桜の俳句 100選 -さくら-
春といえば桜の花が思い浮かぶほど、現代の日本では桜の存在はとても大きなものです。
この「桜」は多くの俳人によって、数多くの俳句に詠み込まれてきました。そして、桜の品種は数百種あるともいわれるほど多いので、俳句のバリエーションも豊富です。
このページには、「桜の俳句」と呼ぶにふさわしいものを集めました。これらは桜が咲きはじめたとき、盛んに咲いているとき、そして散ってゆくときの光景が目に浮かぶようなものばかりなので、是非ともチェックしてみて下さい。
目次
- 1 桜の俳句について
- 2 桜の俳句 100選
- 2.1 朝桜 みどり児に言ふ さやうなら
- 2.2 朝ざくら 雪嶺の威を ゆるめざる
- 2.3 朝桜 よし野深しや 夕ざくら
- 2.4 あまぐもの まだ退き切らぬ 櫻かな
- 2.5 糸桜 こやかへるさの 足もつれ
- 2.6 いろがみを 貼りたる富士ぞ 夕桜
- 2.7 打とけて 我にちる也 夕ざくら
- 2.8 老桜 人のとよみに 咲き倦める
- 2.9 扇にて 酒くむかげや ちる櫻
- 2.10 遅月の ほのぼのとして 桜かな
- 2.11 徐ろに 眼を移しつつ 初桜
- 2.12 影は滝 空は花なり 糸桜
- 2.13 傘をうつ 牡丹桜の 雫かな
- 2.14 風に落つ 楊貴妃桜 房のまゝ
- 2.15 観音の 大悲の桜 咲きにけり
- 2.16 けふまでの 日はけふ捨てて 初桜
- 2.17 穀つぶし 櫻の下に くらしけり
- 2.18 子を追いて 馳け抜ける犬 夕桜
- 2.19 咲きさかる 木瓜を近みの 夕ざくら
- 2.20 さくら木に さくら一杯に つきにけり
- 2.21 さくら咲き 去年とおなじ 着物着る
- 2.22 さくら咲き 常磐木ふかき 彩そふる
- 2.23 櫻咲く まづ真向の 川風に
- 2.24 さみどりに くれゆく空の 桜かな
- 2.25 去りがてに さまよふ鳩や 夕桜
- 2.26 したゝかに 水をうちたる 夕ざくら
- 2.27 死支度 致せ致せと 桜哉
- 2.28 白々と たけて盛りや 初桜
- 2.29 しんとして 露をこぼすや 朝桜
- 2.30 酔人の 理屈をかしき 桜かな
- 2.31 雪洞は 仰向きさくら 俯向ける
- 2.32 千社札 貼る楼門の 桜哉
- 2.33 旅人の 鼻まだ寒し 初ざくら
- 2.34 町内の 鶯来たり 朝櫻
- 2.35 ちらちらと 老木桜の ふぶきかな
- 2.36 ちるさくら 落るは花の ゆふべ哉
- 2.37 月うらと なりて明るき 桜かな
- 2.38 寺も世を たのむこゝろや 八重桜
- 2.39 ときをりの 風のつめたき 櫻かな
- 2.40 土佐日記 懐にあり 散る桜
- 2.41 ねぶたかる 人にな見えそ 朝桜
- 2.42 はつきりと 有明残る 桜かな
- 2.43 初桜 折しもけふは 能日なり
- 2.44 初ざくら 其きさらぎの 八日かな
- 2.45 人声に ほつとしたやら 夕桜
- 2.46 日と空と いづれか溶くる 八重桜
- 2.47 人の世の かなしき櫻 しだれけり
- 2.48 ひとひらの 雲ゆき散れり 八重桜
- 2.49 火を焚けば ほぐるゝ莟 朝さくら
- 2.50 二人して ひいて遊べよ 糸桜
- 2.51 真先に 見し枝ならん ちる櫻
- 2.52 万葉の 池今狭し 桜影
- 2.53 見ぬものを 見るより嬉し さくら花
- 2.54 胸うちを 白く埋めて 夕ざくら
- 2.55 桃さくら 裏木戸の風 昼つめたし
- 2.56 八重桜 そちこちの灯に 明るけれ
- 2.57 八重桜 たわゝに咲いて 大月夜
- 2.58 八重桜 日輪すこし あつきかな
- 2.59 山桜 白きが上の 月夜かな
- 2.60 山めぐり やめて雨聴く 桜かな
- 2.61 夕桜 あの家この家に 琴鳴りて
- 2.62 夕ざくら 檜の香して 風呂沸きぬ
- 2.63 ゆき暮て 雨もる宿や いとざくら
- 2.64 ゆふ風の 俄に寒き 桜かな
- 2.65 夢で逢ひし 人に逢ひたる 桜かな
- 2.66 夜桜と 濡れてゐるなり 恋ひつのり
- 2.67 夜桜に 青侍が 音頭かな
- 2.68 夜桜に 歩きて誰も 明日知らず
- 2.69 夜桜に 池を隔てゝ 篝かな
- 2.70 夜桜に 浮びて消えし 面輪かな
- 2.71 夜桜に 後ろの闇の ありてこそ
- 2.72 夜桜に 愁の面 あげにけり
- 2.73 夜桜に こもる茶店の 煙かな
- 2.74 夜桜に 誘はれ出でて 父の墓
- 2.75 夜桜に しこたま冷えて 戻りけり
- 2.76 夜桜に 月は七日か 八日かな
- 2.77 夜桜に 通りすがりの 尼法師
- 2.78 夜桜に マグネシウムの 煙かな
- 2.79 夜桜の 雨夜咲き満ち たわゝなり
- 2.80 夜桜の 篝の籠や 昼閑なり
- 2.81 夜桜の 鐘聞得たり 寒山寺
- 2.82 夜桜の 月につらねし 障子かな
- 2.83 夜桜の 中に火ともす 小家哉
- 2.84 夜桜の 一枝長き 水の上
- 2.85 夜桜の ぼんぼりの字の 粟おこし
- 2.86 夜桜の 幕の隙間の 海黒し
- 2.87 夜桜の むらさき色に 責めらるる
- 2.88 夜桜の 夜も藍の香 浴衣染
- 2.89 夜桜へ 社を抜けて 行きにけり
- 2.90 夜桜も 思ひて父の 忌を待てる
- 2.91 夜桜も 淋しきことで ありにけり
- 2.92 夜桜や 歩むひびきに 水揺るる
- 2.93 夜桜や うらわかき月 本郷に
- 2.94 夜櫻や こゝより見えぬ 東山
- 2.95 夜桜や 梢にうつろ あるごとく
- 2.96 夜桜や 遠くに光る 潦
- 2.97 夜桜や ひとつ筵に 恋敵
- 2.98 夜櫻や 街あかりさす 雲低し
- 2.99 夜桜を 暗くす墨を つけし爪
- 2.100 吉原の 夜桜なかを 通ひけり
桜の俳句について
このページには「初桜」「朝桜」「夕桜」など、桜について詠まれている俳句を 100句選び、先頭の文字の五十音順に並べました。
また、後半には「夜桜」が詠み込まれた句を集めてあります
なお、「桜」は春の季語です。
桜の俳句 100選
朝桜 みどり児に言ふ さやうなら
【作者】中村草田男(なかむら くさたお)
【補足】みどり児(みどりご:嬰児)とは、2・3歳までの子供のことです。
朝ざくら 雪嶺の威を ゆるめざる
【作者】木村蕪城(きむら ぶじょう)
【補足】雪嶺(せつれい)とは、雪が積もっている山の峰のことです。
朝桜 よし野深しや 夕ざくら
【作者】向井去来(むかい きょらい)
【補足】朝桜(あさざくら)とは、朝に露をおびて咲いている桜のことをいいます。
あまぐもの まだ退き切らぬ 櫻かな
【作者】久保田万太郎(くぼた まんたろう)
【補足】「退き切らぬ」の読みは「のききらぬ、ひききらぬ」です。「櫻」は「桜」の旧字体です。
糸桜 こやかへるさの 足もつれ
【意味】糸桜を眺めて、これはまあ(何としたことか)、帰る際に足がもつれる
【作者】松尾芭蕉(まつお ばしょう)
【補足】糸桜(いとざくら)は、枝垂桜(しだれざくら)の別名です。
いろがみを 貼りたる富士ぞ 夕桜
【作者】山口青邨(やまぐち せいそん)
打とけて 我にちる也 夕ざくら
【作者】高井几董(たかい きとう)
【補足】「也」の読みは「なり」です。「夕ざくら」は、夕方に眺める桜のことをいいます。
老桜 人のとよみに 咲き倦める
【意味】老いた桜が、人々の騒がしさに咲きあぐねている
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
【補足】老桜(おいざくら)とは、年を経た桜の木のことをいいます。「とよみ(響み)=どよみ」とは、騒がしい状態を表現する言葉です。
扇にて 酒くむかげや ちる櫻
【意味】扇で酒を汲む仕草を木陰でしていると、(そんな私に)桜が散りかかる
【作者】松尾芭蕉
遅月の ほのぼのとして 桜かな
【作者】原 石鼎(はら せきてい)
【補足】遅月(おそづき)とは、月の出が遅いことをいいます。
徐ろに 眼を移しつつ 初桜
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
【補足】徐に(おもむろに)は、「ゆっくりと」という意味です。また、初桜(はつざくら)とは、その春に初めて咲いた桜の花のことをいいます。
影は滝 空は花なり 糸桜
【作者】加賀千代女(かがのちよじょ)
傘をうつ 牡丹桜の 雫かな
【作者】杉田久女(すぎた ひさじょ)
【補足】牡丹桜(ぼたんざくら)は、八重桜(やえざくら)の別名です。「雫」の読みは「しずく」です。
風に落つ 楊貴妃桜 房のまゝ
【作者】杉田久女
【補足】楊貴妃桜(ようきひざくら)は「サトザクラ」の品種の一つです。「楊貴妃」は中国唐代の皇妃の名前です。
観音の 大悲の桜 咲きにけり
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】大悲(だいひ)とは、衆生(しゅじょう=生命のあるすべてのもの)の苦を救う仏の大きな慈悲のことをいいます。
けふまでの 日はけふ捨てて 初桜
【作者】加賀千代女
【補足】「けふ」は「きょう(今日)」です。
穀つぶし 櫻の下に くらしけり
【作者】小林一茶(こばやし いっさ)
【補足】穀(ごく)つぶしとは、食べるだけは一人前でも役に立たない人のことをいう言葉です。
子を追いて 馳け抜ける犬 夕桜
【作者】西東三鬼(さいとう さんき)
咲きさかる 木瓜を近みの 夕ざくら
【作者】石川桂郎(いしかわ けいろう)
【補足】木瓜(ぼけ)はバラ科の落葉低木です。
さくら木に さくら一杯に つきにけり
【作者】室生犀星(むろう さいせい)
さくら咲き 去年とおなじ 着物着る
【作者】桂 信子(かつら のぶこ)
さくら咲き 常磐木ふかき 彩そふる
【作者】臼田亞浪(うすだ あろう)
【補足】常磐木(ときわぎ)とは、常緑樹のことです。
櫻咲く まづ真向の 川風に
【作者】中村汀女(なかむら ていじょ)
さみどりに くれゆく空の 桜かな
【作者】原 石鼎
【補足】さみどり(早緑)とは、若草や若葉のような緑色のことを表現する言葉です。
去りがてに さまよふ鳩や 夕桜
【作者】鈴木花蓑(すずき はなみの)
【補足】「去りがてに」は「去りにくそうに」という意味です。
したゝかに 水をうちたる 夕ざくら
【作者】久保田万太郎
【補足】「したたか(強か)に」は「強く、大いに」の意です。
死支度 致せ致せと 桜哉
【作者】小林一茶
【補足】死支度(しにじたく)とは、死を迎える準備のことをいいます。「哉」の読みは「かな」です。
白々と たけて盛りや 初桜
【作者】原 石鼎
【補足】「たけて盛り」は「真っ盛り」の意味です。
しんとして 露をこぼすや 朝桜
【作者】正岡子規
酔人の 理屈をかしき 桜かな
【作者】野村喜舟(のむら きしゅう)
【補足】酔人(すいじん)とは、酒に酔った人のことをいいます。
雪洞は 仰向きさくら 俯向ける
【作者】山口誓子(やまぐち せいし)
【作者】雪洞(ぼんぼり)とは、小型の行燈(あんどん)のことをいいます。「俯向ける」の読み方は「うつむける」です。
千社札 貼る楼門の 桜哉
【作者】夏目漱石(なつめ そうせき)
【補足】千社札(せんじゃふだ)は、千社参りをした人が記念に社殿に貼る紙の札です。また、楼門(ろうもん)は二階造りになった門のことです。
旅人の 鼻まだ寒し 初ざくら
【作者】与謝蕪村(そさ ぶそん)
町内の 鶯来たり 朝櫻
【作者】泉鏡花(いずみ きょうか)
ちらちらと 老木桜の ふぶきかな
【作者】阿波野青畝(あわの せいほ)
【補足】「老木桜」は「おいきざくら」と読みます。
ちるさくら 落るは花の ゆふべ哉
【作者】与謝蕪村
【補足】ゆふべ(夕)は「夕方」のことを意味します。
月うらと なりて明るき 桜かな
【作者】原 石鼎
寺も世を たのむこゝろや 八重桜
【作者】松岡青蘿(まつおか せいら)
ときをりの 風のつめたき 櫻かな
【作者】久保田万太郎
土佐日記 懐にあり 散る桜
【作者】高浜虚子
【補足】土佐日記(とさにっき)は、平安時代の歌人・貴族の紀貫之(きのつらゆき)が著した日記文学です。「懐」の読みは「ふところ」です。
ねぶたかる 人にな見えそ 朝桜
【作者】斯波園女(しば そのめ)
【補足】「な見えそ」は「見せるな」という意味です。
はつきりと 有明残る 桜かな
【作者】山本荷兮(やまもと かけい)
【補足】有明(ありあけ)とは、夜明けの空に残った月のことをいいます。
初桜 折しもけふは 能日なり
【作者】松尾芭蕉
【補足】「能日」の読みは「よきひ(=良き日の意)」です。
初ざくら 其きさらぎの 八日かな
【作者】与謝蕪村
【補足】「其」の読み方は「その」です。「きさらぎ(如月)」は旧暦 2月の異名です。
人声に ほつとしたやら 夕桜
【作者】小林一茶
日と空と いづれか溶くる 八重桜
【作者】渡辺水巴(わたなべ すいは)
人の世の かなしき櫻 しだれけり
【作者】久保田万太郎
【補足】しだれる(枝垂れる)とは、枝などが長く垂れ下がることをいいます。
ひとひらの 雲ゆき散れり 八重桜
【作者】三橋鷹女(みつはし たかじょ)
【補足】「ひとひら」は、「一片、一枚」の意味です。
火を焚けば ほぐるゝ莟 朝さくら
【作者】長谷川かな女(はせがわ かなじょ)
【補足】「焚けば」「莟」の読み方は、それぞれ「たけば」「つぼみ(=蕾)」です。
二人して ひいて遊べよ 糸桜
【作者】村上鬼城(むらかみ きじょう)
真先に 見し枝ならん ちる櫻
【意味】(花が咲いたのを)まっ先に見た枝のものだろう、(たった今)散っている桜は…
【作者】内藤丈草(ないとう じょうそう)
万葉の 池今狭し 桜影
【作者】杉田久女
【補足】桜影(さくらかげ)とは、水面に映った桜のことを表現する言葉です。
見ぬものを 見るより嬉し さくら花
【作者】加賀千代女
【補足】「嬉し」の読み方は「うれし」です。
胸うちを 白く埋めて 夕ざくら
【作者】阿部みどり女(あべ みどりじょ)
桃さくら 裏木戸の風 昼つめたし
【作者】桂 信子
八重桜 そちこちの灯に 明るけれ
【作者】山口青邨
【補足】「そちこち」は「あちこち、あちらこちら」と同義です。
八重桜 たわゝに咲いて 大月夜
【作者】高橋淡路女(たかはし あわじじょ)
【補足】「たわわ」は、枝などがたわむほどである様子を表現する言葉です。
八重桜 日輪すこし あつきかな
【作者】山口誓子
【補足】日輪(にちりん)は、太陽の別名です。これに対し、月の別名は「月輪(がちりん)」です。
山桜 白きが上の 月夜かな
【作者】臼田亜浪
山めぐり やめて雨聴く 桜かな
【作者】渡辺水巴
夕桜 あの家この家に 琴鳴りて
【作者】中村草田男
夕ざくら 檜の香して 風呂沸きぬ
【作者】大野林火(おおの りんか)
【補足】「檜」の読み方は「ひのき」です。
ゆき暮て 雨もる宿や いとざくら
【作者】与謝蕪村
ゆふ風の 俄に寒き 桜かな
【作者】原 石鼎
【補足】「俄に」の読みは「にわかに(=急にの意)」です。
夢で逢ひし 人に逢ひたる 桜かな
【作者】野村喜舟
夜 桜 の 部
ここからは、夜桜を詠んだ俳句です。
夜桜と 濡れてゐるなり 恋ひつのり
【作者】仙田洋子(せんだ ようこ)
夜桜に 青侍が 音頭かな
【作者】高井几董
【補足】青侍(あおざむらい)とは、若くて身分の低い侍のことです。
夜桜に 歩きて誰も 明日知らず
【作者】西村和子(にしむら かずこ)
夜桜に 池を隔てゝ 篝かな
【作者】高浜年尾(たかはま としお)
【補足】篝(かがり)とは、夜に警護や照明のためにたく火のことをいいます。
夜桜に 浮びて消えし 面輪かな
【作者】下村梅子(しもむら うめこ)
【補足】面輪(おもわ)とは「顔」のことです。
夜桜に 後ろの闇の ありてこそ
【作者】今井つる女(いまい つるじょ)
夜桜に 愁の面 あげにけり
【作者】阿部みどり女
【補足】「愁」の読みは「うれい」です。
夜桜に こもる茶店の 煙かな
【作者】正岡子規
夜桜に 誘はれ出でて 父の墓
【作者】古賀まり子(こが まりこ)
【補足】「出でて」の読み方は「いでて」です。
夜桜に しこたま冷えて 戻りけり
【作者】高澤良一(たかざわ よしかず)
【補足】「しこたま」とは、「たくさんに、どっさりと」という意味です。
夜桜に 月は七日か 八日かな
【作者】高橋淡路女
夜桜に 通りすがりの 尼法師
【作者】高橋淡路女
【補足】尼法師(あまほうし)とは、出家した女性のことです。
夜桜に マグネシウムの 煙かな
【作者】阿部みどり女
夜桜の 雨夜咲き満ち たわゝなり
【作者】水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)
夜桜の 篝の籠や 昼閑なり
【作者】西山泊雲(にしやま はくうん)
夜桜の 鐘聞得たり 寒山寺
【作者】尾崎紅葉(おざき こうよう)
夜桜の 月につらねし 障子かな
【作者】阿部みどり女
【補足】「障子」の読み方は「しょうじ」です。
夜桜の 中に火ともす 小家哉
【作者】正岡子規
【補足】小家(こいえ)とは、小さな家・粗末な家のことをいいます。
夜桜の 一枝長き 水の上
【作者】高野素十(たかの すじゅう)
夜桜の ぼんぼりの字の 粟おこし
【作者】後藤夜半(ごとう やはん)
夜桜の 幕の隙間の 海黒し
【作者】皆川白陀(みながわ はくだ)
夜桜の むらさき色に 責めらるる
【作者】宇多喜代子(うだ きよこ)
夜桜の 夜も藍の香 浴衣染
【作者】百合山羽公(ゆりやま うこう)
夜桜へ 社を抜けて 行きにけり
【作者】高浜年尾
【補足】社(やしろ)とは、神を祀っている建物、神社のことをいいます。
夜桜も 思ひて父の 忌を待てる
【作者】百合山羽公
夜桜も 淋しきことで ありにけり
【作者】野村泊月(のむら はくげつ)
夜桜や 歩むひびきに 水揺るる
【作者】阿部みどり女
夜桜や うらわかき月 本郷に
【作者】石田波郷(いしだ はきょう)
夜櫻や こゝより見えぬ 東山
【作者】高野素十
夜桜や 梢にうつろ あるごとく
【作者】高浜年尾
夜桜や 遠くに光る 潦
【作者】阿部みどり女
【補足】潦(にわたずみ)とは、雨が降って急に地上にたまり流れる水のことです。
夜桜や ひとつ筵に 恋敵
【作者】黛まどか(まゆずみ まどか)
【補足】「筵」の読み方は「むしろ」です。
夜櫻や 街あかりさす 雲低し
【作者】富田木歩(とみた もっぽ)
夜桜を 暗くす墨を つけし爪
【作者】長谷川かな女
吉原の 夜桜なかを 通ひけり
【作者】野村喜舟
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