山の俳句 50選 -春・夏・秋・冬の山-
山地が全土の 7割以上を占める日本は、「山国」ともいわれることもあります。
日本で暮らす私たちにとって、山は特に意識しなくても目に入っているような身近な存在といえるかもしれません。
そして、春夏秋冬のそれぞれで違った印象をもたらす山を、人々は俳句にも詠み込んできました。
このページでは、「山の俳句」と呼ぶにふさわしいものを四季それぞれについて集めました。季節それぞれの山が持つ雰囲気が存分に表現された句ばかりですので、是非ともチェックしてみて下さい。
山の俳句について
「春の山、春山」「夏の山、夏山」「秋の山、秋山」「冬の山、冬山」が詠まれた俳句を 50集め、それぞれに分けました。
季節の句ごとに、俳句の文字の五十音順に並べてありますので、じっくりと鑑賞してみて下さい。
春の山の俳句
大岩の 蔭のさむさよ 春の山
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
風強き 玻璃戸の外の 春の山
【作者】星野立子(ほしの たつこ)
【補足】
玻璃(はり)とは本来、七宝(しっぽう)の一つである水晶のことをいいます。
また、ガラスを意味することもあり、この句の玻璃戸は「ガラス戸」のことです。
来し道の うねうね白し 春の山
【作者】星野立子
【補足】
立子が春の山を詠んだ句を、もう一つ挙げておきます。
子供等の 登りくるらし 春の山
寝ころぶや 手まり程でも 春の山
【作者】小林一茶(こばやし いっさ)
春の山 越えて日高き 疲れかな
【作者】正岡子規(まさおか しき)
春の山 それぞれ昔 火を噴きし
【作者】阿波野青畝(あわの せいほ)
春の山 一つになりて 暮れにけり
【作者】正岡子規
春の山 雪を残して つづきけり
【作者】会津八一(あいず やいち)
春山に 向ひて奏す 祝詞かな
【作者】高野素十(たかの すじゅう)
【補足】
祝詞(のりと)とは、神を祭り神に祈るときに、(神主が)申し述べる(=奏する)古体の文章です。
春山の 上に顔出す 湯治客
【作者】前田普羅(まえだ ふら)
【補足】
湯治(とうじ)とは、温泉に入って療養することをいいます。
春山や 鳶のたかさを 見て憩ふ
【作者】飯田蛇笏(いいだ だこつ)
【補足】
「鳶」の読みは「とび」で、「とんび」とも呼ばれます。
春山や 松に隠れて 田一枚
【作者】村上鬼城(むらかみ きじょう)
夕ばえて かさなりあへり 春の山
【作者】飯田蛇笏
夏の山の俳句
月ひかり 天の夏山 明けそむる
【作者】水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)
泣きながら 子の従へる 夏の山
【作者】阿部みどり女
夏山に 大きな龕や 佛たち
【作者】阿波野青畝
【補足】
龕(がん)とは、仏像をおさめる厨子(ずし=一枚扉の開き戸がついた物入れ)のことです。
「佛」は「仏(ほとけ)」の旧字体です。
夏山の ここもかしこも 名所哉
【作者】正岡子規
【補足】
「哉」の読みは「かな」です。
夏山の 水際立ちし 姿かな
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
夏山は 明けつつ月は 野を照らす
【作者】水原秋桜子
夏山や 幾重かさなる 夕明り
【作者】芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
【補足】
「幾重」の読みは「いくえ」です。
夏山や 空は小暗き 嵐雲
【作者】芥川龍之介
夏山や 一足づつに 海見ゆる
【作者】小林一茶
夏山や 万象青く 橋赤し
【作者】正岡子規
【補足】
万象(ばんしょう)とは、「万物、あらゆる現象」のことです。
夏山や よく雲かかり よく晴るる
【作者】高浜虚子
野の風に あたりてゆれぬ 夏の山
【作者】永田耕衣(ながた こうい)
秋の山の俳句
秋の山 暮るゝに近く 晴るゝなり
【作者】長谷川かな女
秋山や この道遠き 雲と我
【作者】飯田蛇笏
秋山や 駒もゆるがぬ 鞍の上
【作者】宝井其角(たからい きかく)
【補足】
「駒(こま)」とは、馬のことをいいます。
うれしさの 極みの涙 秋の山
【作者】阿部みどり女
【補足】
「極み」の読みは「きわみ」で、「はて、限り、きわまるところ」の意です。
聲あげて 父母を呼びたし 秋の山
【作者】阿部みどり女
【補足】
「聲」は「声」の旧字体です。
谷の日の どこからさすや 秋の山
【作者】村上鬼城
ちはやぶる 神垣見えて 秋の山
【作者】阿波野青畝
【補足】
「ちはやぶる」は「神」や「宇治(うじ)」などにかかる枕詞(まくらことば)です。
遠のきし 雲夕栄えす 秋の山
【作者】河東碧梧桐(かわひがし へきごとう)
【補足】
「夕栄え」の読みは「ゆうばえ(=夕映え)」です。
はつきりと 垣根に近し 秋の山
【作者】正岡子規
冷えびえと 袖に入る日や 秋の山
【作者】小林一茶
人の影 踏みて来りぬ 秋の山
【作者】三橋鷹女(みつはし たかじょ)
わがあとに 径もつき来る 秋の山
【作者】富安風生(とみやす ふうせい)
【補足】
「径」の読みは「みち」です。
冬の山の俳句
色変へて 夕となりぬ 冬の山
【作者】前田普羅
【補足】
「夕」の読みは「ゆうべ(=日暮れ、夕方)」です。
風吹いて 冬山刻を わきまへず
【作者】吉武月二郎(よしたけ つきじろう)
【補足】
「刻」の読みは「とき」です。
鐘楼や 城の如くに 冬の山
【作者】川端茅舎(かわばた ぼうしゃ)
【補足】
鐘楼(しょうろう)とは、鐘(かね)つき堂のことです。
木を倒す 音静まりし 冬の山
【作者】星野立子
谷底に 吊橋かけぬ 冬の山
【作者】前田普羅
日あたりて 物音もなし 冬の山
【作者】日野草城
冬の山 人通ふとも 見えざりき
【作者】夏目漱石(なつめ そうせき)
冬山に 枯木を折りて 音を聞く
【作者】飯田蛇笏
冬山の うしろに日輪 まはりけり
【作者】阿部みどり女
【補足】
「日輪(にちりん)」は太陽の別名です。これに対して、月は月輪(がちりん)と呼ばれます。
冬山の 陽にあり涙 あふれ来る
【作者】三橋鷹女
冬山の 我を厭ひて 黙したる
【作者】松本たかし
【補足】
「厭ひて」の読みは「いといて」で、「いやがって、嫌って」の意です。
冬山や 寺に薪割る 奥は雪
【作者】飯田蛇笏
【補足】
「薪」の読みは「まき(=たきぎ)」です。
めぐり来る 雨に音なし 冬の山
【作者】与謝蕪村(よさ ぶそん)
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また、四季それぞれの俳句、有名な俳句を以下のページに集めてありますので、是非ご覧になってみて下さい。