新年の和歌 15選 【現代語訳】付き
年が明けて新年を迎えたときの、清々しくて嬉しいような気持ちには特別なものがあります。
そして、それは万葉集の時代から変わりはないようにも感じられます。なぜなら、古い時代の和歌を私たちが詠んだときに、その歌を作った人々の気持ちをすんなりと理解できるからです。
そこで、このページには「新年の和歌」と呼ぶにふさわしいものを集めてみました。これらはいずれも新しい年がもつ雰囲気に満ちあふれたものなので、是非ともゆっくりと味わってみて下さい。
目次
- 1 新年の和歌について
- 2 新年の和歌 15選
- 2.1 あしひきの 山の木末の寄生とりて 挿頭しつらくは千年寿くとぞ
- 2.2 あたらしき 年にはあれども鴬の なくねさへにはかはらざりけり
- 2.3 あたらしき 年の始にかくしこそ 千歳をかねてたのしきをつめ
- 2.4 新しき 年の初めに思ふどち い群れてをれば嬉しくもあるか
- 2.5 新しき 年の初めに豊のとし しるすとならし雪の降れるは
- 2.6 新しき 年の始めの初春の けふ降る雪のいや重け吉言
- 2.7 新しき 年の初めはいや年に 雪踏み平し常かくにもが
- 2.8 あらたまの 年たちかへるあしたより 待たるるものは鶯のこゑ
- 2.9 あらたまの 年をくもゐに迎ふとて 今日もろひとに神酒たまふなり
- 2.10 昨日こそ 年は暮れしか春霞 かすがの山にはやたちにけり
- 2.11 天皇の 御代万代にかくしこそ 見し明らめめ立つ年のはに
- 2.12 年暮れぬ 春来べしとは思ひ寝に まさしく見えてかなふ初夢
- 2.13 降る雪を 腰になづみて参ゐて来し 験もあるか年の初めに
- 2.14 正月立ち 春の来らばかくしこそ 梅を招きつつ楽しきをへめ
- 2.15 正月立つ 春の初めにかくしつつ 相し笑みてば時じけめやも
新年の和歌について
新しい年、歳の始めなどのように、新年に関するものが詠まれている和歌を 15首を選び、五十音順に並べました。新年に対する心持ちが見事に表現されたものばかりですので、是非とも鑑賞してみて下さい。
なお、それぞれの歌には現代語訳を付けましたが、これは私の意訳であることをお断りしておきます。一般的な解釈・通釈とは異なるものがあるかもしれませんが、なにとぞご了承ください。
新年の和歌 15選
あしひきの 山の木末の寄生とりて 挿頭しつらくは千年寿くとぞ
【現代語訳】山の木の梢(こずえ)の寄生木(やどりぎ)を取って挿頭(かざし=髪に挿す草花や枝)にしたのは、千年(の世)を祝ってのことです
【作者】大伴家持(おおとものやかもち)
【採録】万葉集(まんようしゅう)
【補足】
- 「木末」「寄生」「寿く」の読みは、それぞれ「こぬれ」「ほよ」「ほく」です
- 「あしひきの」は「山」にかかる枕詞(まくらことば)です
あたらしき 年にはあれども鴬の なくねさへにはかはらざりけり
【現代語訳】新しい年ではあるけれども、鶯(うぐいす)の鳴き声までもは変わらないのだなあ
【作者】 詠み人知らず
【採録】拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)
【補足】
- 「なくねさへにはかはらざりけり」を漢字表記すると「鳴く音さへには変はらざりけり」となります。
あたらしき 年の始にかくしこそ 千歳をかねてたのしきをつめ
【現代語訳】新しい年の初めには、このように千年にわたって楽しいこと(=祝宴の意)を重ねていこう
【作者】詠み人知らず
【採録】古今和歌集(こきんわかしゅう)
【補足】
- 「千歳」の読みは「ちとせ」です
- 「こそ」~「つめ(積め)」は係り結び(かかりむすび)です
- 文末の「たのしきをつめ」は「たのしきをへめ(終へめ)」の誤記とする説があり、この場合の意味は「楽しいことをやり尽くそう」となります
新しき 年の初めに思ふどち い群れてをれば嬉しくもあるか
【現代語訳】新しい年の初めに、気の合う友人たちと集まっているのは嬉しいものだ
【作者】道祖王(ふなどおう)
【採録】万葉集
【補足】
- 「新しき」は「あらたしき」と読みます
- 「思ふどち」は「気の合った者どうし、親しい者どうし」を意味します。
新しき 年の初めに豊のとし しるすとならし雪の降れるは
【現代語訳】新しい年の初めに、豊かな稔(みのり)の前兆となるのでしょう。(このように)雪が降っているのは
【作者】葛井連諸会(ふぢいのむらじもろあい)
【採録】万葉集
【補足】
- かつては、元旦の雪は豊作の予兆とされていました
新しき 年の始めの初春の けふ降る雪のいや重け吉言
【現代語訳】新しい年の初めの初春の今日、降っている雪のように良いことが重なりますように
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
【補足】
- 「いや」は強め、強調を表現します
- 「重け」「吉言」の読みは、それぞれ「しけ」「よごと」です
新しき 年の初めはいや年に 雪踏み平し常かくにもが
【現代語訳】新しい年の初めには、毎年、雪を踏みならして、いつもこうして(集まって)いたいものです
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
【補足】
- 「いや年」は「毎年、年ごとに」の意です
- 「雪踏み平(なら)し」は「雪を踏んで平(たいら)にして」と言う意味で、多くの人が訪れることを示します
- 「もが」は願望を表現します
あらたまの 年たちかへるあしたより 待たるるものは鶯のこゑ
【現代語訳】年が(最初に)戻る朝から待たれるものは鶯の声
【作者】素性法師(そせいほうし)
【採録】拾遺和歌集
【補足】
- 「あらたまの」は「年」にかかる枕詞です
- 次の歌が万葉集にあります
あらたまの 年ゆきがへり春立たば まづ我が宿に鶯は鳴け(大伴家持)
あらたまの 年をくもゐに迎ふとて 今日もろひとに神酒たまふなり
【現代語訳】(新しい)年を宮中に迎えるからと、今日多くの人々に神酒(みき)を下さる
【作者】藤原良経(ふじわらのよしつね)
【補足】
- 「くもゐ」は「雲、大空」の他に「宮中」を意味します
- 「たまふ」は「あたふ(=与える)」の尊敬語です。
昨日こそ 年は暮れしか春霞 かすがの山にはやたちにけり
【現代語訳】昨日年がくれた(ばかりな)のに、春霞(はるがすみ)があ春日の山に早くも立った
【作者】山部赤人(やまべのあかひと)
【採録】万葉集
【補足】
- もともとは万葉集の「詠み人知らず」の歌でした
昨日こそ 年は果てしか春霞 春日の山にはや立ちにけり
天皇の 御代万代にかくしこそ 見し明らめめ立つ年のはに
【現代語訳】天皇の御代(みよ=治世)は万代(ばんだい=永遠の意)まで、このように(年賀の)宴(うたげ)をご覧になるのだろう、新しい年の始め(ごと)に
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
【補足】
- 「天皇」の読みには「すめらぎ、すめろぎ、すべらぎ、すめらみこと」等があります
- 「としのは(年の端)」は「年の始め」を意味します。
年暮れぬ 春来べしとは思ひ寝に まさしく見えてかなふ初夢
【現代語訳】年が暮れた。春が来るだろうと思って寝ると、(夢でみたことが)まさしく見えて初夢がかなった
【作者】西行(さいぎょう)
【採録】山家集(さんかしゅう)
降る雪を 腰になづみて参ゐて来し 験もあるか年の初めに
【現代語訳】降っ(て積もっ)た雪に腰まで埋まって苦労してやって来た甲斐(かい)があった、年の初めに
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
【補足】
- 「験」の読みは「しるし」で、「効果、甲斐」の意味です
正月立ち 春の来らばかくしこそ 梅を招きつつ楽しきをへめ
【現代語訳】正月になり春がやって来たら、(今)こうしているように梅を招いて楽しいことをやり尽くそう
【作者】大弐紀卿(だいにきのまえつきみ)
【採録】万葉集
【補足】
- 「正月」の読み方は「むつき」です
正月立つ 春の初めにかくしつつ 相し笑みてば時じけめやも
【現代語訳】正月の春の初めに、こうして集まって笑っているのは季節外れだろうか(いや、けっしてそのようなことはない)
【作者】大伴家持
【採録】万葉集
【補足】
- 「正月」、「相し笑みて」の読みは「むつき(睦月)」、「あいしえみて」です
- 「時じ」は「季節外れの」と言う意味です
- 「やも」は詠嘆がこもった反語です。
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