海の俳句 50選 -春・夏・秋・冬の海-
四方を海に囲まれた日本では、海はとても身近な存在といってもよいでしょう。
そして、同じ海を見たとしても、四季のそれぞれでは受ける印象が違ってきます。その違いを表現したものの一つに俳句があります。
このページには、「海の俳句」と呼ぶにふさわしいものを集めて、季節ごとにまとめました。四季それぞれの海の光景が思い浮かぶような句ばかりですので、是非とも鑑賞してみて下さい。
海の俳句について
「春の海」「夏の海」「秋の海」「冬の海」が詠まれた俳句を 50集め、それぞれに分けました。
季節ごとに、俳句の先頭の文字の五十音順に並べてありますので、じっくりと味わってみて下さい。
春の海の俳句
明るみて 月夜となりぬ 春の海
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
うつくしき 海月浮きたり 春の海
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】海月(くらげ)は、「水母」「水月」と表記されることもあります。
青楼や 欄のひまより 春の海
【作者】夏目漱石(なつめ そうせき)
【補足】青楼(せいろう)とは、遊郭(ゆうかく)のことをいいます。また、「ひま(隙)」は「物と物とのあいだ、すきま」の意です。
男女棲む 島一つ浮き 春の海
【作者】長谷川かな女
【補足】「棲む」の読みは「すむ」です。
はるの海 鶴のあゆみに 動きけり
【作者】松岡青蘿(まつおか せいら)
春の海 近しと野川 鳴り流る
【作者】西東三鬼(さいとう さんき)
春の海 ひねもすのたり のたりかな
【作者】与謝蕪村(よさ ぶそん)
【補足】「ひねもす」は「一日中、終日」という意味です。
春の海 岬の数を 並べけり
【作者】野村喜舟(のむら きしゅう)
春の海 むかしのごとく 天守より
【作者】山口青邨(やまぐち せいそん)
【補足】天守(てんしゅ=天守閣)とは、城の本丸(ほんまる)の中央に、三層または五層に、ひときわ高くきづいた建築物のことです。
日かげりて 浪曇りけり 春の海
【作者】日野草城
松原の 中から見えて 春の海
【作者】正岡子規
むらさきに 夜は明かゝる 春の海
【作者】高井几董(たかい きとう)
山畑に 残る蜜柑や 春の海
【作者】松本たかし
【補足】「山畑」「蜜柑」の読みは、それぞれ「やまばた」「みかん」です。
夏の海の俳句
青芒 ぼうぼうとして 夏の海
【作者】原 石鼎(はら せきてい)
【補足】青芒(あおすすき)とは、青々と茂ったススキのことをいいます。
浅虫の 湯女にあをあを 夏の海
【作者】高野素十(たかの すじゅう)
【補足】湯女(ゆな)とは、温泉宿の下女(げじょ=女中)のことです。浅虫(あさむし)温泉は青森にあります。
石伐りの たがね谺す 夏の海
【作者】前田普羅(まえだ ふら)
【補足】石伐り(いしきり)とは、山から石材を切り出したり、石材に細工をする職業・人のことです。
「たがね(鏨)」は石や金属を加工するための「のみ」で、「谺す」の読みは「こだます」です。
色濃さに 堪へて帆白し 夏の海
【作者】原 石鼎
【補足】私は句意を「(海の青)色の濃さに紛れることない(舟の)帆の白さ(が際立っている)夏の海」と解しています。
大崩 また崩るゝや 夏の海
【作者】野村喜舟
【補足】「大崩」の読みは「おおくずれ」です。
起きんとす 浪の浅黄や 夏の海
【作者】原 石鼎
【補足】この句の「浅黄(あさぎ)」は「浅葱色(あさぎいろ)」と解します。
浅葱色 | 薄い青緑色 |
浅黄色 | 薄い黄色 |
海峡に 船見ず夏の 海寂れ
【作者】山口誓子(やまぐち せいし)
【補足】「寂れ」の読みは「さびれ」です。
嶋じまや ちぢにくだきて 夏の海
【作者】松尾芭蕉(まつお ばしょう)
【補足】「ちぢ(千千)」は「数が非常に多いこと」を表現する言葉です。
遠のけば 沈む橋立 夏の海
【作者】西山泊雲(にしやま はくうん)
【補足】京都の天橋立(あまのはしだて)は、日本三景の一つです。
夏の海 見たき浪間に 眼を移す
【作者】山口誓子
【補足】「波間」の読みは「なみま」です。
風雲の かがやき折れて 夏の海
【作者】山口青邨
船に打つ 五尺の釘や 夏の海
【作者】渡邊水巴(わたなべ すいは)
【補足】五尺(ごしゃく)は、約 1.5 mです。
秋の海の俳句
秋の海 蒼を川にも 遡らしめ
【作者】山口誓子
【補足】「遡らしめ」は音数から考えると「のぼらしめ」と読みたいところです。
秋の海 丘退きて また見ゆる
【作者】富安風生(とみやす ふうせい)
【補足】「退きて」の読み方は「しりぞきて」です。
秋の海 つとひらけたる 砂丘かな
【作者】星野立子(ほしの たつこ)
【補足】「つと=つっと」は「不意に、急に、さっと」の意です。
秋の海 深きところを 覗き過ぐ
【作者】山口誓子
【補足】「覗き過ぐ」の読み方は「のぞきすぐ」です。
くり返す 間の遠き 秋の波
【作者】富安風生
淋しさの 極り青し 秋の海
【作者】野村喜舟
【補足】「極り」の読みは「きわまり」です。
白々と 海女が潜れる 秋の海
【作者】前田普羅
【補足】「海女」「潜れる」の読み方は、それぞれ「あま」「もぐれる」です。
つかのまの 絃歌ひびきて 秋の海
【作者】飯田蛇笏(いいだ だこつ)
【補足】「絃歌(げんか=弦歌)」とは、三味線(しゃみせん)の音と歌声のことをいいます。
つらつらと 船ならびけり 秋の海
【作者】正岡子規
【補足】「つらつら」は本来、「つくづく、よくよく」の意味で使われる言葉です。
釣鐘を すかして見るや 秋の海
【作者】夏目漱石
西吹いて 躍れる雲や 秋の海
【作者】原 石鼎
【補足】「西」は「西風」の意です。
門を出て 十歩に秋の 海広し
【作者】正岡子規
夕暮は いつもあれども 秋の海
【作者】岩田涼菟(いわた りょうと)
冬の海の俳句
一ぱいに 日をうくるなり 冬の海
【作者】久保田万太郎(くぼた まんたろう)
岩襞に たんぽぽ咲けり 冬の海
【作者】三橋鷹女(みつはし たかじょ)
【補足】「岩襞」の読みは「いわひだ」です。
崖攀ぢて 奈落に見たる 冬の海
【作者】水原秋櫻子(みずはら しゅうおうし)
【補足】「攀(よ)ぢて」は「とりすがるようにして登って」の意です。奈落(ならく)は「どん底」の意です。
鷺とんで 白を彩とす 冬の海
【作者】山口誓子
【補足】「鷺」「彩」の読みは、それぞれ「さぎ」「あや、さい」です。
たわむれに 老い行く如し 冬の海
【作者】永田耕衣(ながた こうい)
【補足】「如し」の読みは「ごとし(=~のようだ)」です。
十日まだ 一度もふらず 冬の海
【作者】久保田万太郎
突堤に 鋭き灯あり 冬の海
【作者】日野草城
【補足】突堤(とってい)は、岸から水面に突き出した堤防のことをいいます。
釣人に 怒濤のしぶき 冬の海
【作者】阿部みどり女
【補足】「怒濤」の読みは「どとう」で、はげしく荒れ狂う大波のことをいいます。
冬の海 白々遠く さわぐ見ゆ
【作者】山口青邨
冬の海 ひらきし口の 昏かりき
【作者】加藤秋邨(かとう しゅうそん)
【補足】「昏かりき」の読みは「くらかりき」です。
欄干の 下に荒れをり 冬の海
【作者】阿部みどり女
みなぎれる 日輪みよや 冬の海
【作者】原 石鼎
【補足】「日輪(にちりん)」は太陽の別名です。これに対し、月は「月輪(がちりん)」とも呼ばれます。
関 連 ペ ー ジ
四季それぞれの俳句、有名な俳句を以下のページに集めてありますので、是非ご覧になってみて下さい。