新年の短歌 30選 -しんねん-
年が変わって新年を迎えると、気持ちも一新されて清々しさを強く感じます。そして、そのようなお正月の華やいだ雰囲気は、多くの短歌などにも詠み込まれてきました。
このページには、新年について詠まれた短歌を集めました。お正月特有の気分に浸れるものばかりですので、是非ともこれらを鑑賞してみて下さい。
目次
- 1 新年の短歌について
- 2 新年の短歌 30
- 2.1 新しき 年のはじめにおもふこと ひとつ心につとめて行かな
- 2.2 新しく めぐり来れる年のむた わが若き友よひとしく立たな
- 2.3 新玉の 年の始と豊御酒の 屠蘇われのみぬ病いゆかに
- 2.4 あら玉の 年のはじめに川に住む 鰭の狭物ををしてさちはふ
- 2.5 あら玉の 年のはじめのはれのみけを たてまつるらん大みけどころ
- 2.6 あらたまの 年の若水くむ今朝は そぞろにものの嬉しかりけり
- 2.7 家なるも 外なる音も元日は 皆なつかしと思ひぬるかな
- 2.8 いたつきの 長き病はいえねども 年の始とさける梅かも
- 2.9 うつくしき 手毬に羽子の板そへて 春のもてくるものと思ひし
- 2.10 元日の たそがれ悲し大空に 冬のこころの帰りくるかな
- 2.11 元朝や わか水つかふ戸に近き 柳の花に淡雪ぞふる
- 2.12 くれなゐの 小き杯たまはれば 椿の花のここちして取る
- 2.13 水盤に わが頬をうつす若水を また新しき涙かと見る
- 2.14 年ほぎの 朝を楽しみ童ども 騒ぐ声にも力籠れり
- 2.15 汝兄今は 屠蘇も召さぬかあはれよと 母嘆かすやしづけき我を
- 2.16 にひ年の よごとをまをす歌人に にひ年の歌よめとしひけり
- 2.17 のどかなる 空の色かな年たちて ゆるぶは人のこころのみかは
- 2.18 初春の 朝わが子等の踏む庭の 青木に光るしら玉椿
- 2.19 初春の 日の生れくる薔薇色の 雲あり山の低きところに
- 2.20 初春は 恋しき人と歌うたへ 遊べと紅き氈の敷きにきぬ
- 2.21 初日影 弓ひく人の姿する 二尺の梅にものを云ひ懸く
- 2.22 春と云ふ めでたき心育てこし 昨日を思ふ元旦にして
- 2.23 部屋出でて たち迎ふれば真ひがしの 箱根の山ゆ昇る初日子
- 2.24 枕べの 寒さばかりにあら玉の 年ほぎ縄を掛けてほぐかも
- 2.25 見ゆる限り 山の連りの雪白し 初日の光さしそめにけり
- 2.26 ものの音 少し途絶えて元日の 悲しきばかり静かなるかな
- 2.27 わが息の 虚空に散るも嬉しけれ 年の明けたる一日二日
- 2.28 わが卓に めでたく白き寒牡丹 ひとつ開きて初春はきぬ
- 2.29 若水を 汲みつゝをれば標はへし ふたもと松に日影のぼりぬ
- 2.30 ゐずまひに 眼先貴なる杯や とよりと屠蘇の注がれたるかに
新年の短歌について
「新しき年」「年のはじめ」「初春(はつはる)」など、新年に関して詠まれた短歌を集めて、歌の文字の五十音順に並べました。
じっくりと鑑賞して、お正月の雰囲気を味わってみて下さい。
新年の短歌 30
新しき 年のはじめにおもふこと ひとつ心につとめて行かな
【作者】斎藤茂吉(さいとう もきち)
【補足】「行かな」は「行きたい、行こう」という意思・願望を表現したものです。
新しく めぐり来れる年のむた わが若き友よひとしく立たな
【作者】斎藤茂吉
【補足】「年のむた」は「年とともに」、「ひとしく立たな」は「(さあ)一斉に立とう」という意味です。
新玉の 年の始と豊御酒の 屠蘇われのみぬ病いゆかに
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【補足】「新玉の(あらたまの)」は枕詞(まくらことば)で、「年」「月」「日」「春」などにかかります。豊御酒(とよみき)は酒の美称で、「美酒」と同義です。
あら玉の 年のはじめに川に住む 鰭の狭物ををしてさちはふ
【作者】正岡子規
【補足】鰭の狭物(はたのさもの=ひれの狭いものの意)とは、小さい魚のことをいいます。
あら玉の 年のはじめのはれのみけを たてまつるらん大みけどころ
【作者】正岡子規
【補足】「みけ(御饌)」とは、神に供える供物(くもつ)のことで、「御贄(みにえ)」「神饌(しんせん)」ともいわれます。
あらたまの 年の若水くむ今朝は そぞろにものの嬉しかりけり
【作者】樋口一葉(ひぐち いちよう)
【補足】「若水」は元日の朝に初めて汲む水のことをいいます。
家なるも 外なる音も元日は 皆なつかしと思ひぬるかな
【作者】与謝野晶子(よさの あきこ)
いたつきの 長き病はいえねども 年の始とさける梅かも
【作者】正岡子規
【補足】「いたつき」には「病気、苦労」の意味があります。
うつくしき 手毬に羽子の板そへて 春のもてくるものと思ひし
【作者】与謝野鉄幹(よさの てっかん)
元日の たそがれ悲し大空に 冬のこころの帰りくるかな
【作者】与謝野晶子
元朝や わか水つかふ戸に近き 柳の花に淡雪ぞふる
【作者】与謝野晶子
【補足】元朝(がんちょう)とは、元日の朝(=元旦)のことです。
くれなゐの 小き杯たまはれば 椿の花のここちして取る
【作者】与謝野晶子
水盤に わが頬をうつす若水を また新しき涙かと見る
【作者】与謝野晶子
年ほぎの 朝を楽しみ童ども 騒ぐ声にも力籠れり
【作者】伊藤左千夫(いとう さちお)
【補足】「ほぎ」は「祝ぎ、寿ぎ(=祝うの意)」とも表記されます。
汝兄今は 屠蘇も召さぬかあはれよと 母嘆かすやしづけき我を
【作者】北原白秋(きたはら はくしゅう)
【補足】汝兄(なせ)とは、女性が男性に親しみを込めて呼ぶ言葉です。
にひ年の よごとをまをす歌人に にひ年の歌よめとしひけり
【作者】正岡子規
【補足】「にひ年」は「新年(にいどし)」、「まをす」は「申す(もうす)」を意味します。
のどかなる 空の色かな年たちて ゆるぶは人のこころのみかは
【作者】樋口一葉
【補足】「ゆるぶ」は「ゆるむ(緩む)、ゆるくなる」の意味です。
初春の 朝わが子等の踏む庭の 青木に光るしら玉椿
【作者】与謝野晶子
初春の 日の生れくる薔薇色の 雲あり山の低きところに
【作者】与謝野晶子
初春は 恋しき人と歌うたへ 遊べと紅き氈の敷きにきぬ
【作者】与謝野晶子
【補足】氈(せん)とは、毛織の敷物(=毛氈:もうせん)のことをいいます。
初日影 弓ひく人の姿する 二尺の梅にものを云ひ懸く
【作者】与謝野晶子
【補足】「云ひ懸く(いいかく)」は「云いかける(=言う)」という意味です。
春と云ふ めでたき心育てこし 昨日を思ふ元旦にして
【作者】与謝野晶子
部屋出でて たち迎ふれば真ひがしの 箱根の山ゆ昇る初日子
【作者】 若山牧水(わかやま ぼくすい)
【補足】「ゆ」は「…に、…へ」を意味します。
枕べの 寒さばかりにあら玉の 年ほぎ縄を掛けてほぐかも
【作者】正岡子規
【補足】年ほぎ縄とは、しめ縄のことです。
見ゆる限り 山の連りの雪白し 初日の光さしそめにけり
【作者】島木赤彦(しまき あかひこ)
ものの音 少し途絶えて元日の 悲しきばかり静かなるかな
【作者】与謝野晶子
わが息の 虚空に散るも嬉しけれ 年の明けたる一日二日
【作者】与謝野晶子
【補足】虚空(こくう)は「大空」と同義です。
わが卓に めでたく白き寒牡丹 ひとつ開きて初春はきぬ
【作者】与謝野晶子
【補足】初春(はつはる)は新年、新春を意味します。
若水を 汲みつゝをれば標はへし ふたもと松に日影のぼりぬ
【作者】長塚 節(ながつか たかし)
【補足】「標(ひょう、こずえ)はへし」は「(木の)こずえが映えた(美しく見えるの意)」と解します。「ふたもと」は「二本」の意味です。
ゐずまひに 眼先貴なる杯や とよりと屠蘇の注がれたるかに
【作者】北原白秋
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