俳句の季語で秋らしいもの、秋らしくないものなど 30【一覧】
伝統的な俳句にとって、季節感を表わす季語は重要なものとされています。しかし、季語に定められた季節が、実際に感じている季節とずれているように感じることがあります。
このページには、秋の季語の中でも秋らしいもの、秋の季語であっても秋らしくないもの、秋らしく思えても秋の季語でないものを集めてみました。それぞれを詠んだ俳句とともにも集めましたので、是非チェックしてみて下さい。
俳句の季語について
平安時代後期には和歌が主流でしたが、「季語」というものが成立していました。能因(のういん)が著した歌学書の『能因歌枕(のういんうたまくら)』には 150ほどの季語が記載されています。
連歌が成立した鎌倉時代には、季語についての議論も起こるようになりました。
俳諧が成立した江戸時代には、季語の数が著しく増加するようになりました。
そして、明治時代には従来の旧暦から新暦(現在使用されているグレゴリオ暦)への改暦がありました。
しかし、季語は旧暦にもとづいた季節を表わしています。ですから、私たちが慣れている新暦の感覚で「季語の表わしている季節」を受け入れようとすると、違和感を覚えるものが出てきてしまうのです。
そこで、実際にどのようなものがあるのか、これからみていくことにしましょう。
なお、秋の季語とされるものの時期は、現在の暦でいうとおよそ 8・9・10月に該当します。
秋らしい季語
まず、現代の感覚でも「秋」と感じられて、違和感がないものをみていきましょう。これらはすべて秋の季語です。
秋の暮
秋の暮 道にしやがんで 子がひとり
【作者】山口誓子(やまぐち せいし)
【関連】 「秋の暮」の俳句
秋日和(あきびより)
雲を見て 心ひらくる 秋日和
【作者】日野草城(ひの そうじょう)
いわし雲
いわし雲 想ひ幼き 日にのみに
【作者】中村汀女(なかむら ていじょ)
【関連】 鰯雲の俳句
十五夜
十五夜や すすきかざして 童達
【作者】村上鬼城(むらかみ きじょう)
月見
お月見や 畳にこぼす 花の水
【作者】高橋淡路女(たかはし あわじじょ)
【関連】 月見の俳句
とんぼ
晴れわたる 朝空早やも 赤とんぼ
【作者】星野立子(ほしの たつこ)
【関連】 蜻蛉(とんぼ)の俳句
長き夜
長き夜や 坂下り際の 月あかり
【作者】久保田万太郎(くぼた まんたろう)
【関連】 夜長の俳句
萩
見る人に 少しそよぎて 萩の花
【作者】高浜虚子(たかはま きょし)
松虫
松虫に 恋しき人の 書斎かな
【作者】高浜虚子
曼珠沙華(まんじゅしゃげ)
天の紅 うつろひやすし 曼珠沙華
【作者】山口誓子
【補足】秋のお彼岸の頃に開花する曼珠沙華は、多年草のヒガンバナ(彼岸花)のことです。死人花(しびとばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、地獄花(じごくばな)、捨子花(すてごばな)、狐花(きつねばな)、剃刀花(かみそりばな)、はっかけばばあなどの多くの異名を持っています。
紅葉
山紅葉 明けて一天 瑠璃なりき
【作者】水原秋櫻子(みずはら しゅうおうし)
【関連】 紅葉の俳句
夜寒(よざむ)
人知れず 夜寒の襟を たゞしけり
【作者】久保田万太郎
女郎花(をみなえし)
行秋に 袖も留るや 女郎花
【作者】加賀千代女(かがのちよじょ)
秋らしくない季語
次は、秋の季語とされていますが、現代の私たちの季節感からすると、秋とは思えないようなものをみていきましょう。
朝顔
朝顔に 風も吹かずよ 草の中
【作者】石田波郷(いしだ はきょう)
【関連】 朝顔の俳句
天の川
天の川 かはべにたてば 星の海
【作者】原 石鼎(はら せきてい)
盂蘭盆(うらぼん)
盂蘭盆や 道であひたる 俄雨(にわかあめ)
【作者】久保田万太郎
送り火
送火の 名残の去年に 似たるかな
【作者】中村汀女
踊り
よべ踊り けさ朝月夜 別れけり
【作者】大野林火(おおの りんか)
【補足】「踊り」とは、盆踊りのことを指します。
西瓜(すいか)
薄月夜 西瓜を盗む 心あり
【作者】正岡子規(まさおか しき)
【関連】 西瓜の俳句
七夕
七夕の 子の前髪を 切りそろふ
【作者】大野林火
【関連】 七夕の俳句
灯籠(とうろう)
灯籠の 火で飯を食ふ 裸かな
【作者】小林一茶(こばやし いっさ)
花火
月の下 花火瓔珞(ようらく) ぶらさがる
【作者】山口誓子
【関連】 花火の俳句
法師蝉(ほうしぜみ)
法師蝉 終りの声に 近づけり
【作者】山口誓子
【補足】法師蝉とは「つくつくぼうし」のことです。
星祭
天上の 恋をうらやみ 星祭
【作者】高橋淡路女
流燈会(りゅうとうえ)
夕焼は 一瞬にさめ 流燈会
【作者】山口青邨(やまぐち せいそん)
秋らしくても秋の季語でないもの
そして、秋の季語のように思えても、冬の季語とされているものを集めてみました。これらは、現代の暦でおよそ 11・12・1月のものとなります。
神無月(かんなづき)
神無月 畑の真中に 出来し道
【作者】原 石鼎
【関連】 神無月の俳句
木の葉
月の出や はらりはらりと 木の葉散る
【作者】正岡子規
小春
鶯の 其手はくわぬ 小春かな
【作者】横井也有(よこい やゆう)
芭蕉忌
芭蕉忌や 茶の花折つて 奉る
【作者】夏目漱石(なつめ そうせき)
【補足】芭蕉忌は旧暦の 10月12日で、桃青忌(とうせいき)、翁忌(おきなき)、時雨忌(しぐれき)とも呼ばれます。
初時雨(はつしぐれ)
初時雨 これより心 定まりぬ
【作者】高浜虚子
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