】「出でて」の読みは「いでて」です。
月清し 遊行のもてる 砂の上
【作者】松尾芭蕉(まつお ばしょう)
【補足】遊行(ゆぎょう)とは、僧が諸国を巡り歩くことをいい、行脚(あんぎゃ)と同義です。
月今宵 あるじの翁 舞ひ出でよ
【作者】与謝蕪村(よさ ぶそん)
【補足】翁(おきな)とは、年を取った男のことで、女性の場合は「媼(おうな)」といいます。
月の前 しばしば望 よみがへる
【作者】加藤楸邨
月の山 大國主命かな
【作者】阿波野青畝(あわの せいほ)
【補足】大國主命(おおくにぬしのみこと)は、歴史書の『古事記(こじき)』『日本書紀(にほんしょき)』に登場する神の名前です。
月はやし こずゑはあめを 持ながら
【作者】松尾芭蕉
ともし火も 置わするるや けふの月
【作者】加賀千代女
何事の 見たてにも似ず 三かの月
【作者】松尾芭蕉
【補足】「見たて」とは、ある物を他の物になぞらえることをいいます。
盗人の 首領歌よむ けふの月
【作者】与謝蕪村
【補足】「盗人」の読みは「ぬすびと」です。
野分せぬ 此名月や 三つの草
【作者】志太野坡(しだ やば)
遙かにも 彼方にありて 月の海
【作者】中村草田男(なかむら くさたお)
【補足】「彼方」の読みは「かなた」です。
灯を消すや 障子の裾に 及ぶ月
【作者】阿部みどり女
【補足】「障子の裾」の読み方は「しょうじのすそ」です。
ふしぎ也 生れた家で けふの月
【作者】小林一茶(こばやし いっさ)
【補足】「也」の読みは「なり」です。
真つ向に 名月照れり 何はじまる
【作者】西東三鬼(さいとう さんき)
満月に 行きあたりをる 汀かな
【作者】岡井省二(おかい しょうじ)
【補足】「汀」の読み方は「みぎわ、なぎさ」です。
三日月の 隙にてすゝむ 哀かな
【作者】山口素堂(やまぐち そどう)
【補足】「哀」の読み方は「あわれ」です。
三日月の 船行かたや 西の海
【作者】炭 太祇(たん たいぎ)
湖に うつりし月の 大きさよ
【作者】星野立子
観ることの かなはぬ月の 裾明り
【作者】日野草城
名月に 傾倒したる 一夜かな
【作者】相生垣瓜人(あいおいがき かじん)
名月に 辻の地蔵の ともしかな
【作者】黒柳召波(くろやなぎ しょうは)
【補足】辻(つじ)とは、道が十字形に交差しているところのことです。
名月の たかだかふけて しまひけり
【作者】久保田万太郎(くぼた まんたろう)
名月の 渡りゆく空 ととのへり
【作者】稲畑汀子(いなはた ていこ)
名月へ 色うつりゆく 芒かな
【作者】久保田万太郎
名月や あかるいものに 行きあたり
【作者】加賀千代女
名月や 大路小路の 京の人
【作者】正岡子規
【補足】「大路小路」の読みは「おおじこうじ」です。
名月や 雲限りなく 敷き連ね
【作者】高野素十(たかの すじゅう)
名月や 何所までのばす 富士の裾
【作者】加賀千代女
【補足】「何所(=何処)」の読みは「どこ」です。
名月や 松にかゝれば 松の花
【作者】松岡青蘿(まつおか せいら)
蜀黍の 穂首になびけ 三日の月
【作者】加藤暁台(かとう きょうたい)
【補足】「蜀黍」の読みは「もろこし」です。
山の月 さすや閂 せゝこまし
【作者】西山泊雲(にしやま はくうん)
【補足】閂(かんぬき)とは、門や戸をしっかりと閉めるための横木(よこぎ=バー)のことです。
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